8話「過去が交わる想いのタネ」
(今回ちょっと長くなってます。すみません(by作者))
琥珀の過去と過去が交わる想いの話
琥珀side
職員さんの目の前で偽るためとはいえやりすぎだよ….ナツ。まさか本心じゃないよね?こわいよナツ。実験に行く時私はいつもナツがいるから後で幸せが待ってるって思って耐えてたのに….それにナツは暴言とかだけならまだしもなぜか持ってた電撃スイッチを押した…それを持ってることさえ言ってくれなかった。クロウに渡されたならしょうがない。なのに何で言ってくれなかったの?私だってナツが実験体であること隠してるよ?でも教えて欲しかった….自分勝手?自己中?そんなのわかってるよ。でもしょうがないじゃん。どうすればいいかわかんないんだから。ナツだって分からないのかもしれない。だから帰ったらちゃんとはっきりいうどんな隠し事もしないでほしい。辛いって悲しいって苦しいって。そうはっきりいえナツが悩んだりもしないと思うから
ナツが心から私を嫌っていたなら琥珀なんて素敵な名前くれなかった。バケモノか番号で呼んでたはずだから。
それにナツが私を裏切ったらきっともう私は….誰も信じられないから。本当の名を忘れた私に琥珀という名をつけてくれて。
苗字….ほしいな。
本当の名前….思い出してみようかな。ナツが私を裏切っていたと仮定するなら琥珀でさえも嫌いな名前になるかもしれないんだもん。
小さいころ、そう、化け物ってバレた時。あの時は昨日のことのように覚えている。。でも名前だけはまるでもやがかかったかのように思い出せないの。
他のことはきちんと覚えているのに何で名前だけは思い出せないの?防衛本能ではない。だってトラウマを忘れようとするなら全て忘れて思い出すトリガーが名前だっておかしくはない。
そういえばナツの上の名前聞いてなかったな。聞いてみようかな。
バケモノと初めて呼ばれたあの日。私は初めて心から願うことがあったんだ。それは幼稚園生の卒園式だったかな。
友達のあの子が大好きであの子が休むと私は泣いてしまうってお母さんが言ってたっけ。
お母さんももうわかんないけど。
それで卒園と同時にあの子が引っ越すって言って遠くに行っちゃうんだって理解してあの子と離れたくないって小学校も一緒に行きたいんだって心から願ってそれが結果的には叶った。急遽その子のお父さんのお仕事が中止になったみたいな話を聞いた気がする。それでその願いを心から願ったその瞬間私の背中から天使と悪魔の翼。天使のリングにその横に小さな翼がバサッと現れた。その瞬間その場はまるで時が止まったように動かない。そんな時その子の親の携帯の着信音で周りの空気が溶けた。その電話は引越しの中止。私は舞い上がってその子のところにその状態で行った。でもその子の母親は私からその子を引き剥がす様に離した。
私が驚いて困惑しているとその子も驚いた様だった。まだ小さいが故に異常性に気づかない
その子の母親は私の母親に向かって言った
「コスプレじゃありませんよね….?流石にそうは見えないんですけど」
私のお母さんも驚いて何も言えない
「その反応違いますよね?何なんですか?気持ち悪い。うちの子と関わらないでください。」
私はほぼ引き摺られる形で家に帰った。
それで家に帰ってから質問攻め。でもまだ幼稚園を卒園したばかりで小学校にすら行ったことがない私は何が何だかわからなかった
翼はまるでアニメの世界に入ったように可愛いって思うだけで変だとは思わなかった。両親がこの羽が嫌いなのは理解できたけど自分が好きだからいいやって感じで両親の前では羽が消えてほしいって見えない様になってほしいって願ってた。でも自分はこの羽が好きだったから今思えば心からの願いではなかったんだと思う。中途半端な願いじゃ発動できないのがこの力の難しいところなんだと思う。私自身この羽が好きだから消えることはもちろん見えなくなることもなかった、だからそれを理由に親に避けられて虐待が始まった。
その後そのまま小学校に通った。周りは私を注目して小学一年生だからそれが変っていう理解はあまりしてなかったから最初はすごいとか綺麗とかそういう反応だった。せんせいに「コスプレするな」と怒られたけど「本物です」って言い張って先生にまだ怒られて羽を引っ張られてそれでようやく諦めてもらえたんだっけ…痛くて痛くて泣きそうだったな。小学一年生の割にはよく我慢できたなって思う。それから周りの子たちも私が変だって気づき出していじめが始まった。そんな日々が1年続いて苦しくなって私はバケモノなんだって思った。でもそんなの嫌だって思って羽が消える様にってこの時初めて心から願った。
羽が消えこそはしなかったものの周りからみて見えなくなった。消すことはできない残念感と絶対に羽が残ってることをバレてはいけないという思い。羽根は神経が集中しているのか引っ張られたり傷つけられたりすると他とは比べ物にならないほど痛かった。
だからいじめは収まらなくても羽さえ守れればって思った。私の羽が突然消えてみんなびっくりしていたけど一度ついたバケモノという印象は覆ることがなくいじめられ続けた。そしてある日いじめさえもなくなってほしいって耐えられなくなって心から願った。この環境から救われたいと願った、心からの願いをした反動で羽がバサッと出てきてそれはちょうど攻撃されている時だったから撮影している人がいてSNSにあげてそれをこの施設の人が見て本物にしか見えないからきてみた結果本当だったから私を騙してこの施設に収容したんだと思う。これが私がバケモノだとバレてからこの施設に来るまでのだいたいの経緯だった。
この施設の人はあの時は救いだと思っていた。実際に願いはある意味かなってあの環境からは逃れられた。もっとひどいことになってしまったけど。この力はかなり融通が効かなくて扱いにくい….こんな力はもちろん翼も何もいらないよ….
なにもいらない。ただ普通さえあれば….
普通が欲しいっていう単純な願いなのに私には叶わぬ夢。この世を生きる大抵の人が生まれた瞬間から当たり前に持っていてそれが壊れることはほとんどない。病気とかで普通に暮らせない人はいるかもしれないけど私のように普通を奪われることなんてないはず。なのに私は当たり前じゃない。普通じゃない。理不尽だよ….普通をください。それは願わなくともあるはずのものを願ったとしても手に入らない私の本当の心からずっと願い続けている願い。
そうやって過去や自分の願いを再確認していると準備が終わったのか職員さんが話しかけてきた
「お前結構ぼーっとしてたな?まぁ思ったより時間かかったからいいんだけどな。実験開始するからこの部屋入れ。終わったら俺がまた迎えに行くから。」
「は….はい。わかりました」
今日も怖くて痛くて苦しい実験。もうやだよ助けて。ナツぅ
「No.76,時間だこい、ここの横になれ」
「はい…..あの、今日は何するんですか」
「実を言うとほぼ人に同じ能力を植え付ける実験はほぼ完成していてな?ナツメで実験するだけなんだ。でもお前にはまだ用がある。それは別の能力が作れるか。だだから今日は身体検査をする。死なれても困るからな。実験ではない。明日はお休みでナツメが実験されるからなよかったな。」
よくないよ。やだよ。ナツが完全に裏切ったって決まったわけじゃない…..ナツは今何を思ってるの?私が苦しくて辛い実験をされてるって思い込んでるあなたは私のことどう思ってる?ナツ…
琥珀は思った
「私がもし普通であれば.....どんな生活、どんな人生だったんだろう」と
そんな存在しないifを想像しナツメのことを考え今日も実験されていく。