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30. May
まさか早速このような僥倖に巡り逢えるとは思わなかった。
旅をはじめて一月あまり。同志を見つけたのだ。
そこは、寂れた石造りの街だ。丸石の敷き詰められた石畳の道路。モルタルで塗り仕上げられた壁。赤い瓦の屋根。中世と呼ばれる時代の名残が色濃く残っている。
その人は、この小さな街を守るかのように暮らしていた。彼はその街を気に入り、いつか再建することを夢見ているのだという。
私は彼を誘った。
彼は私についてきた。
博識で饒舌な彼は、色々なことを教えてくれる。
その中でも特に多いのは、彼が愛する街で一緒に暮らし、残してきた娘の話だ。
彼は、その娘を〝失敗作〟と呼んでいた。