第一章 第十二話 確かなもの
「██████!!起きて…!!」
誰かが呼んでいる。
聞き馴染みのない声だ。
強く自分を持っている。そんな女性…のような気がする。
君は誰なんだ。
「起きて!!」
『イルファルド!!』
僕は誰かに背中を押されたように瞼を開けた。
「ここって…え。なんか縛られてる!?」
目が覚めてすぐに自分の両腕が縛られていることに気づいた。
更に今僕が居るこの部屋は、全く見覚えがない。
日は暮れ、真っ暗な部屋を灯すトーチが四方にそれぞれ一つずつ。
まるでここは物置部屋のようになっており、かなりごちゃついているようだった。
すると僕の後ろ側にあった扉が開いた。
「起きたか」
そこに居たのは未だ装備を付けているカインさん。
両手にパンとミルクの入ったコップを持っていた。
すると思わず僕のお腹から「グゥゥゥゥゥ」と音が鳴る。
かなり大きく響いた。
「……上げないぞ!!」
「だ、大丈夫です…!!」
とても良い香りのするパンだったとは言え、少し恥ずかしい。
カインさんは壁に立てかけてあった椅子を取り、僕の前に置いた。
そしてそのまま椅子に座ると…
「魔力が小さいな」
「え」
いきなりディスられた!?
と思ったがそうでもないようだ。
カインさんの目からは真剣さが伝わってくる。
「あの…僕に何があったんですか?」
「覚えてないのか。まぁあの様子じゃしゃーねーか」
最後に覚えているのは謎の頭痛と眩暈が起きた直後、人の声や景色、一切覚えのない思い出、そんな情報の海が頭の中に押し寄せてきたことだけ。
その後は何が何だか。
そして何よりも不思議だったのは今は何ともない事だった。
体調も記憶も全て異変がない。
あの時流れていた情報は、全く思い出せない。
とても不気味で怖い。
「膨れ上がっていた魔力について聞きてぇんだがその様子じゃ無理か」
「魔力が?」
「それも思い出せないか。いや、無意識的だったと考える方が自然か」
一切身に覚えがないが、試験の時のように魔力が大きくなっていたのか?
本当にここ最近の僕の身に何が起こっているんだ。
「君の仲間、ヴェイエと喋るカラスにも聞いたんだが何も」
「っ!!ヴェイエさん達は無事ですか!?」
「そう焦るな。手を出しちゃいねーよ。万が一を考えて幽閉してるがな」
「そう…ですか…」
なんとか無事みたいだ。
とは言え僕のせいで迷惑をかけたのは事実。
「ヴェイエさん達は何も悪くないんです!!解放してあげてください!!お願いします!!」
「それは無理だな」
「っ!!」
「俺は君が悪くないと信じてあげたいが状況が状況だ。開放はできない」
バッサリと切り捨てられたがその通りだ。
「一つ質問。あれは君の意志で起こしたものか?」
「ち、違います!!僕にも何も分からなくて…!!」
言葉にしようがない。
あの時の僕に自分の意志なんて存在しなかった。
暴走しているように制御を許さず、振り回されただけ。
「そうか。信じよう」
自分が今回の原因の筈なのに巻き込まれた側のようになっている。
証明したくてもできない。
「とりあえず村への被害は何も無かったから良かったが、その不安定な状態を放っておくわけにはいかない」
カインさんは椅子から立ち上がり言った。
「明日の早朝に村長と俺達【プランセル・オーダー】で君を見定める。」
僕の裁判という事だ。
もしも害があると見做されたら僕は、この村から追放される。
そうなれば…
『ヴェイエさん。この先の村に何の用があるんですか?』
冒険が始まった初日の夜。
一先ずの目標をハクア村に決めた時、僕はヴェイエさんにそんな質問をしていた。
『食料の確保だよ。その他の物資はまだ先にある街まで持つけど食料は持たない』
『でも森や川での採取じゃダメなんですか?』
『ダメだね。モンスターとの戦闘や移動だってあるのに採取で体力を消耗するのは避けたい』
この時の僕は早く帰る為に焦っていたというのもあるが、冒険者にとって基礎の問題を間違えようとしていた。
冒険者の世界で野外での体力管理は初歩中の初歩。
楽できるときは楽をして、いざというときに体力を使う。
いつ異常事態が起こっても対処できるように。
自然に命を貪りつくされない為に備える。
『ここで食料を手に入れられなければ私たちの冒険は、より一層危険度を増す。だからだよ』
僕は明日どうにかして弁明しなければいけない。
「今日は外に見張りが付いている。下手な真似はするなよ」
カインさんは僕の後ろに来ると、手を縛っていた縄をナイフで切った。
[まだ疑いが晴れた訳じゃないのに…?少し信用…違うか]
そんな疑問が脳裏を過ったが恐らく違う。
これは外ならぬ騎士として、【プランセル・オーダー】としての自信があるからだ。
仮に僕が暴れても制圧できる、と。
彼等の実力は分からないが強いことは確か。
試験時の魔力量が上がった僕だとしても、勝てないだろうということが分かる。
「あ。それとそのパンは君のだから」
「……ん?」
「うーし。それじゃ。おやすみ」
バタン、とドアの音を立てながらカインさんは部屋を出て行った。
残されたのは僕とパン。そしてミルク。
[か…か…カインさんにおちょくられたぁぁぁぁ…!!!]
まさか縄を切ったのもこの為だったのか!?
僕のことを舐める舐めないの問題じゃなかったのか!!
散々手のひらで踊らされた気分だ。
やはり天才達は僕の考えが及ばぬ、化け物だらけですっっっ!!!!!!
「はぁ。とはいえありがたいな」
空腹だったのは事実。
今はパンを口にできることに感謝しなければ。
そうじゃないと僕達を見守ってくれている神様達に顔向けできない。
「いただきます」
僕は生き良いよくパンにかぶりついた。
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『いただきます』
「カイン。どうだった?」
そこはイルファルドの居る部屋から少し離れた場所。
中にはカインを含め、騎士三人が常駐していた。
「カルミリアの魔法には何も引っかからなかった。本当に彼の意志はないようだよ」
「そう」
「軽い取り調べとは言え、なんで俺だったんだ」
「彼等と一番一緒にいたからよ」
部屋に居たのはカルミリア近衛騎士とミリアーデ近衛騎士。
カインはこの部屋に入ると、透明になっていた魔力製の眼鏡を取り外した。
「まるで騙してるみたいで罪悪感が湧くんだよ。こういうのは」
騎士として周りからも少し硬い、と言われるカインは実のところイルファルド達を信じていた。
何も根拠はない。
しかし数時間だが一緒に居て、何か事件を起こすような匂いはしないとカインの感がそう言っていた。
だが他の騎士は違う。
あのトラブル自体も仕組まれたものではないかと疑いが晴れない。
「今は?」
「特にはなにも」
カルミリアが魔法で作り出した魔力モニターには、イルファルドの部屋が映し出されている。
「これ…バレないのか…?」
「バレないわよ。私の使い魔を舐めないで」
部屋には全6体の使い魔が配置されていた。
それぞれ部屋に死角を作らないように配置され、使い魔のサイズは虫程度。
トーチの光があるだけの薄暗い部屋で、イルファルドが気づくのはほぼ不可能。
「そうかよ。なら俺は寝る」
「えぇ。おやすみ」
食事を終えるとイルファルドは特に何もせずに、布団を身体に掛け就寝に就く。
案の定、イルファルドは使い魔に気づく事は無かった。
そして夜が明けた。
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チュンチュン、と鳥のさえずりが聞こえる。
まだ村は静けさを纏っている。
日差しは優しく、僕らを照らすだけ。
僕は僅かな肌寒さと共にここへ来た。
「入るぞ」
僕が暴走を起した付近の屋敷。
ここが村長の家。
カインさんを含めた三名の騎士が僕を護送していた。
昨日、川で出会ったミリアーデさんとまだ名前も知らない女性の騎士。
分かることがあるとすれば三人共強い。
「お邪魔します」
「来たか」
「準備はできている」
室内に入ると中には男性の騎士二名、そしてその横には。
「ヴェイエさん!!」
両手は縛られ、身動きはできないようだが特に外傷はなさそうだ。
カインさんの言っていた通り、何もされていないのが分かる。
「一応カラスもね」
その後ろには鳥籠に入れられているカラスさんの姿も。
とは言っても「スースー」と寝息が聞こえるが。
一応僕が有罪かどうか決まる、大事な時なんだけどな…
「その子がかい?」
「えぇ。この者の名はイルファルド・ランクルス。調べたところまだ冒険者ギルド、冒険者協会に名前は載っていないようです」
僕の手が届く程に近くまで来た一人のおじいさん。
「初めまして。わしはこの村の村長…グルドと申します」
物腰が柔らかそうな人。
「こ、こちらこそ!!それと昨日はすみませんでした!!こんな問題を起してしまって…住人の皆さんにもご迷惑を…!!」
「あー君は知らないのか。皆、君を恨んでいた様子はなかったよ」
「え…?」
グルドさんはほほ笑み僕を見た。
「昨日わしは偶々留守だったんじゃが帰宅する時に聞いたよ」
『あの人大丈夫かな?』
『苦しんでいたけど…それに騎士様に…』
『よし!!パンの差し入れでもするか!!』
「そんなことを言っていた」
そこで昨日の晩御飯を思い出した。
あのパンとミルクは恐らく村人達が分けてくれたんだと。
「な、なんで…!?」
僕にはさっぱり分からない。
あの時の僕は明らかに危険だった。
それが分からなかったとでもいうのだろうか。
「理由は特にないさ。ただお人好しになってしまった。一か月前に来た彼女のおかげでね」
お人好し。
たったそれだけで。
「それに山賊と比べたら怖くない。ただ苦しんでいる男の子に見えた。それだけかもしれないけどね」
「山…賊…」
この村に来た時に聞いた山賊。
彼らの悪行に比べたら確かにイルファルドの事件なんて比べるべくもない。
被害が軽減されたのは、イルファルドをいち早く止めたカラスの功績が大きい。
「わしは皆を信じる。この村への滞在を許可しよう」
「っ!!」
「あくまでわしはじゃ。さて今度は騎士達が君を見定める時」
グルドさんは僕との会話を終えると後ろへ下がった。
そして入れ替わるように前に出たのは騎士。
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名前
カイン・レイズパーク
カルミリア・レーディス
ミリアーデ・フルリアーデ
クデア・シオメ
シェル・ルイレム
種族{人族}
~~
ハクア村の騎士、6名中5名がここにいる。
「これより我ら【プランセル・オーダー】がイルファルド・ランクルスの査定を開始する」
イルファルドから見て一番右側の騎士、カルミリアは魔力を高めた。
その魔力総量は中域程度。
ここにいる騎士の中では最も小さいだろう。
『審議の法 真実の鏡 裏も表も見せてほしい』
『【アセスメント】』
魔法の詠唱は短く、すぐに魔力が形を成す。
カルミリアの魔法は鏡を作り出した。
鏡は変わった構造をしており、裏表両面の景色を見ることができる。
それをイルファルドの身体を覆い被さる形で生成した。
「閉じ込められたのにカインさん達が見える…」
『イルファルド。これより君を見定めさせてもらう』
「!!」
響いた声はカインさんの声だ。
『分かりました。お願いします』
鏡から見える景色は逆もしかり。
カイン達にはイルファルドの姿が見えていた。
『この村で休息を取りたいと昨日、仲間から聞いた』
ヴェイエさん達から聞いたのだろう。
ならば話は少し早くなった。
「さて昨日のあの暴走。あれは君の意志は関わっていたか?」
まず1人目。
カインは昨日の質問をなぞる様に問いかけた。
『違います!!無意識で…僕も分からなくて』
1つ目の質問は真実。
イルファルドの言葉は正しかった。
「では次…」
次に前へ出たのはミリアーデ。
「山賊と関りはある?」
この村、最大の脅威。
もしも関わっているならその瞬間、村から追放。
それから騎士達に拘束、王都のまで連行される。
『関わっていません』
2つ目の質問 真実
「なら三つ目。君を襲った謎の症状に心当たりは?」
『ありません』
3つ目の質問 真実
「このメルティシア王国内でどこかの組織に所属している?それとどこから来たの?」
『どこにも所属していないです。それと僕は天空大陸から来ました』
4つ目の質問 真実
「なら…」
5つ目…
「どういう意図が…」
6つ目…
「何故…」
7つ目までの質問 全て真実
イルファルドは魔法に引っかからなかった。
全て真実を答え、ありのままを語るだけ。
村に直接の被害が出るようなことはしない。
カインの感だけでは証明できなかったことを、魔法を持って証明した。
「ならこれで最後の質問」
最後の質問を問いかけるのは、魔法の発動者でもあるカルミリア。
他の4人よりも少し前に出た。
「貴方の魔力量。魔力封じを使用しているようには感じない。それが本来の魔力なの?」
そんな最後の質問。
『はい。そうです』
今の状態が本来の魔力量。
「…本当に?」
『本当です。昨日のは僕でも分からなくて』
ここで初めて審議を解いた。
8つ目にして初めて。
「そう…」
少し雰囲気が変わったことをイルファルドは気づいた。
どうしたんだ?
皆目を見開いて…
『こっちから貴方を見た結果、鏡が曇った…』
それが何を表すのだろうか。
だが答えは直ぐに語られる。
『貴方は今の質問…』
8つ目の質問
『嘘をついたでしょ』
虚偽
「なっ!?嘘なんて…!!」
ありえない。
一時的に増えても普段の魔力は今のこの状態だ。
もしもそうじゃないならこの16年間は一体なんだったんだ。
確実に歩んできた道のりがある。
『私の魔法は鏡越しに人を見た時、虚偽か真実かを見抜くことができる。嘘は穢れなく相手を見ることができるわ。でも貴方は今の質問で鏡を曇らせた』
イルファルドの逆、外側では鏡に霧のようなもので曇っていた。
これが【アセスメント】の効果。
「そんな…」
『なんで嘘をついたの?』
思い当たることなんて何もない。
ただ試験の時から稀に大きくなるとしか、分かっていないのだから。
『昨日、貴方の仲間達二人にも質問をしましたが、どちらも真実を語っていました。でも貴方だけ嘘をついた』
「くっ!!」
何か弁明をしなければいけない。
だがこの状況で何を言えば。
僕も何故、嘘をついたことになっているのか分からないのにどうやって。
「皆どうする?」
カルミリアは振り向き、他の騎士達を見た。
鏡の判定では確かに嘘をついた。
だがこれまで語ったことは全て真実。
村への被害が出るか。脅威となるか。
リスクがあるのかないのか。
数多の可能性を天秤に乗せなくてはならない。
「皆。俺に任せてくれないか」
そう言いだしたのはカインだった。
「イルファルドが悪人には見えない。俺は信じる」
信じる。
カインはそう決めた。
「万が一は俺が対処する。責任だって取る」
【アセスメント】で出来た魔力の鏡に近づき「これを解いてくれ」と一言だけ。
「わかった」
魔力を絶ち、鏡は音を立てて崩れ去る。
「カインさん。どうして…?」
「さっき言った通り。信じただけ」
カインさんの行動は予想外。
きっと自分の正義を持っている、そんな人だからこそ僕を信じると思っていなかったのだ。
だが違った。
自分の正義を強く持っているからこそ信じてくれた。
カインさんは僕に手を差し出している。
「俺は君は大丈夫だと信じる。これはただの感だがな」
カインさんには根拠はないのだろう。
それでも僕を信じると言った。
ならば僕は精一杯の誠意で返す。
「君の確かなものがどういったものか。それを見定める」
「分かりました。よろしくお願いします…!!」
僕は差し出された手を握り握手を交わした。
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次回 交流
【メルティシア王国】
首都に王都ソムラニアを持つ世界最大の国家。
その大きさはキャラクタル大陸の8割を占めており、大陸の東にある島国、【日天の国】や魔大陸、天空大陸とも貿易を行っている。
また国王プロテヘル・ペンドラムは、世界に名を轟かせる戦士であった。
今は前線を退いたが、息子娘も活躍している。
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あとがき
おはようございます。
今回は朝の投稿になりました。
スムーズにいけば昨日の10時ごろに出したかったのですが、書いている途中で過去の話で修正などがあり遅くなりました。
恐らく来週まで投稿が遅くなったり、投稿頻度が4日程空きそうです。
少しでも早く出せるようにします。
それでは今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
またブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒お願いします。
それでは失礼します。




