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神無き世界  作者: ヤング丸
序章 始まる物語
8/20

序章 第五話 領域狩猟 Ⅱ


 試験が開始して60分。

 総遭遇(エンカウント)数32。


 僕はただひたすらに中央の大山を目印に集合場所へ向かっていた。


 【アイアン・スパイダー】以外は全てランクFとかなり運がよく、ブレスレットに書かれているポイントは35p。

 恐らく全体の順位的には中堅を維持できている筈だ。


『カァアアアア!!』


「っ!!」


 正面からはゴブリン二匹。

 そして僕の後方に地面から突如現れたモンスター。


 【ソイル・ラット】 怪物等級(モンスターランク)F


 同時に3匹。

 かなり不味い状況。


 しかし今日は少し違った。

 身体が少し軽く、頭もよく回る。

 まるで魔力総量が増えたかのような不思議な感覚だった。


「はあ!!」


 一度目の踏み込みはゴブリンに向けて大きく接近し、攻撃を誘う。

 すると二匹のゴブリンはほぼ同時に、右手に持つ石の斧を思いっきり振りかぶる。


[ここ!!]


 全力のステップに見せかけたイルファルドの演技。

 結果ゴブリン達の予測する地点より手前で止まったイルファルドには、攻撃は当たらず代わりに石の斧が空を切る結果となった。


 しかしゴブリンにできた隙は、決して大きくはない。

 後方から接近するソイル・ラットも気にしなければならない現状では、止めを狙えるのはどちらか一方。


「ふっ!!」


 狙ったのは右の個体。

 見事にイルファルドの攻撃は魔臓に命中した。


『カアアアアア!!』

『チィイイイイ!!』


 残った2匹による挟み撃ち。


 ここで経験が役に立った。

 【アイアン・スパイダー】戦で得た経験。

 両足だけによる身体強化の有用性を。


 僅か一瞬分の貯め。

 両足に込められた魔力を爆発させ、ギリギリのところで跳躍。

 攻撃の打ち合いの苦手なイルファルドが、手に入れたアーツはここで実践投入された。


「はっ!!」


 〈フィア・ブリンガー〉と〈フィア・ナイフ〉の同時攻撃。

 落下の勢いが乗った攻撃は、モンスターの魔臓に当たらずとも破壊する威力を有していた。


 +3ポイント


「よし!!上手くいった」


 今思えば僕史上、初のアーツ。


「名前は【魔翔斬り】。こういう感じかな」


 こんなところで喜び、名前など考えている場合ではないが、つい考えてしまう。

 仕方がないじゃないか。


 自分のアーツ名を必死に考え、一喜一憂、妄想を繰り返すことなど、きっと男の子なら一度はある筈なのだから!!


 しかしそんな悠長にしているイルファルドを、突如として現実に引き戻すそれが現れた。


「!?」


 劈くような鋭い魔力。

 野生で磨かれた殺意の塊。


 ブレスレットのおかげで試験で死ぬ、という事は無い筈なのに生命的本能が明確な死を告げる。

 実力の差。


「Dランクモンスター…!!」


 イルファルドは咄嗟に木陰に隠れた。


 【グリアル・レーベ】 怪物等級(モンスターランク)D


 獅子のような身体を持ちながら、雄大な両翼を持つ。

 魔力漂う鬣からは、かなり濃い魔力を垂れ流す。


[気が逆立っている?]


 距離がある程度あるにも関わらず聞こえた唸り声。

 受験者との戦闘が原因だろうか。


 一先ずこの場所を離れなければならない。

 もしも見つかってしまったら逃げるのは、かなりの困難を極めるからだ。


 この試験において、ほぼ討伐が不可能とされるDランクモンスター。

 ボスモンスターといっても過言ではない、モンスターの設置はきちんと理に適っている。

 これは他でもない危険時の離脱や見つかった際の逃走がちゃんとできるか、という言わば項目の一つ。


 中にはボスモンスターを討伐する天才も居るらしいが、実力が見合わない僕には不可能。

 今年の受験者でできるとしたら、恐らくセシルのみ。


 幸いなことにDランクという強大な存在のおかげで、EランクやFランクの下位モンスターはほとんど出現しない。

 僕と同じく生命的格差を感じ取るからである。


 もう間もなく森林地帯を抜け、高山地帯に入る。

 ミーナは大丈夫だろうか、という思いを胸に残り少しの森林地帯を駆け、いよいよ高山地帯に入った。


 そこでブレスレットが『ブー』と振動だし、思わず身体を強張らせてしまう。


「震えてる?それになんか光って」


 僕は振動しているブレスレットを見た。

 するとついさっきまで何もなかった筈のブレスレットの中心、装飾部分が発光している。


「まさか故障!?」


 緊急離脱ができなくなるんじゃないか?

 ポイントの換算ができなくなるんじゃないか?


 一人で焦っているとポチッと、僕の指がたまたま発光部分を押した。


 するとブレスレットの上には簡易的な魔力モニターが現れた。


「38p。これって今のポイントだ」

 

 説明でそんなこと言ってたか?となったが開発者が外ならぬシュミター。

 きっと正しい情報が入らなかったのだろう。


 モニターには自分のポイントの他に、時刻や現在のランキングトップ5位が書いてあった。


「やっぱりセシルが一位」


 セシル・ランクルス ランキング一位

 ポイント


 146p


 圧倒的だ。

 二位との差は50p以上。

 だがなんら驚く事は無い。

 セシルなら当然だ。


「ニャシミアさんは書いてないか」


 僕は勿論ニャシミアさんの名前もない。

 未だランキング圏外。


「急がないと」


 僕は合流地点に向け走り出す。


 現在のペースでは確実にセシルには追いつけない。

 だが勝つ算段はある。


 その為にも早くミーナと合流しなければいけない。


 ここからは高山地帯。

 飛行するモンスターも増えてくる。

 翼も魔法もない僕には限りなく効率が悪く、厄介。

 【身体強化】による加速で合流地点に向かいたい気持ちがあるが、僕の少ない魔力量では決して長持ちはせず、強化幅も決して大きくはない。


 故に全力で走る。


「まあ来るよね…!!」


 上空から現れたのはランクFの鳥型モンスター。

 【ラークリ・イーグル】


 飛び道具がないイルファルドにとって最も避けたかったモンスター。

 しかし逃走の選択肢はない。

 勝ってポイントを獲得する。


「ここからは積極的にポイントを稼ぎながら…向かう!!」


 抜剣するのは〈フィア・ナイフ〉のみ。


 敵は僕では到達できない上空。


 【ラークリ・イーグル】は基本的に近接攻撃しかない。

 その瞬間を狙う。

 素早さは対応可能。

 狙うはカウンター。


「ふっ!!」


 嘴による強襲。

 それをギリギリまで引き付け回避する。

 引き付けた結果、小回りが利くナイフにより見事、魔臓へ命中した。


 接敵して討伐まで一分弱。

 調子がいいのも重なり過去最高レベルで効率がいい。

 昨日発現したスキルに効果があったら、もっと効率が上がっていたのでは?と思ってしまうが今日は今までの自分を出す場所。

 かえって邪魔になっていたかもしれない。


 それでもスキルは使いたかったが。


 すると討伐直後に更にモンスターが現れた。

 今回はどちらも非行型ではない。


 勝って先に進む。


「押し通ります!!」




────────────────────────────────────


 試験場 南西


 既に何人かの冒険者は水中に潜ったが、水中での狩りは困難を極めていた。


 試験を開催している騎士団は、水中での戦闘を選択した受験者の6割はリタイアする見込み。

 水中では専用の装備や特化した魔法、最低でも水中戦の慣れは必須。

 特に水中は翼のある天空人は避けたい。


 時にポイントのように無理してでも何かを手に入れなきゃいけない状況で、自分の実力を理解して避けれるか。

 ここで合格すれば冒険者ということは=【生死を分ける世界】に入るも動議。


「海人は羨ましいニャ~」


 しかし無謀にも挑戦し、ポイントを荒稼ぎしている人物がいた。

 彼女は持参した水中専用装備を装着し、縦横無尽に駆け巡る。


 彼女の格言


 【道具は使えるだけ使え!!そしたら何でもできる!!】


 商人として入荷した商品を使い、自分には不向きな領域(フィールド)で戦う。

 専用のスーツで。

 専用の銛で。


「ポイントゲット~ニャ~」


 ニャシミア・C・ケット。


 「もっと行くニャよ~!!」


 獣猫人(キャットヒューム)特有の異次元の脚力。

 その加速は全種族の中で最速とも揶揄される。


 しかしその加速は本来陸上でのもの。

 水中では、海人大陸に住む海人の方が力も素早さも圧倒的。


「とか思われてるんかニャ」


 彼女に装着されているスーツは水中戦での筋肉の疲労、魔素の吸収を促進させ誰でも陸上と同じ感覚を持つことができる。

 足に取り付けられているフィンは、体内から魔力を放出させ本来以上の機動力を得ることが可能。


「楽ちん楽ちん~」


 試験開始から1時間と少し。

 初めて遭遇(エンカウント)したとは思えない勢いでポイントを稼いでいく。


「ぷはー!!休憩ニャ」


 69p

 これをたった二十分で稼いだ。


「これで勝てるかニャー?」


 全身に身に着けているスーツを解除し、ほぼ下着のみの全裸。

 誰かに見られてないか、気にしそうなものだがニャシミアは良くも悪くも恥じらいがない。

 きっとイルファルドが出くわしてしまったら、顔を真っ赤にし全力の逃走を図るだろう。


「飽きるまでここで…」


 それはニャシミア達、本能の強い獣人だからこそ、いち早く感じた。

 全身の毛が逆立つような。

 この島に存在しない強大な何かが近づいているような。

 そんな気配。


「なんニャ?」


 耳を澄ませ音を探るも何も聞こえない。

 しかしニャシミアは確かに感じた、謎の存在。


「何も起こらなければいいけど」


 この時のニャシミアは普段の語尾を忘れ、確かに鋭い殺気を出していた。


「予言は本当なのかしら」


 水中に入る前に身に着けていた衣服に袖を通した。

 彼女が向かう場所は中央の大山。


「おばあ様。これでいいよね」


 お得意の脚力を使い駆けて行く。


─────────────────────────────────────


 試験開始から2時間と30分。

 もう少しでお昼時が終わろうとしていた時。


「やばいやばいやばい!!」


 イルファルドは走っていた。

 何からか?

 そんなの決まっている。


 モンスターからだ。


「何でこんなに!?」


 総数こそ6匹と少ないが全てEランク。


 何があったか。

 それを語るには少し時間を遡る。

 高山地帯で戦闘を繰り返しながら合流地点に向かっていたイルファルド。


「モンスターが少ない?」


 そんな違和感を持って走っていた。

 いつもなら僕に向けてわんさかとモンスターが襲い掛かってくるのだが。


 それに不自然な魔力がそこには残っていた。

 まるで魔力が大きすぎて染みついちゃっているような。

 この状況は虫よけスプレーならぬ、モンスターよけスプレーがかかってるみたいだ。

 そんなこんなで順調に進んでいたのだが。


「え?なんで…!?」


 何故かEランクモンスターの群れがそこには居たのだ。

 【アイアン・スパイダー】や【ミネルスージャ】【フィルド・ホーク】といったモンスター達が。

 この時気づくことができなかったけれど、恐らく魔力が染みついていなかった場所、もしくはその効力が切れたのだろう。

 そうして現在へ。


[戦ったら確実に負ける!!絶対にダメだ!!]


 Eランクでこの数は調子がいいとしても、どうこうなる話しじゃない。

 きっと1分もしないうちに僕は瞬殺される。


 更には何か障害物を挟んで逃げようにも、ちょっとした岩程度しかなく全く意味をなさない。

 そもそも【フィルド・ホーク】という非行型モンスターが居る時点で岩では無意味。


 かなり走り続け、息も切れてきた。

 今でこそ引き離せているがもしもスタミナが切れたら…

 早く何か打開策を。


 すると次の瞬間。


『空飛びし盟友 鼓動の軌跡 汝らに大いなる天空の加護あらん』


 それはイルファルドとモンスターの間に舞い降りた、僧侶。

 魔力が高まるにつれ、翠色の光がより濃く展開される。


『【リセル・アールグリム】』


 魔法の効果。

 それは全ステータス上昇のバフ。

 セシルの【テンペスト・ガーメント】と並ぶレアマジック。

 イルファルドがセシルに勝つための必須パターン。


「ミーナ!!」


 まだ目的地にはもう少しあるこの地点で合流したのだ。

 タイミングは完璧。


「なんでここに」

「話はあと!!まずは片づけましょ!!」


 ミーナは前衛の僕よりも先に全線に出た。


 もともと魔力総量はミーナの方が大きい。

 故に【身体強化】をした時の爆発力はすさまじい上に、現在のように全ステータス上昇バフがあると普段、剣や槍といった近接武器は使用しないもののミーナの…


「オラァア!!!」


 ステゴロでモンスターを倒しまくるという、とても僧侶の立ち回りではないスタイル。

 実際このような冒険者試験ではそんなミーナはかなり刺さっており、バフも使え回復や近接もこなすという超万能型(オールラウンダー)といってもいい。


 だがミーナだけに頼るわけにはいかない。


「まず一匹!!」


 ミーナのバフを受け取った今となっては、Eランクモンスターの討伐もそこまで難しい話ではない。

 全ステータス上昇は単純な数字だけではなく動体視力や聴力なども強化されている。


「どっちが多く倒せるか勝負する?」

「流石にそこまで余裕ないよ!?」


 あんなに苦労して倒した【アイアン・スパイダー】にあっさりと攻撃が入るまで強化されたステータスは、中域の【身体強化】と同等の出力を誇っていた。


「残り一匹!!お願いイルファ!!」


 残ったのは【フィルド・ホーク】

 やはり上空から隙を伺っている。

 本来なら【ラークリ・イーグル】の時のように、カウンター前提で動かなければならないが今は違う。

 この状態なら。


「届く!!」


 足に【身体強化】でステータスを上乗せし全力の跳躍。

 それは余裕で家を飛び越えられる高さまで飛翔していた。


「討伐完了。ありがとうミーナ。助かったよ」

「全くよ。たまたま会えたから良かったけど」


 ミーナ曰く元々高山地帯に転移(テレポート)されたらしくどちらかと言えばイルファルドの到着を待つ側だったらしい。


「ここにセシルも居たわよ」

「!!」


 僕の通ってきた道に残っていた不自然な魔力の痕跡。

 あれはセシルの持つ魔法【テンペスト・ガーメント】の残影的なものだった。


「セシルもまだこの辺に?」

「分からないわ。見たのは最初の一瞬だけ。その後はそそくさとどっか行ったし。それにポイントも凄いことなってる。どうするの?」

「作戦はある。南東に行く道すがらに説明するよ」


 一刻も早く狩場にしようとしている南東に向かうため、ミーナと二人で駆け出した。

 バフの効果もありかなり早く着きそうだ。


「それで何なの?勝つための作戦」

「勝つためには条件が二つある」


 一つはミーナの超チート魔法の有無。

 これがあるとないとではまるで違う。


 そしてもう一つは僕達にどうこうできる問題ではなくセシルの身に確実に起こること。


「もうそろそろセシルの周りにモンスターが出現しなくなるんだ」

「え?なんで?」


 この問題の解決は不可能。

 何かアイテムがある場合は分からないが、起こることはモンスターの本能的問題。


「セシル程の実力なら見つけて補足さえすれば確実に討伐でき、効率の良さも僕とは段違いで良い。そんくらいセシルは強い」


 間近で見たきたセシルの戦いぶり。

 それをよく知るからこそ分かる。

 そんなセシルに何故モンスターが現れなくなるのか。

 それは何か。


「答えは簡単だよ。モンスターがセシルを恐れ、避けるようになる」


 僕がつい先ほど【グリアル・リーベ】から逃げたように、セシルからモンスターは生命的格差を感じ、補足される前に逃走、もしくは隠れるからだ。

 自分が生きる為に脅威を避けるのは、人もモンスターも同じ。


「でも何で最初はあそこまで稼げたの?」

「それは多分、僕達が一斉に転移(テレポート)したせい。誰が脅威かもわからず混乱。仲間がやられそこに行くとセシルが居て交戦。きっとこうだと思う」


 言わば最初のみ発動するボーナス。

 スタートダッシュのようなもの。


「だからここから追い上げる。打開するしかない!!」


 既に合格は確定的と言ってもよいポイントを稼いでいるセシル。

 本来ならこれ以上無理する必要もないのだが、セシルは全力で勝ちに来る。


 獅子は兎を狩るにも全力を出す。


 セシルは決して油断せずに最後まで戦う。

 だからこそ最初のボーナスでここまでのポイントを稼いだんだと思う。


「追いかけて追い越す!!だからお願い。一緒に戦ってミーナ!!」

「分かってるわよ。その為のパーティーじゃない!!」


 目の前に現れるモンスター。

 全てFランクで群れ。


「よし!!行こう!!」


 逆転に向けての一歩だ。


─────────────────────────────────────


次回 深緑の獣

 【天空大陸】

 世界の北西側に存在している。

 基本的には翼が生えている天空人が多く住んでいる。


 大陸と名が付いているが、数々の浮島で形成されており中央にいる天神竜のおかげで一つの大陸かのように島を気流で縫い留めている。




 【キャラクタル大陸】

 世界の中央にあり最も栄、最も人口が多い大陸。

 人種で言うと人族が多いが多種多様な種族が住んでいる。

 獣人やエルフ、他大陸の人種など。


 技術が他の大陸よりも優れており、宇宙まで行くことが可能とされるバベルの塔など未だ古代の遺物も多く存在する。


 武力という面では平均的だが一部の強すぎる者達が存在し、それは最強と名高いドラグマ大陸と並ぶ。


─────────────────────────────────────


あとがき


 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 かなりぎりぎり…

 次回の第六話は火曜日までに出せるようにします。


 今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 またブックマークなどもとても励みになります。


 何卒よろしくお願いします。


 それではまた!!

 

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