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道の果て

 おれが、アリエスの亡骸を見つめていると、

 誰かに声をかけられた。


「やあ、こんばんは」


 おれは声の主を探して、ゆっくりと首を回した。

 どうも視点が高すぎてよくわからないが、見当たらない。


「違うよ。私はそこにはいない。君の中にいるんだ」


 おれの中?

 どういう意味だ?

 こいつは、何を言っている?


 いや、違うか。

 おれの頭がおかしくなっただけか。


「いやいや、違う違う。

 君の姿はまあ、

 普通の人間とは多少異なるように見えるけど、

 精神の方はいたって正常だよ」


 そんな馬鹿な。

 こんなに苦しくて辛いのに、正常?

 これが正常なら、まだ頭がおかしくなってる方がいい。


「言葉って難しいね。

 そうだな。

 正常というのは、君の精神は元に戻れるという意味だ。

 まあとにかく、私の話を聞いてくれないか?

 どのみち、やることもないのだろ?」


 いやだ。

 おれは独りになりたい。


「そんなことを言わないで。

 もしかしたら、

 その子を生き返らせることができるかもしれない」


 ……なんだと?


「話を聞いてくれる気になってくれたかな」


 ああ。

 もしも嘘だったら、お前の頭をかみ砕いてやる。


「怖いね。でも、騙すつもりなんかないよ。

 あと、私はもう肉体なんかないから無意味だ」


 肉体がない?


「私は、クィナから竜の力を抜きとった魔法使いなんだ。

 つまり、千年前の人間だ。とっくに死んでる」


 は?

 クィナの知り合いか?

 いや、抜き取ったってことは敵なのか?

 じゃあ、ここにいるお前はなんなんだ。


「そうだね。

 私は、クィナに友人だと思っていてほしい者、かな。

 力の結晶の中に、

 ちょっとしたサプライズを仕こんでたんだよ。

 せっかく用意してたのに、

 本人は開けてくれなかったけどね」


 ……。


「さて。本題に入ろうか。

 君たちはいくつか問題を抱えているね。

 第一に、君は竜になって、暴走している。

 第二に、君は、君がアリエスと呼ぶ彼女を含め、

 たくさんの人をあやめてしまった。

 第三に、ビルハイド(レーゲンス)がまだ生きている。

 言い忘れていたけど、

 ビルハイドは私にとっても憎い仇でね。

 君がよければ是非とも協力したいんだ」


 ……お前なら、いま言った問題を解決できるのか?


「そうだ。そのとおり。話が早くて助かる。

 ほんの少し……、そうだな、一分くらいかな。

 私に、君の身体をあずけてくれないか?

 そうしたら、私が竜の力の使い方をみせてあげる。

 君を人間の姿に戻し、君の罪をすべて帳消しにする」


 おれの罪を帳消し?

 どういう意味だ?


「君が殺めた人々をすべて生き返らせる。

 アリエスや、死んだ王都の人々を復活させる」


 待ってくれ。

 竜の力を使う、と言ったな。

 それはおれにも可能なのか?


「ああ、可能だ。

 でも、私の力を借りず、自力でやるのはオススメしない。

 また力に溺れて暴走するだろう。

 そもそもこの術は複雑すぎるから、

 いまの君ではどのみち扱えない。

 君はまだ、その域にない」


 ……。


「とりあえず私の提案を聞いてくれないか?

 私のことが信用できないかもしれないが……」


 いや、わかった。

 あんたの提案を聞くよ。

 アリエスが生き返るなんて、

 そんな甘い言葉を聞かされたら、断れない。


「ありがとう。

 まずは、死んだ者を生き返らせる。

 そのときに、君は力の流れを感じていてくれ。

 操縦のコツ、というのかな、それをつかんでほしい。

 そうすれば、私の補助がなくても、

 君は自分だけで、力を操れるようになるだろう」


 力の流れ?

 おれは、魔法なんか使えないぞ。

 散々習っても使えなかったんだ。

 そんなの、無理だ。


「あれ? できるはずだけどな……。

 ちょっと、失敬……」


 なんだ? 失敬?

 何をした? 何をしている?


「少し、君の記憶をのぞかせてもらった。

 わかったよ。

 君が苦手なのは、文字だろう? 魔法じゃない。

 君は魔法が難しいものだと思ってるようだけど、

 そんなことはない。

 魔法は技術だ。ただの技術。

 君の得意な剣術と同じ。技術だ。

 むしろ、剣術を極めている君なら、

 魔法だってあっという間に極められるはずだ」


 そんな馬鹿な。


「そう。世の中はね、

 意外と馬鹿な仕組みでできてるんだ。

 君はきちんと緻密な稽古を積んできた。

 それは魔法の鍛錬と正しく等しい。

 だから大丈夫。

 君は十分に、この力を制御できる」


 ふうん。まあいいや。

 見てればいいんだな?


「やる気になってくれたところ、悪いんだけど……」


 ああ。悪いな。気分が。

 なんだ? なにかあるんだな。早く言え。


「代償が必要なんだ。

 君の寿命がいくらか欲しい」


 何年だ?

 何十年でも使ってくれ。

 このあとすぐ死んだってかまわねえよ。


「ざっと一万年分くらいかな」


 お前、馬鹿か。

 おれにそんな寿命があるわけねえだろ。


「あるんだよ。竜になった君にはね」


 は?

 ちょっと待て。おれの寿命はいま、何年あるんだ?


「ざっと三万年くらいかな」


 そんなにいらねえよ。

 もとの寿命になるようにクィナに返すなり、

 ここで使い切るなりしてくれよ。


「アリエスちゃんと一緒に死にたいのかな?

 意外とロマンチストだね」


 そ、そんなんじゃねえよ。

 ただ、おれは普通に、

 人間として人間の寿命で死にたいだけだ。


「まあ、いずれにしても君の寿命を調整するのは、

 私の仕事じゃない。

 君が自分で決めて、自分でやるといい。

 私はやらない。そこまでの余裕はない」


 ……わかった。


「よろしい。

 さあ、どうする?

 さっそくはじめようか?」


 ああ。いいぜ。はじめてくれ。


「じゃあ、やろうか。

 よく、見ておいてくれ。君の力の使い方を」

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