彼女だった理由
え?お父さまとお母さまの馴れ初めが知りたい?もうそういうことを聞いてくる年齢になったのか……早いなぁ。もう十五歳だもんなぁ。初めて会った頃のディアより大きいんだもんなぁ。
元々はね、荒野の開発が面倒だから、どっか領地丸ごと引っ越したいってとこ探そうと思って留学したんだ。そこでお母さまと出会って、色々あって、君たちが生まれたんだよ。
えー、その色々あってを詳しく知りたいの?そうだなぁ。まず、なぜ隣の隣の国を選んだか、なんだけど、優秀な人が募集してないのに向こうから来てくれる不思議な国だったんだよ。
この国で仕事をしてもらいたかったら、募集する、応募される、試験とか面接とかする、で、採用!ってなるじゃない?
でもさ、能力とか条件が合わなかったりしてお引き取りいただくこともあるじゃない?ところがさ、その国の人は全員優秀なんだよ。配属されるとその職場が快適になるわけ。
人当たりも良いし、雇って良かったー!って人ばかりなのよ。そもそも他所の国で働く人たちってさ、元々の国で出国を許可されて来てるから、ある意味その国で不要とされた人でもあるわけ。
この優秀な人たちが不要な国ってどうなってんの?そこまで優秀な人をたくさん育てられるその国ってどうなってんの?って思わない?
それで兄上にどっか良い領地ないって言われた時にその国に行けば良い物件余ってるかも?って思ったんだよね。で、お父さまはその国に留学したんだよ。
当時はもう公爵になってたけど、そこは内緒にして、普通の学生として行ったんだ。そしたら確かに学校のシステムは素晴らしかった!
色々な職業について学びたいだけ学べるんだ。料理とか建設とか騎士道とか、知りたい事やそれ以上を知る手段がある。時間さえ捻出できれば何でも学べた。
民間から職人を呼んでその技も教えてもらえた。あと、とにかく本がたくさんあった。古い物から新しい物まで。この国の本もあったよ。国外に出た卒業生たちが後輩の為にって世界中から送ってくれていたんだって。
ただ、唯一にして最悪な欠点が評価システム。機能していなかった。成績がお金でなんとかなる世界。それってどうなるか分かる?媚びたり騙したり奪ったり。ずるい奴、悪知恵のあるやつ。実がないやつ。スゴいんだよ。ずっと上位にいるの。意味分からないよね。
もうその頃には国の上層部がそうなってたんだろうね。なんとか実力で入っても干されてしまう事もあったって、その国出身の文官から聞いたことがあるよ。その人も我が国では充実した生活を送ってくれてる。聞いた時は嬉しかったな。兄上スゴいって思った。
そうそう、話が逸れたね。えっと、留学してお父さまはそりゃーもう毎日勉強した。ワクワクが止まらなくて、ガラスも作れるようになったし、家も建てられる。料理はちょっと向いてなかったけど四ヶ国語はマスターした。え、興味ない?お母さまはどうした?って、ちょっとはお父さまに興味持ってよ。
君たちのお母さまに初めて会った日、忘れてないよ。すごく可愛かった。当時のディアは今の君らよりちょっと若いくらいだったけど、見た目は今の君らより大人びていた。怒るなよー。はい。確かに失言でした。ごめんなさい。
えー、ディアは最初は年齢より大人っぽく見えて、クールビューティーだなと思った。腰まで伸びた銀の髪がキラキラしてて、綺麗な瞳、可愛らしい唇。隣にいたジェーン嬢、って今はジェーン女王だったね。
ジェーン様と仲が良くて、彼女に笑いかけるディアがそれはもう可愛くて。そのギャップでもう。なんか恥ずかしいな。でもその時からずっとだから仕方ないか。
しばらくディアを遠くから愛でる日が続いたんだ。綺麗だし可愛いし聡明だし優しいし時々面白いし。好みのタイプがこの世にいる奇跡に震えて流石になかなか声がかけられなかった。え?気持ち悪い?仕方ないでしょ?君らだって絶対声かけられないからね!
しかもジェーン様が手強くてさ。ディアに近づく男性を牽制するのがすごく上手いんだよ。今もスゴいけどさ。なかなか認めてもらえなかったんだよなー。
でね、ある日気がついたんだ。ディアの魔力の中に何か変な魔力がある事に。医学を学ぶ課程で身体の不調を探り当てる方法を学ぶんだ。ディアには極めればすれ違っただけで分かるって伝えたけど、本当は毎日愛でてたから違和感に気づけたんだよね。
ちょっと気持ち悪い?だよね。ディアには言えないなとは思ったけど、もしその時気付けなかったらディアは大変な事になってた。洗脳魔法をかけられて、自分の心を支配されて、愛していない人を愛していると錯覚させられるところだった。
人の心を操る魔法の規制が厳しい事は知っている?ディアの件もあってこの国の検査機構が発展したと言っても過言ではないよ。
結婚の書類を受理する時に必ず精神干渉されていないか検査する事になったのもその一例だ。他にも契約の時とか色々あるけど、今度自分で調べてみて。
で、ディアの身体に当時の王太子に付けられていた魔力マークなんだけど、え?そうだよ。王太子に付けられてたんだよ。驚くよね。しかも代々そういうことをしてた国があったんだよ。
小さ過ぎて魔力が強いディアには違和感としか感じられなかった。儀式とやらに使う魔道具も充填するのに十三年もかかったんだって。びっくりしたよ。君たちだったらニ、三ヶ月くらいかな。それだけ魔力効率が悪い王太子だった。
さあ、ここでお父さまの登場だよ。その異変を君たちのお父さまが見抜いたんだ。もしそのままだったら儀式の時に洗脳魔法がかけられて、ディアの意志を無視した運命の出会いが演出されていた。
君たちには出会えない未来。怖いな。想像しただけでなんか涙出そう。その最悪な王族はそんな魔道具を嬉々として使っていたんだ。
正直なこと言うと、初めてディアに声をかける事ができたのもそのマーキングに気付いたからだったから、その点では感謝してはいる。
でもさ、酷いんだその国。ディアを王妃に迎えた後、ディアの魔力を搾取するプランまであったんだよ?信じられる?魔石に魔力を込めさせたり、結界を作らせたり、それはもう色んな計画があった。
酷いものではディアを高位貴族たちで共有してお金を稼ぎ、魔力の高い子どもを得る可能性を上げるとかいうゲスい案もあった。君たちは思いつきもしないだろう?世の中には他者をモノ扱いする人たちがいるんだ。
この国では排除するより対処する、を合言葉に様々な魔法や魔道具を開発してきているけど、全員救えたわけじゃない。その歴史も隠さずに若い世代に伝えているだろう?それで好き嫌いに関わらず歴史は必修なんだよ。
また話が逸れた?ごめんごめん。そう、それで、悲しい事実を伝えるよ。ディアは間に合ったけど、当時の王妃様は被害にあった後だったんだ。
その前の時代の王妃様たちはもう亡くなっていて記録もないしどうだったのかは分からない。ただ、当時の王妃様は今は本当に愛する人に支えられて穏やかに暮らしているよ。
治療として許可されている範囲の忘却術は使った。生きていて欲しかったから。異例の事だけど、王妃様がどんな被害にあったかは公表されない。そうすればその被害は想像でしかないし。せめてもの、ね。
ディアに起きた事と王妃様が離縁する事を公表した後、国は荒れた。でもそれを聞きつけた国外に出ていた優秀な先輩たちが帰国して、できるところから変革を始めてくれた。いや、本当あの人たちスゴいんだよ。
その諸々の流れで当時この屋敷で暮らしていたジェーン様を女王に、って依頼しに代表者がここに来たんだ。まさにこの屋敷で時代が動いたんだよ。君たちはまだ生まれてなかったからアレだけど。
ジェーン様ね、王位継承順第三位だったんだよ。王太子、ジェーン様のお父さま、ジェーン様の順ね。
話し合いの結果、まずジェーン様のお父さまが王として変革を推し進めた。可愛い娘のジェーン様が困らないように。その間にジェーン様は王配を選んだり、女王としての教育を受けたり、ディアと楽しく遊んだりしながら国を整えて行った。
その間に学校の評価システムも正常化されて、ディアをモノ扱いしようとした人たちも消えて、新しいお城ができて、今のあの国になったんだよ。
お父さまもちょっと協力したし、ディアはあの国に帰っちゃうんじゃないかって不安になるくらい熱心に変革の手伝いをしてた。
そうこうするうちにディアのお父さまからもジェーン様からもディアへのプロポーズの許可が出て、マニアックな魔法使いたち全面バックアップの下、ちょーロマンチックなプロポーズをして今に至ると。プロポーズの話は詳しく話すとディアに怒られちゃうから内緒ね。
「さあさあ、もう寝なさいな、愛しい子どもたち。」
ディアが暖炉の間に入ってきた。やばい。どこから聞いてたんだろう。あ、ちょっと怒ってる。怒ってても可愛いんだよなぁ。やべ。声に出てた。
愛しい子どもたち、おやすみ。また明日ね。
さーて、ディアにかまってもらおうっと。
誤字報告ありがとうございます!
(2024/12/19)