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第6街 ~~道路に寝転ぶのを楽しむひと~~

「あのっ……街法まほうって、どうやったら使えるんですか!?」


 とある日、オーネが"祝福"を終えての、帰り道。

 リッコは思い切って聞いてみた。


「え~? リッコちゃんがもう少し大人になったら使えるようになるわよ」


 それはいつもの返答だった。


「わたし、もう街守見習いですからっ! もっと詳しく教えてくださいっ!」


「それもそうねぇ。うーん、でも教えるって感じでもないのよねぇ」


 オーネは深呼吸してから、よいしょっ、とリッコを自分の身長より高く持ち上げた。それからくるくる回る。


「わわっ」

「これも街法の一環よ。昔ならともかく、今のリッコちゃんを筋肉だけで持ち上げるのは無理よ~。大きくなったわね~」

「えへへ~」

「街が認めてくれれば街法が使える。人が認めてくれれば街法が強まる。だいたいそんなイメージね。要するに、みんなと仲良くなればいいってこと!」

「うぅ、ちょっと自信ないです……ずっと街法が使えないってこともあるんですか?」

「あるっていうか……そっちが普通?」

「はわわ……」

「でも、街法が使えない街守もいるわよ? 使えなくなったパターンもあるし、使えなくても充分街の人に認めてもらえてればオッケー、みたいな感じね。それぞれ、色々なのよ~」


 オーネはよいしょ、とリッコを降ろした。


「でも、街守が指名した人は不思議と街法が使えるようになるのよね。街法をわけてもらってるのか、学びやすいのか、ホントのところはわからないけど……だから大丈夫! なんたってリッコちゃん、私のそばにいるんですもの!」


 自信満々に言って、オーネは胸を張った。


「そ、そうですよねっ! オーネさんに喜んでもらえるように頑張りますっ」

「ふふ、自分のためでいいのよ。元気にしてくれればそれで……とは言うものの、ねぇ。つい期待しちゃうわね。あなたの輝かしい未来」


 オーネは、街路樹を見上げる。


「ここの樹も、いつの間にか大きくなってる気がするわ。ずっと見ていると、変化に気付きにくいと言うけれど、ずっと見ていないのももったいないし……悩ましいわねぇ」

 

「どっちも楽しめる、ってことじゃないですかっ?」


 リッコの言葉に、オーネは振り返ってほほ笑む。


「ああ……その通りね。どっちの道も正解のほうが、楽しくていいわよね」


「はいっ。オーネさんは、どんなお仕事してても、楽しんでる気がしますっ」


「ふふ。きっとそうね」


----------------------------------


「ふぬぅうううっ……うぅうんっ!」


 帰宅後。

 家の庭でリッコは精一杯力んでみたが、街法が発動する様子はまったくなかった。


「こうよ、こう。ふー……」


 オーネが深呼吸すると、オーネのお腹を中心に、オーネの体がほのかに輝いている。


「見えるならちゃんとセンスがあるから大丈夫。ゆっくりやりましょ」


「はーい……」


 少しふてくされながらリッコは答えた。


「ふふ、力の入れ方をどうこうするより……街を歩いてきたほうが街法に近づけると思うわよ? 知らない場所を見つけたり、知らない人と話したり、ね?」


「そ、そうですよね……あのっ、オーネさん」


「なぁに?」


「友達って……どうやったらなれますか?」


 オーネは目をぱちくりさせた。それから空を見上げ、考える。


「そうねぇ……。私はやっぱり、一回遊んだら友達でいいと思うけれど……。長い時間一緒に、とか……。なんでも話せる、とか……。一緒の夢を追いかける、とか……。特別な友達は、確かにいるわね。それはきっと……運、いいえ、"えん"ねっ!」


「縁、ですかっ?」


「そう、縁。運命でもいいわ。素敵なめぐり合わせ。どこかに行けば、何かが起こる、誰かに出会う。それを楽しんでらっしゃい」


「うーん、なんだか難しいけど……やってみますっ!」


「よしっ、リッコちゃんゴー!!」


「はいっ!!」



 リッコは駆け出した。


 坂道も曲がりくねった道もなんのその、風のように軽やかに、龍のように威勢よく。


「うぉおおっ、あっでもこれ走ってるだけじゃ誰とも話せなぎゃふんっ!?」「うにゃっ!?」


 そしてそのまま、誰かにぶつかった。


「いたたっ、ごめんなさいっ」


 リッコはがばっと頭を下げて謝る。

 リッコがぶつかった相手は、綺麗にひっくり返っていた。大きさ的にはリッコと同年代のようだが、リッコのほうがパワーがあるようだ。

 そのまま動かないので、リッコは焦る。


「だ、大丈夫ですか……?」


 リッコがおそるおそる声をかけると、相手が目だけリッコに向けた。


「寝転んでごらん」


 爽やかな声でつぶやくと、ちょいちょい、と指で招く。

 

「えっ? でもここ、道路ですけど……」


「こんな道、誰も通りやしないよ。ほら」


 促されて、リッコは隣に寝転ぶことにした。

 二人並ぶと、道は誰も通れないくらい細い。


「屋根と洗濯物で、空が切り取られて……窮屈だ。でも、時々横切る白い鳥が、広がりを感じさせてくれる。硬くて少しデコボコした石畳の感触もいい。ちょっとした牢獄の気分だ。悪いことをしているかな?」


 リッコは、隣にいるのが男の子か女の子かよくわからなかった。ついでに言っていることもよくわからなかった。

 でも楽しそうなのでいいな、とは思った。


「道路で寝るのは……ちょっと悪いことな気がしますっ」

「邪魔になればね。まだそうはなってない。転ばぬ先の杖で石橋を叩いて壊すのは本末転倒だ。つまり、このくらいは自由の範疇ってことさ」

「ほえー……」


「僕はベルタ。きみは?」

「あっ、リッコですっ」

「よろしく。きみが街を駆け回る姿は印象に残っているよ。その内、描かせてくれ」

「絵描きさん、なんですか?」

「そうとも言える。戻らない瞬間を切り取る係さ。少しのおかしさを添えてね」


 ベルタは間近でリッコを見つめる。リッコは思わず照れた。


「こんな路地裏に、顔が二つ転がっている。それだけでもう面白いだろう?」

「うーん……床で寝るのは、ちょっと面白いって思います」

「そういう感じ方もある」


 ベルタは穏やかに頷いた。それから空に向き直って、静かに目を閉じた。


「ありがとう。きみのお陰で、この景色を知れた。しばらくこうしていさせてくれ」

「じゃ、じゃあわたしも……いいですか?」

「うにゃ。……もちろん」


 それから二人は、通行人が来るまでの長いような短いような時間、そこでのんびり地面を楽しんだのだった。 

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