序章 第二話 廻る流星
すっかり日は沈み、月が見えるようになった時間帯。
僕は家に着いた。
かなり災難な目にあった一日だったが、帰路に就いてからは殊の外スムーズにいき、遭遇は五回。
そのどれもが昼間の群れとは違い、単一の個体。
流石の僕でもFランクの単一モンスターには負けやしない!!
「ただいま」
玄関に入るととても良い香りが僕の嗅覚を襲った。
「おかえりー。もう少しでご飯できるから荷物を自分の部屋に置いてきなさーい」
「はーい」
良い香りのする料理は、きっと誕生日のお祝いだ。
セシルと誕生日が近いこともあって纏めて開かれる僕達の誕生日会。
世間をほとんど知らない僕でも分かる。
母さんの料理の美味しさはきっと天空大陸一。
今でこそ主婦をしているが結婚する前は、世界に名を轟かせる程の料理人だったとか。
義理の息子とは言え、そんな人の息子ってかなり幸せ者だ。
そんなことを考えていると、僕の隣の部屋の扉が、ギィィ、と音を立てて開いた。
「ただいま。セシル」
部屋から出てきたのは僕の兄弟セシル。
既に風呂に入った後なのか、少し髪が濡れている。
「セシル…!!」
呼び止めた僕の声に、セシルの視線が一瞬こちらを向いたが視線は直ぐに外れ、言葉を交わすことなく通り過ぎていく。
三年前のあの日から僕達兄弟の間には、壁ができた。
最近はほとんど言葉を交わすことがなく、無視をされる日々。
父さんの訓練を一緒に受けていた頃はこんな感じではなかったのに。
「後で話がある」
「え…?」
それは通り過ぎたセシルから出た言葉だった。
僕は振り返ったがやはりセシルは一瞥も返さない。
「わかったよセシル」
何年振りだろうかという程のセシルからの言葉に一瞬戸惑ったが、反射気味に了承した。
その後それ以上の言葉は互いに交わさず、セシルは廊下を歩いて行った。
[え?なんで急に?]
そんな疑問が脳内を駆けた。
兄弟からの言葉に喜んでいいものか。
それとも三年前のようなことが待っているのか。
そんな疑問だった。
「お。帰ったか」
考えを巡らせながら自室に荷物を置いた頃、今度は父さんが自室の扉を開け訪問してきた。
父さんも風呂を済ませた直後だろうか。
髪が濡れている。
「ただいまー」
「ちょうどいいな。セシルもついさっきライフツリーに経験値を割り振ったし、イルファも今するか」
「え!?いいの!?いつも月に一回なのに?」
「明日は試験だろ?ステイタス、スキルを少しでも伸ばした方がいい。してなかったのが原因で、怪我でもされたら父さん泣くぞ」
「あ、あはは…」
[万が一今日みたいに不運が重なったりしたら…まぁ今日がこんなにひどかったからないだろうけど]
そう前向きに考えだしたその時、父さんは腰につけてあるポーチから一枚の布を取り出した。
魔法名【ライフツリー】別名【命形の木】。
普段のモンスターとの戦闘や訓練で蓄積された経験値が、【ステイタスポイント】【ライフポイント】数値に反映される。
【力】【生命力】【敏捷】【器用】【幸運】を上げる【ステイタスポイント】、別途貯まっていく【ライフポイント】で新たなパッシブやスキル、魔法を開花させる。
ちなみに【魔力総量】はステイタスを上げる事で上がっていくのだが、僕は低域。
【魔力総量】はかなり個人差がある為、かなりの差が出てくる。
「そんじゃ、そこの椅子に座れ」
言われるがまま座ると、シルヴァはイルファルドの頭上にポーチから取り出した布を被せた。
『神と人が結んだ楔 命の道に導を与えたまえ』
魔力が込められた布には呪文が記され、青く光り輝く。
『【ライフツリー】』
パン!!と布に記されていた文字が空間に弾け飛ぶ。
宙に浮かぶ文字は、僕の読むことのできない古代文字。
そんな散らばった古代文字はやがて一つに集まり、鍵へと形を変えていき、同時に僕の目の前には錠が生成されていく。
「それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。ご飯が近いから長居はしないように!!」
「はい!!」
その父さんの言葉に頷き、僕は鍵を錠の中に入れた。
直後、カチャ、という音がなり僕は眠りにつくように静かに目を閉じる。
すると一瞬、優しい風が通ったような感覚に襲われ、次に目を開くと僕は魔法の世界、自分の精神世界でもある【ライフツリー】にいた。
ここには真っ白な空間に書見台と本があり、地面には枝分かれした僕のツリーがある。
「さてと。どれくらい貯まってるかな」
貯まった【ステイタスポイント】を割り振る為、書見台の上にある一冊の本のページをめくった。
イルファルド自身未だ魔法の使えない言わば前衛職。
現在はステイタスの一点特化はせず、均等に割り振っている。
魔法の効果によっては、全く使い物にならなくなるステイタスがある故なのだが。
「とりあえず2pずつ【力】と【敏捷】かな」
【ステイタスポイント】を割り振ると今度は、地面にあったツリーが僕の視界に浮かび上がり、その横には現在貯まっている【ライフポイント】が表示されている。
「50ポイント。まあ上々上々」
大体新たな【パッシブ】を取るのに40ポイント。
【パッシブ強化】に30ポイント。
それが50もあれば僕的には十分。
「ん?なんだこれ」
樹木の如く伸びている【ライフツリー】の下に根っこのような分岐があったのだ。
「こんなのあったけ?」
僕は引き寄せられるように根っこの部分に触れた。
直後、目の前に一つの文章が浮かび上がった
──────────────────────────────────────
【スキル】
【メルティス・グレイム】
──────────────────────────────────────
僕は初めて見る表示に言葉が詰まった。
ずっと目覚めなかった【スキル】。
人生でパッシブしか開花したことのなかった僕に【スキル】!!
「よっしゃああああああ!!」
喜びを精一杯の大きさで叫んだ僕は、思わずガッツポーズが出ていた。
未だ魔法もスキルもなかった僕にとっては【メルティス・グレイム】がとんでもなく光り輝いているように見える。
興奮が止まらない。
僕は今すぐ報告しにいきたい興奮を抑え、要求ポイントを恐る恐る見た。
──────────────────────────────────────
必要ライフポイント
50
──────────────────────────────────────
「た、足りる!!いよいよ僕にもスキルが!!」
勿論やることは決まっている。
即取得だ。
「ゲット!!」
~~~~~~~
イルファルド・ランクルス
before
【力】20p
【生命力】22p
【敏捷】20p
【器用】20p
【幸運】20p
スキル
魔法
パッシブ
【ファティグヒール】LV2
【セカンドヴォーパル】LV3
after
【力】22p
【生命力】22p
【敏捷】22p
【器用】20p
【幸運】20p
スキル
【メルティス・グレイム】
魔法
パッシブ
【ファティグヒール】LV2
【セカンドヴォーパル】LV3
~~~~~~~
パッシブしかなかった自分のステイタス表に、新たにスキルの欄が追加されていた。
今日は寝れるだろうかと思えるほどテンションが上がっているのを実感していると、スキル効果が表示され、満面の笑みでスキル効果を見ると。
「………」
うん。
はっきり言おう。
絶望した。
──────────────────────────────────────
豪華な食事が並んだ食卓に一人。
まったく雰囲気に合わないドッヨーン、とした男がいた。
「ねぇあなた。イルファどうしたの」
そんな母さんの心配の声が聞こえた。
「何でも待望のスキルが目覚めたんだと」
「え!!スキルが!!良かったじゃない!!マジックポイントは足りたの?」
「それが足りて衝動的に取ったみたいなんだけど…その…」
秘密話をするように耳元に口を近づけると。
「ーーーーーーー」
「スキルの効果がなかった!?」
「しぃぃぃ!!」
現実に戻った僕は、ふらふらした足取りで食卓へ向かいライフツリーであったことの顛末を父さんに話した。
これにはその場にいたセシルも、珍しく興味があるようにこちらを、ちらちらと見ていた。会話には参加しなかったけど。
「スキルにそんなことってあるの?」
「さぁどうだろうな。俺も聞いたことがない」
僕にとっての50ポイントとは貯めるのに一ヶ月以上も掛かるのに、その50ポイントで取ったのは効果のないスキル。
先走りすぎたのも悪いが「いくら何でも酷すぎやしないか!!」と言いたくなってしまう。
いや。
「いくら何でも酷すぎやしないか!!」
言った。
「50ポイント…ポイント…ポイント…ポイント…」
「ほい!!」
「っ!!」
僕の背中には突如平手が炸裂した。
僅かに力加減ミスっていないか、と思う程の鈍痛を放ったのは母さん。
「いつまでもウジウジしない!!
そんなんじゃ今後開花するスキルや魔法がいつまでもやって来ないわよ」
「~~~~~っ!!い、痛い…」
「冒険者志望なんだからそのくらい我慢よ」
その言葉、どこかの団体に訴えられるんじゃ、と思ってしまうがこういう母さんに何回も励まされているんだから感謝はしている。
この虚無な感情は消えないが。
「ほらセシルにもしてあげようか~!!」
「え?い、いいよ…そういうの間に合ってるから」
「そ~う~か~な~」
こんな母さんを見ているとスキルで悩んでいたことが、どうでもよくなるような、不思議な感覚になってしまう。
家族をいつも見ている母さんだからこそできることなのだろうか。
[母さんのようなコミュ力お化けになりたい…]
羨望の眼差しを向けていると今度は、ぽん、と肩を叩かれた。
「父さん」
「すごいだろ。母さんは」
「うん。母さんも憧れている人の一人だもん」
「そりゃあ、俺が惚れた女だからな!!はっはっは!!」と笑い声を上げ父さんも僕と同じく、追いかけられているセシルを見ている。
そんな家族の姿を見ていると、僕からも思わず笑みが零れた。
「明日はがんばれ。
父さんと母さんはお前達、兄弟を応援している。養子とか関係なくな」
「ありがとう。頑張ってくる」
そう言うと父さんは僕に一瞥し、母さん達の元へ歩いて行く。
[やっぱりカッコいいや。
父さんも母さんも]
何度か見た戦士であった父の姿に重ねた僕は、一人そんなことを思った。
憧れ。
この感情はきっと消えない。
「はーい。二人ともそこまで。そろそろ飯にしよう。冷めちまうよ」
「そうだよー。セシルを追いかける前にご飯にしようよ」
「えー。まぁそれもそうね。」
やや不満そうにトボトボと、料理を置いていたキッチンへ足を動かした。
なんかこういうところが、子供っぽくてセシルと僕は遠い目で見てしまう。
「よし!!セシルもイルファ食べ終わったら続きをやりましょうか!!」
「「やらないよ!!」」
うん。こういう人だ。
勿論僕の答えもセシルの答えも同じでNO。
その僕達からの返答に母さんは、ガーン!!と地面に両膝を着いた。
「父さん…母さんを…」
「あ、あぁ…」
父さんは宥める様に背中を摩り、先程まで向かっていた目的地であるキッチンへ母さんと共に足を運んだ。
「はぁ」
そんな溜息を零したのはセシル。
珍しく疲れたのかセシルは気だるそうに椅子に腰かけると、少し崩れた前髪を整え、そのまま背もたれに身体を預け天井を見上げている。
「ちょうどいいや。
この後話そうとしていたこと今話すぞ」
「!!」
廊下での話だろうと、僕はすぐに認識した。
そして開こうとしている口から出でくる言葉は、きっといいものではない。
何故ならセシルから漏れ出る魔力が震え出したからだ。
「明日の試験。俺の方が点数が高かった場合、お前はこの家から出ていけ」
「え?」
僕の喉から震えた声が出た。
セシルの言葉は、今まで搔いたことのないような背筋が凍る汗を身体中に掻かせる程。
「い、いったい…どういう…」
「ランクルスを名乗るな」
「!!」
姓の剥奪。
正真正銘、縁を切る。
「この話はここで終わりだ。母さん達が戻ってくる」
「なっ!!まだ話は!!」
僕の手がセシルの肩に触れようとした瞬間。
「終わりだ」
ゾワっと。
僕へ向けられた魔力が身体を硬直させた。
圧倒的な力の差。
十数年埋まることのなかった魔力の差。
そんな格差が改めて突き付けてくる。
「もう一度言う。終わりだ」
「っ!!」
魔力に当てられ、まだ痺れている体で僕は、拳を目一杯握った。
悔しさから。
悲しさから。
その感情で。
「セシル…イルファ…」
廊下から現れた父さんは、ご馳走が乗った皿を両手に持ち佇んでいた。
「セシル」
「どうしたの?」
「……」
僅かにピリッとしたような気がした。
魔力がぶつかったような。
身体の言うことを聞かない状況だった為、あくまでそんな気がしただけだが。
「なにかあったのか?」
「何もないよ。だろ。イルファ?」
「!!」
セシルの瞳から光を感じることはなく、まるで悪を見るようなそんな眼差しだった。
そして見ている理由はきっと「言うな」ということだろう。
僕はそんな兄弟に恐怖を抱くことしかできなかった。
「う、うん。何もないよ」
未だ震えそうな唇を動かし、ただそれだけを答えた。
「あなたー。どうしたのよー!!まだ料理あるんだから手伝ってー」
「あぁ。今行く」
父さんは両手に持ったご馳走を卓上に置くと、再び廊下へ出たがそこで動きを止め再び振り向いた。
「何をしようとしているかは父さんにはわからない。
ただお前たちは兄弟だ。これからも仲良くしなさい。」
「父…さん」
「…」
「共に時代を歩むんだ。励みなさい」
言葉を残し父さんはその場を後にした。
そんな当たり前のような言葉に僕は、背中を押されたような気がした。
恐怖ではなく兄弟としての対話を。
「セシル」
僅かに視線をこちらに向けたセシルは、返答はしなかった。
何を言おうとしているのか、値踏みをするようにこちらを見るだけ。
「僕は嫌だ。僕もランクルス家だ」
「何を言いたい…?」
先程同様、言葉を紡ぐと同時にセシルの魔力が立ち込め、また身体が動かなくなると察した僕は身構えた。
だがしかし今度は力が籠ったまま。
「…?」
身体の自由を奪われなかった。
その事実にセシルも気づき、戸惑いの表情を浮かべている。
自分でも何が起こったのか分からない。
だがちょうどいい。
この先が言葉に出せるのだから。
「僕が勝ったら家族のまま。そして三年前のあの日。兄弟としての距離が離れた日。あの時何があったのか教えてくれ」
「…」
「僕が何かしたなら謝らせてくれよ」
兄弟としての仲直りをするために。
すると少しの沈黙の後。
「やっぱり覚えてないんだな」
そんな呟きが聞こえた。
何に対した言葉なのか僕には見当が付かない。
「教えてやる。これで対等な取引だ。
負けたらこちらの要求を呑んでもらうぞ」
「承知の上だよ」
そんな会話が終わった直後。
ちょうど今日の晩御飯を持った父さんと母さんが来た。
何事もなかったように僕たちは食卓へ着いた。
…あれ。
よくよく考えたらセシルに勝負って…そこらのモンスターを倒すのなんかより何倍も何十倍も難しくね!?
「うぅぅぅぅううううううう」
そんな想いに呼応するように僕の顔はきっと険しいものになってたと思う。
「イルファったらお腹でも痛いのかしら?」
とても豪勢な食事に食欲が刺激されている僕は、{そうではないんだよなー}と心で呟きながら僕は心の中で叫んだ。
{どんな試験内容でも…勝てる気がしなあああああああああああああああああい!!}
──────────────────────────────────────
ドン!!ドン!!
そんな力強い音を上げながら、花火が打ち上げられている。
試験会場の浮島はかなり賑わっている。
浮島には試験者達の姿もあるが、その半分以上が試験を見に来る観客だ。
「試験者の皆さんはこちらへー!!
観客の皆さんは上空の観戦用の人工浮島へご移動下さーい」
そんなアナウンス通り頭上には、島を丸々囲う円状の人工浮島があり、勿論見に来るのが天翼人だけではないため、飛空船も出ている。
「あ!!いた!!」
そんな声が耳に飛び込んできた。
「イルファ!!私も出るわよ…って!!どうしたの!!」
僕に話しかけたのはミーナだった。
「おはよう。ミーナも出るんだね」
「そんなの後回し!!それよりもその顔色よ!!真っ青じゃない!!」
「あはは」
心配された僕の顔色は相当なものだった。
まずなぜこんなになったか。理由は簡単。
一つ目
【緊張】
自分の戦いや、フィールドでのスキル、その全てが見られて評価される。
何より夢への第一歩でもある。
二つ目
【寝不足】
昨晩どうやってセシルに勝つか考えていた僕だが、全くアイディアが出ず悩みに悩んだ結果、気が付くとかなり時間が過ぎており、早く寝ないとという焦りと試験が目前になり出てきた緊張がせめぎ合い結果、寝不足になった。
「まったく…そんなんで大丈夫なの…?ほら。荷物貸しなさい」
少し呆れたように僕のバックパックを持ってくれた。
決して軽くはない僕の装備が入っている筈だが、僕よりも【魔力総量】が多いミーナは、身体に魔力を張り巡らせる【身体強化】で軽々と持っており、情けないという感情と同時に申し訳なくなった。
「そういえば昨日はごめんよ。
てっきりもう伝えたものかと思ってた」
「はぁ…本当に昨日はびっくりしたわ。
次会ったらイルファの頬を、何回叩こうか考えてたもの」
「ヒッ!!」
なんでこうも思考がヤンキー気質なんだよ!!と言いたくなることが今までに何回あったことか。
彼女は昔からこうだ。
だからこそ昨日の反応に違和感を感じた訳だが、結局いつも通りの本調子に戻っている。
「でももういいわ。
よくよく考えたら私がついていけばいいだけだもの」
「ふぅ…よかった……え?ついていく?」
何についてく?
そんな言葉が出そうになったが流石にわかる。
「私もあなたと一緒に旅に出るわ!!」
「え、ええええええええええええええええ!?」
「そんなに驚かなくても…」
「そりゃあ驚くよ!!冒険者になりたいだなんて一切聞いてなかったし冒険とかそこまで好きじゃなかっただろ!?」
「別にー。急になりたくなったのよ。それに貴方一人だとそこら辺でぽっくり逝きそうだもの」
相変わらず思い立ったら即行動の化身だ。
「まぁ流石に母さん達に反対されたけど」
「そりゃそうでしょ…」
普段から傍若無人な彼女に流石に反対したらしいが、熱演のかいもあって折れたようだ。
娘の実力を信用したのだろうか。
確かに同年代の中で確実に上位に入る。
僕から見たら十分天才だ。
「それにイルファに着いていくって言ったら了解してくれたわ。良かったわね~私も一緒で」
確かにとても心強いがそのニマニマとした笑みに[また手玉に取られてる…]と心の中で呟いた。
「あ!!
ミーナ!!イルファルド君!!」
その声は僕達の右側からした。
声がした方向へ振り向くと女性と男性が一人ずつ居た。
そして僕はその二人を知っている。ミーナの両親だ。
「ごめんね。イルファルド君。
ミーナが急についていくって言いだしてから止まらなくて」
「あ、あはは」
苦笑いと共に分かりやすすぎる愛想笑いが出た。
そんな早々に僕の前に来て謝ってきたのは、ミーナのお母さんであるルーナさん。
「父さんも良いって言ったもんね。
今から止めたって無駄だよ」
「うぅ…」
そんな事をしているとミーナとそのお父さん、ミッドさんの会話が聞こえてきた。
二人の会話が途中から聞こえただけだが内容的に、冒険に出ることを止めようとしたのだろう。
父親として娘が心配なはずだ。
まだ年端もいかない若造の僕でも分かる。
「昨日は凄かったのよ。
何としてでも付いていくって言いだして」
「なんだかすみません…」
「謝らなくてもいいのよ」
きっと二人とも不安な筈だ。
やはりついてくるのをやめさせよう。
そう決心が付いたときだった。
「だってあの子のあんな言葉聞いたら止められないもの」
その言葉はとても暖かい。そう感じた。
「私があの人に付いていくって決めた時の言葉と一緒なんだから。
血は争えないのかしら」
「ち、ちなみになんて言ったんですか?」
「うーん。ごめんね。秘密よ。私も恥ずかしいわ。どうしても知りたいならいつか本人に聞いてみて」
[な、なにを言ったんだ…!?]
[永久にパシリにするとか?
手下にするとか?
でもそんなことルーナさんは考えなそうだし。
いや?昔はミーナそっくりだったのか?]
そんな考えを巡らしていると「ふふっ」とルーナさんが笑った。
「娘をよろしくね」
まだ試験も終わってないのによろしくされてしまった。
セシルとの勝負に勝つ以前に、絶対に冒険者試験に合格しなければ。
「それじゃあ二人共、本番頑張ってー」
ルーナさんと会話を終えると諦めきれていないミッドさんを、半ば無理やり連れていった。
そんな二人に手を振りながら見送ると、僕は速攻行動に移した。
「一つお聞きしたいのだがいいかね?ミーナさん?」
「なんだね?」
「二人になんて言ったんですか?」
「!!」
驚いたのか、ずりっと後ずさりしたと思ったら今度は顔が真っ赤になった。
怒らせたか!?
そんなことを思った瞬間。
「まさか聞いたの!?」
「え?
だから聞いてないって。聞きたいなら本人からってルーナさんが…」
「よかった…」
[何に安堵しているんだ]
「まさか変なこと言ってないよね!?
僕はそこが気になるんだよ!!」
「い、言わないわよ!!秘密よ!!秘密!!」
「なっ!?」
僕がここまでして聞き出そうとしているのはミーナの過去に前科があるからだ。
それは五年以上前。
ミーナに無理やり連れだされ二人で遊んでいた時。突如現れた、スライラビットにちびってしまい、それをミーナが両親に伝えたのだ。
それだけでも恥ずかしいのに後日、ランクルス家に謝りに来た際ミーナが今度は父さんと母さん、セシルに言ってしまったのだ。
絶賛思春期に入ろうとしていた僕には、全身から血が噴き出してしまいそうなほど恥ずかしかった。
「言ってくれよ!?僕の人生に関わるだろ」
「なっ!?人生って!?本当に聞いていないんでしょうね!!」
「聞いてないって言ってるだろ!!」
じりじりと僕は距離を詰めミーナのすぐ目の前まで来た。
「言って」
「な、な!?」
「言
っ
て」
ジリジリと近づく僕にミーナは後ずさりしたがそんなこと関係なしに近づいていく。
だがずっと後ずさりが止まらない。
そんな時…僕はあまりにも最悪な答えを出した。
ミーナを止めようと手を肩に突き出した時。
島が揺れた。
「ん?」
ズレた。
触れようとしているところから。
「きゃあああああああああ!!」
「ぐふっっ!!」
手に何か柔らかいものが触れた次の瞬間、視界がブレた。
ミーナの右手が僕のこめかみにクリーンヒットし、魔力総量に決定的な差がある僕は一瞬で意識が刈り取られた。
「はぁはぁ…
ってイルファ!?」
今日の試験は大丈夫だろうか。
──────────────────────────────────────
会場は賑わい、もう間もなく試験の開会式が行われようとしている頃、大左翼であるシルヴァは下層へ降りていた。
「団長。お時間です。開会式の方へ」
「あぁ。フィルア達は周辺の警戒を!!
試験に適正難易度を超えるモンスターを侵入させるなよ!!」
『了解!!』
「だんちょー!!いつもより気合入ってますわー!!」
「お子さんが試験に出るんですもの。当り前ですわ」
「いぇーい!!」
シルヴァの号令に騎士団員が答えた。
彼らの任務は試験会場周りの警戒。
緊急時の護衛。
「?
なんだあれ…?」
それは空へ飛び立とうとしたシルヴァから零れた言葉。
そんなシルヴァに釣られるように騎士団全員が空を見上げた。
──────────────────────────────────────
キャラクタル大陸 王都ソムラニア
「流れ星…?」
「セラス様。稽古の時間です」
それはとある剣の少女が呟いた。
──────────────────────────────────────
ドラグマ大陸 帝都ドラム
「時が来たのか」
王座に座する男は天を見てほほ笑んだ。
──────────────────────────────────────
魔大陸 天宣山
「くひひ!!最後の戦いじゃ!!」
魔女は己の家屋へ走り出した。
──────────────────────────────────────
海人大陸 ポセルティア特別海上学校
「急ぎ原因を調べよ!!」
海上を渡る学校と生徒は動き出した。
──────────────────────────────────────
天空大陸 星園の観測所
「来たのか…!?」
空を見上げた老人は目を見開いた。
──────────────────────────────────────
「綺麗…」
そう呟いたのはミーナだった。
キラキラと光る流れ星に、視線が釘付けにされているように。
「もしかしたら今は居ない神様達が、お祝いしてくれてるのかも?
まぁ千年も前に居た邪神は含まないけど」
「うん。そうだといいね…」
そんな僕も釘付けにされていた。
綺麗だ。
そんな感想もあったが自分でも分からない何かがその景色を見ているようだった。
──────────────────────────────────────
「カカッ!!ヤクソクノトキ!!ツイニ!!!」
冒険者試験の会場近くの足場。
そこでカラスは待っていた。
この天廻る流れ星を。
「ハジマッタ!!ヒトトカミ、ヤクソクノトキ!!」
歌うように、呪文のように、カラスは言った。
そんなカラスの興味は一人の元へ。
「イルファルド!!タノシミダ!!」
翼をパタパタと揺らしながらカラスの瞳はたった一人の少年に向けられる。
「タダ。イマノママデハダメダ。ガンバッテモラウヨ」
何を想い、何に興味を持っていたのか。
目的は何なのか。
世界や僕達が知るのはまだ遠い未来。
──────────────────────────────────────
次回 試験開始
【ライフツリー】
冒険者からそうでない者までお世話になる魔法。
基本的に冒険者協会で購入できる魔法陣の書かれたハンカチサイズの布。
使用者の本質を捉え、それがパッシブ、スキル、魔法に反映される為別名【命の形】を呼ばれている。
古来からあったとされる汎用魔法。
一定の経験値が貯まるとツリーは更に広がる。
【身体強化】
魔力制御の果てに使いこなすことが可能な汎用技術。
力、敏捷、耐久の底上げが可能であり魔力総量で強化幅も変わる。
完璧に使いこなすには魔力総量の理解と自身の魔力許容量の把握が必須のため、魔力総量が多すぎる場合身体強化を使いこなす事ができない例外もある。
【魔力】
それぞれの初期魔力量がことなりかなり個人差がある。
ステイタスを上げることで継続的に総量を上げる事が可能であり、また魔法を使用する際に消費される、言わば燃料。
──────────────────────────────────────
あとがき
かーなり遅くなりました。
すみません。
次回の三話は金もしくは土曜日に投稿いたします。一万文字前後です。
できればになりますが四話、五話も投稿いたします。
一話二話それぞれ一万文字を超える形になりましたがどうでしたかね?
是非とも感想、評価お待ちしております。
誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
またブックマークなどもとても励みになります。
何卒よろしくお願いします。
ps
明日、明後日にキャラクター説明1、2を投稿いたします。




