プロローグ
離神暦 千年
天空大陸 中層
春の季節が過ぎ、夏に変わる時にやってくる嵐の止まない嵐流の時期。毎日のように豪雨と雷が止まず、天空大陸に住まう天空人すらもこの時期は外へ出ない。
そんな中とある天空人は、外へ出ていた。
[こんな時にエミルが風邪を引くとはな。出産直後で免疫力が落ちていたのか?]
そんな天空人の男の名はシルヴァ・ランクルス。
彼は突如発熱した妻のために、中央都市『イカロラス』に住む大陸一の薬師の元へ向かっていた。
荒れ狂う嵐の中心には、天空大陸全土で目に入るほど大きく、今も大量の魔力と瘴気を放出する天神竜の姿がうっすらと見える。
普段であれば翼のある天空人ならば直通でよいが、嵐流の時期となるとそうはいかず天神竜の魔力と瘴気を避けるために大きく回り道をしなければならない。
するとシルヴァは普段と違う点を見つけた。
あまりにもモンスターの数が少ないのだ。
普段からモンスター犇めく下層は、中層からも日夜モンスターを確認できる。
無論モンスターとて嵐流の時期になると減る。
しかし生態系で頂点クラスのモンスターは普通に目撃でき、むしろ天神竜の瘴気を浴びに来る程だ。
そんな疑念を抱いたのも束の間。
シルヴァの目の前に光の柱が立った。
「なっ!?」
光の柱は天まで伸び次第に消えていき、柱が立った周りは、雲は消え、雨は止み、残ったのは凪いでいる青空。
この時、普段ならば今も発熱で苦しむシルヴァの妻、エミルのこともあり明らかな異常は避けるべきだったが、シルヴァ自身にも分からない、直感的なものが柱の元へ行かなければと駆り立てた。
すると光の柱が立った場所にはベビーバスケットに入った赤子が、ポツンと取り残されスヤスヤと眠っていた。
「何故こんな所に…!!」
嵐流の最中、しかも弱くはあるがモンスターとも遭遇するかもしれない領域で赤子だけがここに居たのだ。
「早く保護を…!!」
するとそこでシルヴァはとあることに気づいた。それは目の前の赤子が天空人では無いということ。
天空人には当たり前の翼がこの赤子には無かった。
そうしてシルヴァが赤子を抱えた次の瞬間。
目の前にある森から茂みをかけ分けて誰かが歩いてくる音が聞こえた。
直ぐに赤子をベビーバスケットへ戻しシルヴァは、背中に装備している槍を構え魔力を高める。
「誰だ!!魔力が漏れているぞ!!」
謎の赤子に、魔力が垂れ流される人物の接近。何かしらの犯罪現場に居合わせたのではないかと警戒心を高めていると。
「あぁ…よかっ…た…」
森から出てきたのは人族の女性だった。
綺麗であったであろう白百合色の髪を血で汚し、衣服に付いた泥は嵐流の過酷さを感じさせる。
そんな謎の女性の表情からは悪意や何かしらの思惑は感じられず、そこにあったのは安堵の表情だった。
すると女性は膝から崩れ落ちた。
「しっかりしろ!!
今医者に…」
警戒を解き、女性に駆け寄ったシルヴァだったが、触れた瞬間に悟った。
この女性はもう助からない。
右の脇腹を抉り取る大きな傷。
出血により酷く衰弱し身体中が冷たく、シルヴァが漏れていると思っていた魔力は身体から霧散していただけ。
今から医者の元へ向かっても間に合わない。
それでも彼女はシルヴァの手から離れ、身体を這いずらせながら赤子の元へと近づいていく。
ゆっくりと時間をかけてでも辿り着こうと進み続ける。
「っ!!」
「すまない。俺にできるのはあなたを運ぶことだけだ」
シルヴァはそんな彼女を抱え赤子の元へ歩いていく。
天空大陸の騎士団員として。
そんな彼女はお礼の代わりに小さな笑みが返した。
無論、礼など不要。ほんの一瞬でもその命を赤子の為に使ってほしい。
ただそれだけを想い彼女を赤子の元へ降ろした。
彼女は震える手で赤子に手を伸ばし、身体を震えさせながら抱きかかえた。
「本当にイルファルドは可愛いね。流石は私の子」
その身体の震えは、涙を我慢するのに必死だったからこそ起こった震え。
きっと全身の感覚が鈍くなっているだろうに、彼女は赤子に涙を見せまいと涙越しではなくそのままの赤子を瞳で見ようと必死だったのだろう。
「世界は凄いんだよ。ここに来るまでいろんな凄いを見てきた。いつかイルファルドも見に行ってね」
まだ言葉など分からない赤子だとしても、少しでも悲しくならないように言葉を綴っていく。
「悪い子には…ならないんだよ。沢山っ美味しいものも食べるんだよ。沢山っ思い出をっ…作るんだよ」
しかし少しづつ嗚咽の混じった声になっていく。
声色が震えていた。
ついには一粒の涙が彼女の頬を伝った。
「どんな夢でもっ…いい…!!いろんな人達と出会って…友達を作って…恋をして…その度に…沢山の夢を持って…幸せにっっ!!…なるんだよっっ!!お父さんと…っっ見守ってるからね」
一粒の涙は止まらなくなりダムが崩れるように漏れ出す。
「生まれてきてくれてありがとう」
そんな言葉に反応するように赤子、イルファルドは身震いをしながら目を覚ました。
しっかりと互いの顔を見合わせ、別れの儀式をするようにイルファルドと額を合わせる。
その時間五秒程度。
額を離し彼女はシルヴァを見た。
「迷惑なのはっ…分かっています。この子をお願いします」
残っている力を使いイルファルドをシルヴァへと。
シルヴァの身体は考えるよりも先に動いていた。
「安心しろっ!!この子を大きく育ててみせる!!」
彼女からイルファルドを託され、抱えながら宣誓した。
世界中の人に役目、ロールプレイングがあったとしたらきっと自分はこの子を育てなければならない。
そう直感が言っていた。
彼女は何かを言おうとしたのだろう。
しかしその言葉は紡がれなかった。
それが感謝だったのか、イルファルドについてかは分からない。
ただ笑みを浮かべて。
「それじゃあもうっ時間みたい!!イルファルド。母さん。行ってきます」
それが彼女の言い残した最後の言葉。
僅かに残っていた魔力が散布し、全ての魔力が抜けきっていた。
「ぎゃぁ、ぎゃあ」
そんな泣き声をかき消すように再び雨が降り始め、次第に勢いが増していく。
シルヴァは力尽きた女性をそっと木の横に寝かせ、身に着けていたローブをそっと被せた。
イルファルドにはローブからフードのみを切り離し、身体を覆うように包み込む。
「ぅぅ」
「名も知らぬ旅人よ。
私が代わりにこの子を、イルファルドを育てよう。」
イルファルドについてはベビーバスケット入っていた一通の手紙のみ。
それだけだった。
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きっとこの日だったのだろう。
僕の歯車が動き出し、止まった時間が進みだす。
これは一人の少年が歩み、世界の明日を求める物語。
【神無き世界】
そのプロローグだ。
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今回が初投稿です。
文が拙かったり、まだまだ覚えることが多く、経験が足りなくはありますがよろしくお願いします。
誤字脱字など気兼ねなくお申し付けください。
またこちらの作品は【小説家になろう】【カクヨム】で連載していきます。
今後の連載ペースは週1~3と考えており、決して早くはない連載ペースにはなりますが、リアルとの兼ね合いを見て続けていきます。
第一話、第二話に付きましては明日に順次公開いたします。
第一話から後書きでは、世界観にまつわることやキャラクター説明など本編では詳しく語られない情報を記載していきます。
最後になりますが「面白そう!!」「今後が気になる」と思われた方は、評価を頂けると幸いです。
ブックマークも是非ともお願いします。
改めまして重ね重ねになりますが、何卒よろしくお願いいたします。




