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文芸部の凪沙さんと美術部の穂波さん 〜まっしろ〜

作者: 石田灯葉

「まっしろだあ……」


 あたしは自分の頭を小突きながら、机に突っ伏して、窓の外を見る。

 そこは、いんキャのあたしでもちょっと羨ましくなるくらいの陽気だ。


 透明のガラスを震わせるのは、ミンミンゼミの鳴き声、運動部の気合の入った雄叫び、吹奏楽部の楽器のまっすぐ空へと飛ぶ音。


 貴重な高2の夏休み。気合十分で朝シャワーを浴びて、わざわざ文芸部の部室まで来て、6時間もここに座って。


 ……その成果がこのザマ——まっしろだ。


 今日だけならまだ救いがあるけど、もはや日課になってしまっている。


 こんなことを夏休みに入ってからほぼ毎日やっているうちに、もう8月に突入だ。


「うはぁ……」


 溜息をついて目を閉じて、あたしの視界はまっくろになる。ついでに、お先はまっくら。自分の腕をまくらにこのまま眠ってしまおうか。


 ……こんな下らない言葉遊びがいくら浮かんでも、素晴らしい物語の卵は、イクラ一粒分も産まれない。

 ああ、まただ! そんなこと考えなくていいから他のところに頭使えよう、あたし……!


 小説コンクールの締め切りは再来週。


 現状書けている文字数、28000文字(マイナス)28000文字。計0文字(なり)


 え、どういうこと? もしかしてスランプ? それ以前に才能がゼロ? うう、まだ高校生なのに自分の天井なんか見たくないよう……。


 あーだこーだと文字にも声にもならないうめきやなげきを頭の中で走らせていると。


「うはは、まっしろだね」


「んっ!?」


「んがっ」


 突然声がして、驚いて起き上がって振り返る。


 そこには、右頬を撫でながら「痛いよ凪沙なぎさ……」と、あたしをジト目で見る黒髪ショートの美少女。


穂波ほなみ、何してんの……?」


「ほっぺ押さえてるの。凪沙の頭が私の顔面にヒットしたから」


「いや、ごめん、穂波そっちが悪いんじゃん、ごめん……」


「謝るか私のせいにするかどっちかにしてよ」


「穂波が悪い」


「まさかの後者そっちへの着地!」


 穂波は「まじで許すまじだわ」とか言って笑っている。


「って、そうじゃなくて。なんで学校にいんの? 今日美術部あったっけ? だとしてなんで文芸部室(ここ)にいんの?」


「質問大好きちゃんか。いや、今日は美術部はないんだけど。成績優秀すぎて補習に引っかかっちゃって」


「そんなことある?」


「で、終わって帰ろうかなって思ったら、文芸部の電気ついてたから。もしかして凪沙いるかなって思って」


「はあ……」


 あたしの超正論ツッコミを無視したのはまあ見逃すとして、それにしても相変わらず豪胆というかなんというか。あたし以外の見知らぬ先輩がいるかもとか思わないんだろうか。


 呆れと感心を半々に口を開けてるあたしの前にあるパソコンを指差す穂波。


「それ、何書くとこ?」


「それが決まらないんだよ……。見て、これ、あたしの2週間の成果。やばくない?」


「うは、超やばい」


 笑いながら穂波はあたしの隣に座って、そこらへんに置いてあるコピー用紙とシャーペンを手繰たぐり寄せた。


「じゃあ、私もなんか描こう。何描こっかなー。うへへ」


「楽しそうだね……」


「楽しいでしょ。まっしろな紙を見てる時が一番ワクワクするよ」


「うっそー……なんで……?」


 今あたしは妖怪まっしろに心を食われそうになっているというのに……。


「私の目の前にある時点で、この白い紙はかみさくになる可能性が大いに秘められてるからね。カミだけに。あれ、私今うまいこと言っちゃったな?」


「そうでもない……」


 ……けど、そうか。


「ものは捉えようってことかあ……。『その白紙、限界? それとも可能性?』みたいな」


「ちょっとやめて、私そんな標語みたいな話してない! みつをか!」


 そんなことを言いながら、穂波はスラスラとペンを走らせ始めた。


「うわあ、もう描き始めてる……」


「んー……よしゃ、出来た!」


 そして、数秒後、描き上げた神作とやらを掲げた。


「何それ?」


「凪沙の似顔絵」


「まじ?」


「まじ」


 合わせた目を二人してパチクリさせて、


「やば、似てなすぎる!」


「それな、いや、まじでくそ駄作……!!」


 それから、あたしたちは、頭が真っ白になるほど爆笑した。


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