侵入2
窓から侵入する、といっても対策はされている。
一階に窓はない。
二階と三階にも窓はあるが、鉄格子がはめられている。
「……外から見るより高いな」
巡回が通り過ぎたタイミングで、
ラランは立ち上がって、二階の窓を見上げながら言った。
「届くか……?」
「大丈夫? ラランが無理なら……」
「まあ、やってみよう。アリエス、頼む」
「うん」
アリエスは屋敷を左手に、背筋を伸ばして立ち、
両手を前に出した。
ラランは靴をぬぎ、
アリエスの差し出した手に足をのせた。
さらに、そのまま「よっ」とアリエスの肩に乗る。
アリエスの頭をまたいで、両肩に足を乗せている格好だ。
「重い……」
「我慢してくれ。ちゃんと食べてんのか、お前?
踏みこみを間違えたら骨を折っちまいそうだ」
「折ってもいいよ。気にしないで」
「馬鹿いうな。いいか、斬るぞ」
ラランは、アリエスの肩の上で刀を抜き、構えた。
普段とは違ういびつな体勢だが、
よろめくようなことはなかった。
音もなく、二度、刀を振った。
ラランは斬った鉄格子を片手で取り、
足元で手を差し伸べているファルに渡し、とびおりた。
***
「大丈夫、誰もいない」
ファルが、アリエスの肩に乗り、
細く開いた窓の隙間から中をのぞきこんで言った。
「よし、入っちまえ」
ラランが言う。
今度はラランが一番下で二人を支えていた。
「重いな……」
「ちょっと! 僕は重くないでしょ!」
「お前が他の女と比べて軽いのかなんて知らねえし、
だいたい今は二人乗ってんだから重いに決まってんだろ」
「むー……」
「早くしなよ、アリエス」
いつの間にか窓から中へ入っていたファルが言った。
「いつの間にか」ということは、
「二人乗ってるから重い」っていうのは嘘になるのかな、
とラランは思った。
もっとも口には出さない。
その程度にはラランもアリエスに慣れていた。
「い……、よ、いしょっと」
アリエスは窓枠をつかみ、ファルの手を借り、どうにかよじ登った。
「はやくしてくれ。見回りが戻ってくる」
「うるさいよ、これ、すごく怖いんだから。
僕の足、放さないでよね!? 怖いから!」
「わかったわかった。静かにしてくれ。バレそうで怖い」
もうしばらくウンウンとうなってがんばった挙句、
アリエスは上半身を、
窓から中へ入れることに成功した。
さあ、もうひと頑張りというところで問題が発生した。
アリエスの下半身が窓につっかえたのだ。




