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いざ、リリーボレアへ

「兄貴がいなかった?」

「うん」


 旅券を買ったあとで合流するとファルは、

「兄が家にいなかった」と告げた。

 ファルは肩をすくめた。


「なんか、どっかの街に仕事を探しに行ったみたい。

 手紙が置いてあった」

「そうか。そりゃ残念だったな」

「うん、だからね、おいらも連れてってくれよ」

「そうだな、母ちゃんと二人でしばらく……。

 はあ? お前、いまなんつった?」

「耳がつまってるんじゃないの、ララン兄ちゃん?」

「本当に口の減らねえやつだな、お前は」

「いででででで!?」


 ファルはラランに口を引っ張られて叫んだ。

 アリエスはラランの手をぺしりと叩いてやめさせた。


「いでっ!?」

「ララン、やめて。

 ファル、本当? ついてくるつもりなの?

 お母さんは、なんて?」

「うん。……べー」ファルはアリエスの後ろに回りこみ、

 ラランに舌を出した。

「おいら、兄ちゃんを探したいし。

 母ちゃんも、行っていいって」

「ホントかよ」

「それに……、アリエスたちさ、

 なんかすごいことしようとしてるんだろ?

 おいらも連れてってくれよ。役に立つから」

「覚悟はできてんのか? 死んでも文句言わねえか?」

「死んだら文句は言えないよ。

 そんなの知らない。おいらは二人の役に立ちたいんだ」

「後悔すんなよ」

「しないよ」

「よし」


 ラランが拳をさしだすと、ファルはそれに応じた。

 ラランは満足げに腕を組むとアリエスをみた。


「おれはいいぜ。ファルがついてきても構わねえ」

「ほんと、乱暴なんだから……」アリエスはにらんだ。

「本当にいいの、ファル?」

「いいよ。友達だろ?」

「そのセリフ、ラランと同じだけど、いいの?」

「ええっ!?

 ……うーん。ちょっといやだけど、いいよ」

「ありがとう、ファル。歓迎するよ」


 感激して抱き合っているアリエスとファルを、

 ラランは納得いかない様子でみつめていた。


「いやってなんだよ、いやって……」



 ***



「戻ったぞ」

「ああ、おかえり。遅かったわね」

「ああ、そうだ。遅かった」

「その顔は、見つからなかったのね」

「ああ。どうも英雄祭には出場してらしたようだが、

 その先の足取りがどうもよくわからん。

 近隣の大きな街には行っていなかったようでな」

「で、戻ってきたってわけ? 手ぶらで?」

「経過報告だ!」

「あはは……。怒んないでよ、怖いわねえ」

「そんなこと、微塵もおもっていないくせに」

「あはは」

「そっちは? なにか変わったことはあったか?」

「変わったことねえ、あったといえばあったわねえ」

「ほう?」

「言わないわよ」

「なんだそれは……。いつも思わせぶりだな、お前は」

「うふふ……。ごめんねえ?

 でもまあ、取るに足らないことだから」

「ふん……。

 ? なにを読んでいるんだ?」

「目ざといわねえ」

「……旅券の発行記録? なぜこんなものを?」

「変わったこと関係。でも、飽きてきちゃった。

 予想が外れたのかも。おかしいわあ」

「さっぱりわからんな……。ん……?」

「なに?」

「アリエス……」

「ああ、一週間前に旅券を発行したっていう旅の剣士ね。

 お友達と二人連れの」

「ラランと、アリエス……」

「その二人がどうかしたの?」

「ラランという男は、英雄祭の優勝者だ」

「ふーん。ステラ様の金策を邪魔したってこと?

 功労者じゃない。勲章でもあげる?」

「勲章は、やらん」

「じゃあ、なによ」

「もう一つ、聞け。ステラ様らしき少年騎士は、

 アリエスという名を名乗っていたそうだ」

「へえ、そりゃちょっと面白いわね。

 英雄祭の優勝者と、

 ステラ様が一緒に旅してるってこと?」

「まあ、そうだな」

「どうする? 追いかける?」

「ああ。俺は行く。お前はどうする?」

「行くわよ。あたし、もう仕事、ないし」

「ふん。へばるなよ」

「休憩たくさんいれてくれるのよね?」

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