第一章 第十一話 ハクア村
【プランセル・オーダー】に護衛という名の監視をが着いてから30分程。
川を下った先にひとつの村が見えてきた。
「そろそろだ。くれぐれも問題を起こすなよ」
カインさん達三人の騎士は僕達に改めて釘を刺してきた。
無論何もする気はないが少し緊張してしまう。
そうして僕達は村の入り口に着いた。
村は自然の恩恵を受けながら、村自身も自然の一部となり一体化しているようだった。
「ここがハクア…村」
村の入り口には【ハクア村】と書かれた看板が立てられていた。
とても過ごしやすそうで落ち着く村だ。
だが所々、家屋が崩れいくつか焼け跡も残っている。
「あの…何があったんですか?」
「さっき言っただろ。山賊の仕業だ」
「!!」
『この辺りには山賊が出現してな。念の為、荷物を確認させてもらう』
僕達の前に現れた時もそう言っていた。
「イルファルド。川で見せた毛皮があるでしょ。あれは山賊のよ」
「!!」
「この村は今から一月前、その山賊が暴れたせいで大きな被害を受けた」
一か月経った今でも被害は色濃く残っている。
これでも復興した方なのだろう。
「我々も復興に協力しているのだが…」
カインさんはどこか歯切れが悪そうに言葉を詰まらせた。
すると村の方から一人の女の子が走ってきた。
「騎士様おかえり!!」
カインさん達に駆け寄ってきた。
両手には水がなみなみと入ったバケツを持っている。
「ミネアか。水の貯蔵はまだ大丈夫か?」
「うん。ついさっき水を取りに行ったけどまだパンパン!!」
バケツを置き、身体全体を使いながら大きさを表しているようだった。
「こらミネア。騎士様はお忙しいのよ」
「お母さん!!」
「お気になさらず。村の安全を確保することも大事ですが、こういった交流も必要不可欠。何より楽しいですよ」
カインさんはそういうと女の子を抱き上げ、肩に乗せた。
僕よりも身長が十cm以上高いカインさんに肩車され、女の子ははしゃいでいる。
子供との接し方に慣れている。
流石は騎士といったところだ。
「少しいいかしら、騎士団員さん」
ヴェイエさんは気だるそうな声で尋ねた。
「カインで良い。名前は教えたろ」
「村の方々も騎士様って呼んでいたけど?」
「皆にも名前で呼んでいいと言ったんだが…」
「身分の違いがあるんだってー」
女の子はカインさんの代わりに話した。
「貴族とか平民とか気にしなくていいのだが」
近衛兵は貴族以上の生まれであり、そんな人物達を名前で呼ぶなど恐れ多いという事だった。
僕もランクルス家の養子である為、どちらかと言えば貴族という枠組みになるのかもしれないが天空大陸ではここまで身分による差は無かった。
こういうところは人族の多いキャラクタル大陸の特徴なのだろう。
だが本人は名前で呼んでくれと言った。
ならそっちの方がいいだろう。
「ならカイン。私達はどうすればいいのかしら?」
「お、おぉ。適用するのが早いな」
名前で呼んでくれ、とは言っていたがヴェイエさんの切り替えの速さにカインさんはつい戸惑ってしまった。
「カイン。私達はもう一度見回りに行ってくるわ。だから旅人はよろしく」
「俺もだ。村の復興より走り回る方が向いてる」
ミリアーデとクデアと名乗った騎士二人は再び馬に騎乗しカインに告げた。
確かに旅人の引率は一人で十分だろう。
万が一暴動を犯しても村を復興している騎士も居る。
「わかった。二人共気を付けて」
カインは二人を見送ると僕達を見た。
「二人共。念のため武器を回収させてもらう」
「さっきから思っていたけど随分と警戒してるのね」
「疑い深い性格でな。それに心配するな。何も問題を起さなかったら返す」
念には念をということだろう。
僕達の拘束はそこまで難しくないが確実に被害を出さないように万全を期す。
山賊が暴れまわっているというなら拒まない。
「分かりました。お願いします」
【フィア・ブリンガー】と【フィア・ナイフ】、ヴェイエさんの両手杖を回収すると自らの馬に乗せ、紐で括り付けた。
てっきり荷物も回収すると思っていたが、回収されたのは武器のみ。
何も危険物はないと判断したのだろうか。
それとも僕達を信じてくれたのか。
「ミネア、ルミアさん。ここらで失礼します。二人共付いてこい」
僕達はカインさんの後ろを付いていく形で村に入った。
後ろからは「バイバーーイ!!」と女の子が手を振り僕達、というよりカインさんを見送っている。
「カインはこの街の人達に随分好かれてるわね」
「そうか?多分騎士全員あんな感じだと思うが」
市民を守る騎士に憧れを抱いたり、尊敬の念を持っているからだろう。
セシルも父さんに憧れていたからこそ、僕が勇者に憧れるのとは違い【翼の守り人】に憧れて【大左翼】に入りたがっていた。
「私は正直子供と接するのが苦手だわ」
「そうなんですか?さっきカインさんにも…」
「大人は別よ。ただ子供は接し方が困るだけ」
てっきり子供にも同じように接するものかと思っていたから意外だった。
「僕は割と子供と接するのが好きですよ。良く近所の子と遊んでいましたし」
「いい経験を詰めたって所かしら」
すると少し開けた場所に出た。
村の広場だ。
この村の住人が何人かおり、復興作業の休憩中なのか彼等は腰を下ろし談笑していた。
そんな彼等は僕達に気づくと笑顔で手を振り近づいてきた。
「旅人さんかい?」
「は、はい!!お邪魔しております!!」
「そんなの気にせんでいいよ。ゆっくりしていき」
「ありがとうございます!!」
とても優しい人達なのだろう。
僕達を笑顔で受け入れてくれた。
「カイン。村人さん達はこう言っているけど?」
「報告はしないといけないだろ。住民の説得はもう大丈夫みたいだが」
礼儀としても形式としても村長の元には顔を出した方がいい、ということだ。
村に旅人が来たといった情報の共有をするとなると、村長にあった方が早い。
きっと誤解も減り、トラブルも無くせる。
「冒険者かい?」
「それがまだ資格を持っていなくて」
「それじゃあ見習いか!!」
確かに見習いみたいなものだ。
資格がないため冒険者ギルドのクエストやランクC以上のモンスターが生息する地域に立ち入ることができない。
そういえば僕は合格したのだろうか?
勝負のことばっか気にしていたせいで考えていなかった。
恐らくボーダーは超えたとは思うけど、大丈夫だろうか。
すると次の瞬間。
「おお!!カイン!!戻ったか」
そういって僕達の前に現れたのは、これまた大柄な男。
全身に纏われる鎧はカインさんと同じ。
つまり騎士。
「シェル…復興は進んだか…?」
「おうよ!!カインも見ろよ!!」
シェルという名の男ははとある方角を指さした。
「あれは…」
その方向には周りよりも少し大きな家があり、目に入りやすい。
だがそれ以上に目を引くものがあった。
平屋の家は越すであろう高さ。
大木を用いて作られた木彫りの像。
「どうだ!!アリシア様の像は!!」
凄い完成度だ。
本物を見たことはないが、とても綺麗な顔立ちをしている。
木彫りであそこまでこだわるのは、相当大変だっただろう。
「か、かか」
「ん?最高に可愛いか?」
「家屋の復興はどうしたんだよ!!!」
怒鳴った。
家屋の修繕をせずに像を作っていたのかと。
確かにこの状況では修繕を優先するべきであり、それが村の為に何より村人の為になる。
「そんなに怒るなってカイン。それに俺だけじゃないぜ!!」
「そうだぜ騎士様!!俺達もだ!!」
それはこの村の大工だろうか。
五人程がシェルの横へ立ち、共に仁王立ちしている。
「これを完成させるのにどれだけの労力を…」
「あはは…」
ヴェイエさんは若干引いていた。
人の身体を良く再現できているのだ。
匠の一品に違いない。
視界の先ではカインさんが呆れながらうなだれている。
騎士という肩書のせいで正直硬い人達だと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。
とてもアットホームに感じる。
「それにしても本当によくできて…っ!!」
近くで改めて像の顔を見たその時だった。
突如強い頭痛に強烈な眩暈が僕を襲った。
目の奥が燃えるように熱い。
頭がはち切れそうだ。
「…ルファ……!!」
ヴェイエさんが僕の背中をさすってくれるが、声は遠く、状態は一向によくならない。
こんなの初めて。
『私こんなの初めて!!』
まるで僕の言葉を真似るように、キーワードだったかのように始まった。
『何をされてるんですか?』
女性の声が聞こえる。
女性の声が頭に響く。
『待ってくださいよ~』『勝負ですよ!!』『コラ!!待ちなさい!!』『ありがとうございます!!█████様!!』
聞いたことのない声。
でもどこかで聞いたような声。
見たことのない景色。
でもどこかで見たような景色。
喜怒哀楽どの感情か分からない情景。
そんな不透明で確かな情報の波で頭がパンパンになる。
自分が自分で居られなくなるようなそんな危機感を抱き、何も考えが纏まらない。
『その魔法凄いですね!!』『是非使ってください!!』『頑張ります!!フンス』『疲れたぁああああ!!』『稽古お願いします!!』
思い出したい。
思い出したくない。
知りたい。
知りたくない。
『私が行きます!!█████様はこちらに!!』
「ま…って…」
『どうかご武運を』
「い…くな…!!」
また繰り返すのか。
何を?
また失うのか?
何を?
僕は何を言っているんだ。
何を話しているんだ。
「イルファルド!!」
地面に伏し苦しむイルファルドにヴェイエは、声をかけ続けるが状況は一向に良くならない。
その時。
「シェル!!」
「分かっている!!」
カインとシェルは村人を担ぎ、一気に距離を取った。
何故か。
答えは外ならないイルファルド。
「魔力放出…!!」
現在イルファルドの身体からは強力な魔力が溢れ出していた。
その魔力総量は高域上位。
爵域に手がかかっている。
もしもカイン達が居なかったら今頃、あの場に居た村人は魔力酔いを起していただろう。
「あの旅人は一体…?」
「どうしたのー」
「何事ですか?」
状況が分からない村人達は全員、困惑していた。
「行くぞ!!」
「おう!!」
彼等が狙うのはイルファルドの身柄を拘束すること。
今のイルファルドは山賊と関係ないにしてもあまりにも危険。
村にどんな被害をもたらすか分かったもんじゃない。
「ヴェイエといったな!!今すぐ離れろ!!」
「くっ!!でも!!」
あまりにも大きすぎるイルファルドの魔力を止める為に、カイン達は武器を抜いている。
なんとか荒事を避けたいが最早それも不可能。
イルファルドを止めるべきだ。
「がっっ!!ア‘‘ア‘‘ァ!!」
どうにかしなければいけない。
「ヴェイエ。ハナレロ」
その声はカラス。
この魔力の嵐に一切怯まず、降り立った。
「一体どこに行って…!!」
「スコシネ。トリアエズイマハハナレロ」
すると魔力を嘴に集め始めた。
そして一瞬で終わることになる。
『リマルド』
天空大陸でイルファルドに使用した魔法。
その効果は強制睡眠。
催眠系魔法において最上位の効果を持っていた。
効果は覿面。
一瞬でイルファルドの意識は途絶え、魔力は収まった。
「オイ。ハコンデクレ」
「カラスが喋っている…」
以前のイルファルド同様でカインも最初に抱く感想は同じだった。
「カイン!!そんなことは後回しだ!!早く拘束するぞ!!」
「ああ!!」
イルファルドに近寄るとアイテムポーチから手錠を取り出し、カチャッ、と音を立てながら取り付けた。
「カイン!!」
「悪いが村の安全を確保するためだ」
ヴェイエはそんなイルファルドの拘束を辞めさせようとしたが、どうしようもない。
カイン達の行動が正しい。
「ヴェイエ。ショウガナイ」
「わかってる」
理解している。
だからこそこれ以上は何も言わなかった。
「ヴェイエ。君も同行願う」
カインの手にはもう一つの手錠。
間違いなくヴェイエを拘束するようだ。
「パーティーだもの。言われなくても自分で行くわ」
今は気絶するイルファルドを見て、ヴェイエは言った。
「協力感謝する」
「はぁ。よろしく」
二人の両腕には手錠がかけられ、村人が騒動に気づき集まってくる。
「貴方もですよ」
「カカ!?」
「逃がす訳ないだろ…」
「シマッタ」
まだ時刻は昼頃。
ハクア村で一騒動、軽い事件が起きたのだった。
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次回 確かなもの
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あとがき
今回はかなりキツキツだった為解説無しです。
そして投稿が日付を跨いでしまいました。
すみません。
またリアルが忙しく投稿が遅くなってしまいます。
重ねて申し訳ございません。
次回は三日から四日以内に出せるように頑張ります。
今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
またブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒お願いします。
それでは失礼します。




