序章 第八話 夢見る少年 Ⅱ
「イルファ…身体は…え?」
なんとか絞り出したミーナの言葉通り、折れた筈の骨は何事もなかったように元に戻っている。
防具はボロボロになり、外傷こそ残っているがそれもかすり傷程度。
疲労は回復し、それどころか魔力が溢れだしている。
ヒーラーだからこそ分かる、折れた骨がこの早さで完治するのは異常そのもの。
ミーナも確かに聞いていた骨の砕ける音。
【モルディル・キメラ】の一撃を受け、死んでもおかしくなかった。
「僕も何があったのか分からない。ただ…」
ポケットから取り出したのは一枚の黒き羽根。
それはまるでカラスの羽根のよう。
珍しい黒色の羽根には僅かだがまだ魔力の残滓がある。
「とにかく大丈夫だよ。ミーナはセシルをお願い。時間を稼ぐ」
「っ!!分かったわ。」
ミーナは涙を拭き、再びセシルの治療に集中するため魔力を高めた。
「セシル。待ってるから」
【モルディル・キメラ】は、指が切り裂かれ怯んでいるが、もう間もなく動き出す。
今なら逃げることができるか?とも考えたがきっと不可能。
数多くの傷をつけた僕達を【モルディル・キメラ】が許すはずがない。
怒り必ず追いかけてくる。
そうなってしまったら負傷したセシルを背負っての逃走は困難。
選択肢はここで戦うしかない。
ここで討伐が可能なら狩猟する。
もう一つは既に異変に気付いたであろう、騎士団が到着するまで耐久する。
とはいえ現在の大きくなった魔力を持ってしても、僕一人では勝てないし耐久も不可能。
切り抜ける為にはセシルやミーナ、ニャシミアさんの協力は必須になってくる。
僕の問いかけにセシルは何も答えなかったがきっと来てくれる。
「自由に動いていいよ。合わせるから」
ニャシミアさんは僕の隣に立ち、乱れていた息を整えなおす。
[語尾が変わってる!?]と言葉に出たしまいそうだったが、流石にそんな状況じゃないと心の中で留めた。
「でも先に確認したい。さっきのは魔法?それともスキル?」
「あれは…」
はっきり言って僕にも分からない。
あれはミーナ達を助けようと必死だった時、 まるで知らない知識を埋め込まれたように脳内を駆け巡り、口から出ていた。
それに気を失っている間、誰かと話していた気がするが何か関係しているのか?
「分かりません。でも使えると思います」
【第一席】という単語は直感的に使えるのが分かる。
それにさっきの一回で何となく、どういう効果があるのか分かっている。
「そっか。とにかく助かったよ。ありがと」
「こちらこそありがとうございます。おかげで僕もセシルやミーナだって無事です」
「ニャはは。それはそれは感謝することだな」
少し自慢気に胸を張り笑っている。
試験前は何も分かっていなくて、正直変わった人だなって思っていた。
その点はまだ変わりはしないが、今はとても頼りになる。
「今からウチら四人は、あの馬ゾンビをぶっ倒すパーティー。それでいいニャ?」
「はい!!よろしくお願いします!!」
「セシルは任せて。二人共、気を付けて!!」
僕とニャシミアさんは疾走する。
【モルディル・キメラ】は既に体制を整えているが、イルファルドを飛ばした時程の余裕は消えさっている。
『カカアアアアアアアアア!!!!!』
それはまるで怒りの咆哮。
攻撃は苛烈になり荒々しさを増す。
僕には全て致命傷に成り得る攻撃。
[でも見える]
ついさっきまでは、視認すら許されなかった【モルディル・キメラ】の攻撃が今では見える。
これもきっと急激に増えた魔力の恩恵。
セシルやニャシミアさんは常にこれを維持できる。
「やっぱりデカい…!!」
セシルとは大きく離れていたことを視覚的に認識できた。
「ニャアアアアアアアア!!!」
当たり前のように攻撃を回避し、カウンターを入れるニャシミアさんは僕より圧倒的に強いし魔力のコントロールが綺麗だ。
身体強化を使いこなしている。
僕も負けていられない。
鞘に納めていた【フィア・ナイフ】を抜剣し【フィア・ブリンガー】と二刀流で疾走する。
「はああああ!!」
ニャシミアさんのおかげで僅かな隙ができ、後ろ足に計四回の【フィア・ナイフ】による連撃を叩きこむ。
決して深くはないが確かに斬れる。
『カカカカ!!』
「くっ!!」
しかし【モルディル・キメラ】は後ろ足を宙に浮かせ、イルファルドを追い払うように蹴りを仕掛けてきた。
間一髪で無事だったものの、それは咄嗟に【フィア・ブリンガー】を構えてダメージを軽減しただけ。
やっぱり今の僕には身体を使いこなせない。
膨れ上がった魔力や上がった動体視力に振り回されている。
つまり僕に扱いきれる許容量はまだまだ下だということ。
このままでは宝の持ち腐れな上、役に立つことなど夢のまた夢。
となれば僕にできることは。
[集中しろ。あの時の感覚を。思い出せ]
イルファルドはやや距離を取り、右手の【フィア・ブリンガー】を背中の鞘に納めた。
父さん自らが見せてくれた武術を思い出す。
記憶をなぞるように鞘の中で剣に魔力を巡らせる。
そうして約5秒。
練った魔力を開放した。
【フィア・ブリンガー】はコバルトブルーの光、イルファルド自身の魔力が籠められている。
そのまま抜剣時の加速を乗せ【モルディル・キメラ】に向かって【フィア・ブリンガー】を投げた。
投げた先は【モルディル・キメラ】の上空。
一回目は自分の意志ではなく勝手に口が動いていた。
今度は自分の意志で行使する。
込められた魔力を消費して、イルファルドを投げた武器の位置まで移動させる。
それがイルファルドの認識。
『第一席』
最後に単語を唱えた。
すると一瞬でこの場に居る誰よりも早く上空へ移動した。
【フィア・ブリンガー】の柄をしっかりと握り、両腕に身体強化を張り巡らせる。
今の膨れ上がった魔力ならばアーツも強化される。
「はああああああ!!」
魔臓が分からない現状で狙うは首。
落下のエネルギーを乗せ『魔翔斬り』を放った。
『カカカアアアア!?』
「でかした!!ウチも負けられないね!!」
強化された僕のアーツは【モルディル・キメラ】に大きな傷を付け、のたうち回りながら周りの大岩を破壊していく。
「くっ!!」
何とか追撃を掛けようとしたが【モルディル・キメラ】が暴れていて、却って危険。
一瞬、背中に乗ったが直ぐに降りて体制を整え直す。
「これならいけるっ!!」
「油断は禁物!!」
暴れ回る【モルディル・キメラ】の攻撃を回避し、再び連撃を叩きこむニャシミアさん。
「これを続けるよ!!」
「了解です!!」
基本的に【モルディル・キメラ】の周りを動き回り注意を引くニャシミアさんは、このパーティーにおいてメインタンクそのもの。
ならば僕のやることはどこからでも攻撃を狙える軽装兵。
隙ができたならそこへ飛びつき追撃を仕掛ける。
あとは決め手だけ。
セシルが駆けつけてくれたら勝てる。
「はあああああ!!」
「ニャアアアア!!」
目一杯猛った。
僕達が勝利を掴むため。
「っ!!セシルまだ治ってない!!」
未だセシルの左腕は治りきらない。
折れて痛みを発している筈。
それでも槍を右手で握る。
この場において【モルディル・キメラ】に止めを刺せる剣はセシルしかいない。
それを誰よりも理解しているからこそ立った。
「魔法をかけ続けろ。俺は魔力を貯める。」
セシルの魔力と共に展開されるのは、尽きることのない戦意。
この場で一番高い魔力を保有するのはセシルだ。
あまりの大きさにミーナは一瞬、魔力酔いになりかける程。
「ありったけを打ち込む。だから頼む」
左腕はまだ力が入らないのだろう。
だらんとして脱力している。
ミーナはヒーラー。
怪我人を戦場に立たせるのは不甲斐ない。
しかしセシルの覚悟を戦意を絶やしてはいけない。
だから今は心を切り替え、冒険者としてパーティーを支える。
「分かったわ。でも先に」
回復魔法を中断し両手を広げた。
それは魔力の流れをより感じ取れるよう。
『命の輝き 命の在り方 大いなる怪物を祓いし極光の輝き』
その詠唱はミーナの全ステータス上昇魔法。
対象は自分以外の三人。
セシル、ニャシミア、そしてイルファルド。
しかし効果を最大限に発揮するためには、イルファルドにかけていた短縮詠唱では不可能。
故に綴るは完全詠唱をしなければならない。
『剣には鋭さを 杖には温かさを 私はこの身を砕きて彼らを支えよう』
セシルを癒すための魔力以外を全て注ぎ込む。
するとミーナを中心に大きな魔力輪が生成されゆっくりと回転しだした。
『空飛びし盟友 鼓動の軌跡 汝らに大いなる天空の加護あらん』
魔力は高まり、翠色の輝きはミーナを中心に戦場まで広がる。
「魔法…!!」
「ッ!!ニャシミアさん!!一気に畳みかけます!!」
ここで一気に攻める。
僕はミーナの魔法を信じ、誰よりも早く動いた。
そんな僕に続くようにニャシミアさんも駆ける。
『私は聖火を守ろう!!』
戦場から翠色の消え去り、代わりにイルファルド、セシル、ニャシミアの頭上に魔力輪が生成される。
『【リセル・アールグリム】』
頭上にあった魔力輪を砕けそれはまるで桜のように舞い落ちる。
「でやあああああああ!!」
攻撃力は大きく上がり、より深い傷を付けれるようになった。
「ニャはは!!これは凄い!!速さも別物!!振り回されかねないな!!」
ニャシミアの速さは爵域の身体強化とほぼ同等。
とうとうイルファルドが視認できない領域へと入った。
『カカカカカカカカカカカ!!』
「今なら僕でも避けられる!!」
白兵戦で【モルディル・キメラ】を制したといっても過言ではない。
残りは…
「セシル!!」
僕の視界の先、兄弟を見据えて叫んだ。
『道記す邂逅と太陽の如き思い出 私はその全てを守るため 天駆ける蒼空の覇者となろう』
『テンペスト・ガーメント』
自身の魔力と空間の魔素を掌握し槍に集める。
より多く。
より鋭く。
より荒々しく。
その異変は再び回復魔法を使用しているミーナだけではなく、イルファルドやニャシミア、【モルディル・キメラ】でさえ気づく。
『カカカアアアアア!!』
イルファルド達を無視してセシルを狙うため【モルディル・キメラ】は全速力で走った。
無防備に立って魔力を貯めるなど自殺行為。
セシルが一対一で使わなかった理由だ。
しかし今は一人ではない。
【モルディル・キメラ】は決して自分の元まで辿り着けない。
スッ、と空を切り一本のナイフが【モルディル・キメラ】の目の前に投げられた。
武器の銘は【フィア・ナイフ】
『第一席』
単語の直後。
ナイフの元には一人の少年が瞬間移動して現れた。
「そいつは勇者を目指してる愚直な野郎の前に、俺と同じくらい負けず嫌いだ」
それはセシル同様一度は敗北した勇者を目指す少年。
イルファルド。
その最後の壁がセシルの元へ辿り着かせない。
「っ!!」
ナイフを逆手に構え、大きく身体を捻った。
狙ったのはモンスターの両目。
『カアアアアアアアアアアアア!!』
視界は奪われ、足の指を数本切断、体中に大きな傷が増えすぎた。
ついにその時【モルディル・キメラ】は恐怖した。
もう勝つことができないと。
死が迫っていると。
それは何も魔力を感じない方への疾走。
誰も居ない場所へ逃走だ。
『カカカカカカカカカカ!!』
死への恐怖は直ぐに全身を廻り正常な判断を消し去る。
だから気づけない。
僅かな異変を。
魔力はなくともそこにだけに残っている魔素を。
ゴオオオオオン
そんな轟音が鳴り響いた。
【モルディル・キメラ】が掛かった罠。
その起動音と言ってもいい。
「気づけニャいか。まあそれもそうニャ」
口調は戻り岩に座るニャシミア。
視線の先には【モルディル・キメラ】が落ちた大穴。
「どうニャ。その落とし穴は。」
【モルディル・キメラ】がセシルを狙ったあの瞬間に設置、その後は逃げ道を作り誘導した。
「まさに狩りをするなら持って来いの一品ニャ」
抜け出そうと思えばそれは簡単かもしれない。
しかし僅かな遅れで十分。
「僕もそうだけど、もう一人の負けず嫌いが今行ったよ」
【モルディル・キメラ】の目の前。
自らの両翼で飛んできたセシルが居た。
「やっぱりセシルは強い」
セシルの槍【フィア・ハルバ】には、【モルディル・キメラ】を跡形もなく消すことが可能であろう魔力が籠められている。
『カカカカカカカカカカ!!!』
最後の足搔きはセシルへ向く。
だが届かない。
槍を構え、狙いを定める。
「行け!!セシル!!」
まるで号令が掛ったかのようにセシルは、槍に大いなる嵐を纏いながら駆け抜けて行く。
既に埋まった間合い。
最後の抗いを見せるモンスター。
翼を広げそれはまるでイルファルドとセシルの父親、シルヴァのようだった。
槍に纏われている嵐の魔力を開放し、セシルは振るった。
『オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』
轟くセシルの咆哮。
決着というカーテンコールに相応しい雄叫び。
炸裂せし魔力は辺り一面に風を吹かせ、近くにいたイルファルド達は皆、周りの障害物にしがみ付かなければ飛ばされるであろう暴風と魔力の輝きに包み込まれる。
収まるまで数秒。
そうして残ったのは静けさ。
音が消え去りイルファルドは息を飲む。
落とし穴の場所には大量の光の霧とドロップアイテムがあった。
残ったのは僕達だけ。
つまり
「勝った…」
思わず呟いていた。
「やったああああああああっっ!!」
静寂を破ったのはミーナ。
彼女は感極まったのか僕に抱き着いてきた。
「私たちの勝ちだよ!!イルファ!!セシル!!ニャシミアさん!!」
「は、ははっやったんだ…」
かく言う僕はあまりの体験、人生で一番の激戦を乗り越え腰が抜けていた。
そんなのは僕だけ。本当にかっこ悪いや。
「乙狩り様ニャ」
ニャシミアさんは既に獣化を解き、元の姿に戻っている。
「あんだけの魔力。しばらくここらにはモンスターは近寄らニャいね。」
ニャシミアさんの視線の先には大きく息を切らしているセシルが居た。
流石のセシルでもあそこまでの攻撃をしたら大きく消耗している。
「てか魔力が戻ってるニャ?」
「そういえば」
僕の膨れ上がった魔力はすっかり元の大きさに戻っていた。
本当に何だったのだろうか。
一時的に魔力が増えるなど聞いたことがない。
「一先ず試験はここまでね。セシルは勿論、私達も休まないと」
「うん。もうくたくただよ」
「ニャ。帰りは楽ニャ」
僕達の元に一人の戦士が飛んできた。
「父さん!!」
彼は外ならない僕達の父親。
シルヴァ・ランクルス。
「お前達…!!全員無事か…!?」
きっとセシルの一撃で僕達の居場所に気づき、全速力で飛んできたのだろう。
そこで大きな戦いがあったのを父さんは感じとった。
「無事…ではないかも。セシルの左腕が…」
僕は大まかではあるが父さんに現状を伝えた。
「そうか。一先ず帰還しよう。そしてこれは【大左翼】団長としてだ。」
父さんは僕、セシル、ミーナ、ニャシミアさんに向かって騎士団の敬礼をした。
最後に。
「【大左翼】団長として感謝と共に敬意を送ろう。騒動の中心に居たにも関わらず良くぞ生還した!!」
僕達四人は敬礼を返し、騒動はこれにて終わった。
その後は父さん達、騎士団に守られながら帰路へ入り試験は終了。
無事に医務室まで送り届けられた。
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天空大陸 下層 医務室
「やっぱりエルミーゼ様は流石だわ!!」
こちらも一先ずの落ち着きを見せる。
傷ついた受験者はエルミーゼの魔法とご自慢のポーションで全員治癒。
現在の患者はゼロだ。
「さっきのシルヴァ様のご子息で最後。皆お疲れ様!!」
ここで看護師の指揮を執っていた女性が宣言した。
皆が仕事が終わり、肩の荷を下ろす。
たった一人を除いて。
「あれ?エルミーゼ様。どうかされました?」
「あぁ。いやなんでもない」
違和感を拭えなかった。
[これだけのリタイア者。Bランクモンスターが乱入。ここまでのことがあって死傷者が0。まだ何か…]
転移が使用できなくなりその際に死傷者が出ていてもおかしくない。
何より【モルディル・キメラ】の被害が少なすぎる。
まるで統率されていたかのように。
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「ここから侵入したのか…」
「はい。ここの管轄であった小隊長はアウリスが使えなかった…と」
騎士団内に起きた通信網のジャック。
この試験をとりまく思惑。
それを感じずには居られない。
「周囲の捜索!!怪しいものが居れば拘束しろ!!」
リシータは【大右翼】に命令を下した。
それはまだ終わっていない、という予感から。
「何が起こっているんだ」
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「ヨクヤッタ。イルファルド」
魔力の輝きを纏っているカラスは観客席の真上でパタパタと飛んでいた。
「シカシマダダメ」
魔力を高めまるで魔法を使おうとしているような。
見据える先には。
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時刻はすっかり夕暮れ。
試験は中断となり僕達は治療を受けた。
「疲れた…」
「異常事態もいいとこよ」
試験は中止。
合否に関しては一度見送られるらしい。
そうして全て終わり僕とミーナは、会場を出た。
「イルファー!!ミーナちゃん!!」
僕達を出迎えたのは外ならない僕の家族とミーナの家族。
「ママ!!パパ!!」
ミーナも家族に会いたかったのだろう。
僕よりも早く家族の元へ向かった。
「ただいま母さん」
「おかえり。父さんから聞いたわ。よくやったわねイルファ!!」
既に合流していたセシルと共に頭を撫でられた。
外だから少し恥ずかしかったがこの時は僕もセシルも拒まず受け入れた。
「セシル。勝負は…」
「保留だ」
「え?」
「この騒動無しじゃないと意味がない。だから」
僕達の勝負は持ち越しとなった。
とりあえずは一見落着なのか?
「二人共」
「父さん!?騎士団はいいの?」
振り返った先には居たのは父さん。
まだ騎士団でやることがあると思っていたからこそ驚いてしまった。
「今日はみんなで帰ろう」
話を聞くと、シルヴァは今日で僕達の試験が終わるというのもあって出来れば皆で帰りたかったが、今回の騒動でそれも不可能だと思っていた。
しかし団員のフィルアさんを筆頭に、帰るように強く言われたらしく帰路に着けたということだ。
「二人共ちょっと背中を」
父さんは僕とセシルの背中に触れた。
「急に何?」
「父さん?どうしたの?」
僕とセシルから疑問の声が上がる。
普段の父さんらしくない。
「二人共もう大人だ。だからこそ二人に伝えたいことがある」
いつになく暖かい。
僕はそう思った。
僅かに背中を押され姿勢を正される。
今から贈られるのは、父さんから僕達に向けての応援。
「未来という道はいくつもある。沢山あってどれを選べばいいのか分からない。そんな時がきっと来る」
母さんは見守りながら少し泣きそうになっていた。
「時には立ち止まったり、泣いたりすることだってある。自分が何をしたいのか分からなくなったり、後悔だって増え続ける。人生が辛くなってしまう事もある筈だ」
この時の僕は正直まだ理解できていなかった。
きっとそれはセシルも同じだろう。
「そんな時にはこの言葉を思い出せ」
「いつも胸を張って、前を見て、沢山の思い出に背中を押されろ。そしたらきっと進める」
父さんはポン、と背中を優しく叩いた。
僕とセシルはつい振り向くとそこには満面の笑みの父さんが居た。
子供の巣立ち。
そんなことを思っていたのだろうか。
僕はなんだか少し照れくさくて自分の首を触っていた。
「よし!!帰るか!!」
「フフッ」
母さんはそんな父さんの顔を見て笑った。
どんな顔をしていたのだろうか。
そんな何気ない家族の風景。
あぁ。やっと終わったんだ。
そう思った。
すると次の瞬間。
僕の足に何かが当たった。
「ボール?」
「あ!!ボールが!!」
それは観戦をしに来た男の子。
まだ幼く、親に連れられ歩いているとボールを落したようで、たまたま僕の足元に転がってきた。
「はい。ボール」
「ありがとうございます!!」
僕がボールを届けると男の子のお母さんが深く頭を下げ謝ってきた。
「全然いいですよ」と僕がいうと「ほら。あなたも」と。
「ありがと!!おにいちゃん!!」
「どういたしまして」
そうして男の子の家族は帰っていった。
「僕も帰ろう」
「ハナレルノヲマッテタ」
誰も気づけなかった。
僕の真横に現れた一匹のカラスを。
「イルファ!!」
少し離れていた父さんは駆け出していた。
それを皮切りに母さんやセシル、ミーナがこちらを見る。
「サァ。ボウケンノハジマリダ!!」
『トラポ』
パン
イルファルドと謎のカラスは消える。
一片の残滓も残さず
「イルファアアアアアアア!!!」
こうして冒険者試験は、イルファルドの誘拐という形で幕を下ろした。
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序章 完
next chapter
第一章 広がる世界
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次回 幕間 剣の少女
【魔法】
魔法にはその人間の特性が色濃く出るとされ、例えばセシルの場合父親と母親の魔法を引き継いでいる。
詠唱は様々。
短文もあれば長文もあり、さらには短縮なども可能。
上達すれば短縮でも長文と同じ効果を発動でき、最終的に極めれば無詠唱も可能。
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
結局水曜になり投稿時間も遅くなりすぎました。
すみません。
話は本編に戻り、今回で序章は終了。
いよいよ第一章の始まりです。
一度幕間を挟み、その次の日辺りにはキャラクター説明3を投稿予定です。
次回の更新は三日前後という予定になります。
そしてこの度Xアカウントを開設いたしました。
主に「神無き世界」の更新などをお知らせいたします。
https://x.com/yanngumaru
↑こちらです。
最後になりますが今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
またブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒よろしくお願いします。
それではまた!!




