第12街 ~~真夏に赤い鍋を囲んで~~
とある日差しのまぶしい昼下がり。
「うぅ、暑いよー。ジェラートが食べたいよー」
リッコはじりじりと日に焼かれ、ゾンビのような足取りで、なんとか日陰にあるベンチにたどり着き、どっかりと座った。
すると、
「暑いわね」
隣に座っていた女の子が、独り言のように言った。
「あっうん、そだね」
リッコは話しかけられたのかと思い、返事をした。
女の子がゆっくりリッコの方を向く。
リッコと同じくらいの年齢だろうか。気の強そうな釣り目がちょっと怖いな、とリッコは思った。
「それでも鍋が食べたいわね」
「鍋っ? この暑いのにっ?」
リッコは驚きすぎて立ち上がってしまった。
女の子はすまし顔で首を傾げる。
「あら。鍋、美味しいでしょう?」
「美味しいけどー。お肉も魚も美味しいけどー」
リッコは特に、近くの海で捕れる魚の鍋が好きだった。思い出して口の中でヨダレが出るのを感じた。
「その気になれば、食べれるのよね。ただ、単に暑い中食べても美味しくないし……どうしようかしら」
「冬に食べたら……?」
「今食べたいのよ。私、やりたいと思ったことはすぐやるルールなの」
「そ、そうなんだ」
「私、セナ。あなたは?」
「あ、わたし、リッコ」
セナは手の平に文字を書くような仕草をしながら、「リッコ、リッコね」と確かめるように言った。
「ダメね。私じゃ思いつかないわ」
セナは勢いよく立ち上がった。それからリッコを見下ろして、
「よかったら手伝ってくれる?」
「えっ、何を?」
「私じゃ思いつかない。なら、誰かに聞いてみるのがいいわ。そうでしょ?」
セナは当然のようにそう言った。
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というわけで、二人は一通り道行く人に聞き込みをしてからベンチに戻ってきた。
「ご苦労様。はい」
セナはリッコに瓶ラムネを渡す。自分用にもう一本持っている。
「わぁっ、ありがと!」
リッコは瓶ラムネを青空にかざす。
きらきらと輝く瓶の中に、透明の液体。ビー玉でフタがされているタイプのものだ。
リッコはさっそく、ギュッとやってポンとやってフタを開けた。
ラムネが瓶からあふれ出す。
「はわわっ」
「落ち着いて。しばらく押さえてればいいのよ」
セナはリッコの代わりにフタを押さえ続けた。ラムネの勢いが収まったところで手を離し、その手のひらをペロリと舐めた。
「私、こっちにするわ」
「え? でもこぼれちゃったし……」
「いいのよ。そんなにノド乾いてないし」
セナは自分が持っていたほうの瓶ラムネ(開封済み)をリッコに渡し、どっかりとベンチに腰掛けた。
「あ、ありがとっ」
「それで、結果は?」
「えっ?」
「聞き込みのよ。こっちは『冷やし鍋』がアリって情報を掴んだわ。冷たい鍋なんてあるのね」
「へー、具は?」
「野菜とか。肉は鶏とか豚とか。まあ、普通の鍋と同じ感じね」
「それもよさそう! えっと、こっちはね……辛い鍋?」
セナの眉がピクリと動く。
「辛い、鍋?」
「う、うん。『カッチュコ』だって。ブロデットとソッフリットを作ってスープはブルスケッタですくって食べるんだって」
「えっえっ? ちょっ、ゆっくりお願いしてもいいかしら?」
リッコはゆっくり説明した。セナが理解するまで、しばらく時間がかかった。
「あなた……説明、慣れてないわね」
「そ、そう? オーネさんには結構してるけど」
リッコは首を傾げた。セナも首を傾げた。
先に立ち直ったのはセナだった。何かに納得がいったように手をポン、と打ってから、
「……まあいいわ。とりあえず5種類の魚と、唐辛子と、ニンニクやらタマネギやらをオリーブオイルで炒めたもの、あたりがルールかしら。お小遣いで足りればいいけど……」
「作るの?」
「もちろん。ああでも、火が必要ね」
火は龍が吐くものなので、神聖なものだ。
なので、大人がいる時しか扱ってはいけない。
「その辺のおじさんおばさんを捕まえればいいでしょ。後で考えましょ。行くわよ」
「そ、そんなんでいいのー!?」
二人はベンチから立ち上がり、駆け出した。
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真夏の広場の真ん中で、一時間かけて調理が行われた。
鍋に水を張って野菜を煮込み。
魚を三枚におろしてアラを煮込み。
オリーブオイルでトウガラシなどを炒め。
多種の海の幸を煮込み。
赤ワインは少量入っているが、リッコとセナが未成年なのでしっかりアルコールを飛ばし。
ニンニクをすり込んだブルスケッタ(薄くスライスしたパン)を添える。
「ぜえぜえ……やり遂げたわね」
「暑くて……どうにかなっちゃうよー」
リッコもセナも、快く協力してくれたおじさんもおばさんもひどく汗をかいている。
広場の真ん中のテーブルに、どかんと鍋ひとつ。
鍋の底には火の魔石ボードが敷かれ、さらにその下に熱を通さない石のボードが敷かれている。
火の魔石ボードは煌々と赤く輝いている。
鍋はいい具合に煮えている。
セナはおじさんおばさんに助けられながら、ほとんどの工程を行った。包丁さばきが大胆で、上手だった。
リッコも、(オーネと一緒に)料理はよく行っているので、かなり手伝いつつ、食器の準備やゴミの片付けなどに駆け回った。
セナは、なんやかんやでいつの間にか七人に増えていたおじさんおばさんに深く頭を下げる。
「皆さまのご協力、感謝します。人数分ありますから、一緒に食べましょう」
うぉおおー、と歓声が上がる。
ワインを飲んで酔っ払っているおじさんもいる。
「皆さん、席に着かれましたね? では高らかに……いただきます!」
みなで挨拶をして、ちょっとした宴会が始まった。
「どれ……あむっ」
セナは意を決して、スープに浸したブルスケッタを大きな口で食べた。
「ど、どう?」
リッコはまだ自分の分には手を付けず、おそるおそるセナを見ている。
実はリッコは、家ではあまり出てこないので、辛い食べ物に慣れていなかった。
セナは何やら険しい顔のまま。
ノドがゴクリ、と動いた。
「かっ……らー! ……い、ってほどではないわね。でも汗はかくわ。うん……夏に、アリね!」
セナは腕で大きく〇を作った。
「そ、そうなんだ」
リッコはブルスケッタを持ったまま、まだ固まっている。
「……リッコ? 私の"今やる"ルールに、無理に付き合わなくてもいいのよ?」
セナは優しく声をかける。
リッコは、少し目を閉じて考えてから、
「……ううん! せっかくみんなで作ったんだから、食べてみたい!」
と元気よく宣言して、ブルスケッタとパクッと食べた。
「あむっ。……っん~~~!!」
ざあ、と額から汗が出て。
体が一気に熱くなる。
同時に、何か爽やかな風が吹き抜けたような心地よさ。
「わあっ……これ、すごいね!」
リッコははふはふ、と口の中を冷ます。
「でしょ? 勉強になったわ。あなたのおかげよ、ありがと、リッコ」
「ううん。……せ、セナちゃん」
二人は握手を交わす。
「あら。セナでいいわよ?」
「そ、そう? じゃあ……セナ」
「よろしい」
二人は笑い合った。
それから鍋を食べ終わるまで宴会は続き、しっかり片づけてから、みな笑顔で解散したのだった。
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「おかえりなさい。もぉ。聞いたわよ、リッコちゃん。私も混ざりたかったわ~」
「ただいまですっ。あっすみませんオーネさん、勝手に食べてきちゃって……」
「それはいいのよ~。ふふ、リッコちゃんが辛いのいけるなら、グツグツのドロドロを作っちゃうわよ~」
「えとえと、まだ手加減して欲しいかもっ…です!」




