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『だあれ?』

『ユディラス・シュークリット、君の王子様だよ』

『アンシーのおうじさま?』

『そうだよ、だから僕が守ってあげるから大丈夫』


そういった瞬間に花が綻ぶように笑ってくれたアンシェリーは、この世の全てを持ってしても手に入れることの出来ない天使のようだった。


『アンシーはおうじさまのおひめさま?』

『お姫様になってくれる?』

『おうじさまは、おひめさまだけをあいするのよ?』

『もちろん』

『ふふふ、じゃあアンシーもおうじさまだけあいするから、おひめさまになってあげる』


そんな会話をしながら、小鳥の庭園から実は割とすぐの庭園まで、遠回りをして手を引いて歩いたんだ。

ティーパーティーなんて本当は僕だって退屈で、それでなくてもアンシーだけに時間を割けないなんて、意味がないようなものだ。

もちろんそんな事は口が裂けても言えないけれど、王族であっても貴族であっても平民であっても同じだろう。

少なくともキャンディラス公爵はそうだし、執務を少しでも早く切り上げて帰ろうとする姿勢を隠しもしない。


『愛しい妻と子が待つ我が家以上に素晴らしい場所などありません、同じように二人と過ごす以上に素晴らしい時間などありません』


陛下に半分本気で『ハウザーもうここに住みなよ』と言われた時、すごく冷めた目でそう告げたのは有名な話だろう。

陛下からすれば親友で仕事においても優秀な閣下は、公私ともに必要不可欠な存在であるのは周知の事実で、閣下ほど陛下に辛辣な者など在りはしない。

閣下の態度を真似て失礼な態度を取る家臣がいない理由は、即位してすぐの頃のまだ若い陛下を自分の思うようにしようと画策した者も多かったらしいが、そんな時誰よりも陛下の言葉を重んじて従っていたのが閣下らしく、若い王だとしてもこの人が仕えるべき人だと他の者にも深く刻まれたかららしい。




ティーパーティーが開催されている庭園まで戻れば、しっかりと公爵夫人に怒られる時間がアンシェリーを待ち受けていた。


『おうじさまはおひめさまをまもってくれるんでしょう?』


怒られることが分かっていたアンシェリーが、そう言いながら僕の手を離さなかった為、さらに公爵夫人の怒りを買ったのはまた別の話だろう。



『ユーラス、随分時間がかかっていたみたいだけれど?』

アンシェリーが手を離した一瞬を見計らって母からの厳しい指摘が入って、やっぱり母の目だけは誤魔化せなかったかと思った。



たぶんあの後もこってりと夫人に怒られたであろうアンシェリーは、翌日少したどたどしい言葉で謝罪に訪れた。

『でんかにたいしてせんじつはたいへんなしつれいをもうしわけございません』

僕はもちろん母上も気にしてなんかいなくて、その可愛さに思わず笑ってしまった。


『アンシー気にしないで、殿下じゃなくて昨日言っただろう?僕はユーラスだよ』

『ふふふ、ユーラス!』


笑顔でそう呼ぶアンシェリーは、その場にいた僕の両親の心も奪っていった。


『やっぱり女の子はまた違うのね』

『いやきっとアンシェリー嬢が特別なんだろう』

『まだ未熟なアンシェリーに代わってお詫び申し上げます』

『スティーいいのよ、ユーラスがそう呼ぶように求めて応えた、ましてや将来『いいえ、そんな訳にはいきません。アンシーには殿下と呼ぶように言い聞かせます。ちなみに女の子であってもアンシーの可愛さは格別なので、ひとえに女の子と言われるのはいかがなものかと』

『ハウザー!』


閣下の親バカぶりはアンシーが生まれてから、ただの一度も衰えない。

むしろ日増しにすごくなっている気もするけれど、将来の話だけは絶対に誰であってもさせてもらえない徹底ぶりだ。


こんな閣下との攻防戦もわくわくするぐらい毎日アンシェリーとも顔を合わせるようになったのは、侯爵位以上の貴族令嬢が受けなくてはいけない王妃教育のためだった。

もちろん王宮で受けなくてはいけないという決まりなどなく、キャンディラス家なら優秀な教師を迎えることができただろう。

実際アンシェリーよりも年上の令嬢たちはそれぞれ教師を呼び、すでに教育を始めていた。


『閣下、ひとつ提案をよろしいですか?』

『アンシーのこと以外でしたら』

『アンシーのことになるのですが、閣下の為にもなるかと』


眉毛を動かしたように見えたのは、気のせいではないと思う。


『アンシーの王妃教育を王宮でするのはいかがですか?』

『何を言われるかと思えば、殿下が気にされなくてもしっかりと教師をお願いするつもりです』

『教師というのなら王宮の教師以上はありえませんし、家に帰らずともアンシーに会えるんですよ?』

『アンシーに会えるのは嬉しいですが、それとこれとは別です』

『では閣下の見えないところで教育を受け、ダンスレッスンで他の(もの)が相手をしてもよろしいのですか?』


その翌日からアンシェリーは王宮での王妃教育をスタートさせ、閣下は隠しもせず愛娘にデレデレ(にこにこ)していた。

そもそもデビュタントもまだの貴族令嬢が、婚約者を除いて親族の者以外の男性にダンスの相手をさせるはずがないのだけど、そのことに閣下が気がつくのはまだ先の話だろう。


閣下に邪魔をされながらも時間を見つけてはアンシェリーと過ごすのが日課となり、アンシーも貴族令嬢らしい喋り方が普通になりながらも僕には砕けて話てくれるのが好きだった。


『ユーラス聞いて!今日の授業では隣国の言語を学んだのよ!先生が言うには私の発音が、まるで隣国の方と同じなんですって』

その日褒められたことに始まれば、気がついた頃には猫の形をした雲の話まで。

『どうしても授業中眠くなってしまって、空を見ていたの。そうしたらこの間一緒に見た猫と、同じ形の雲が流れたのよ』


可愛らしいアンシェリーの話は、退屈に思える日でも楽しかった。



そのアンシェリーが僕にさへ喋り方を崩さず、お茶に誘っても断るようになったのは突然だった。

『アンシーお茶でも飲みながら、少し休憩しよう』

いつもだったら二つ返事のアンシェリーが、膝を折って丁寧に応えた。


『申し訳ございません、殿下。本日は父と約束がございまして、このまま失礼いたします』


呆気に取られながらも授業の影響か、閣下の影響だろうと深く気に留めずにいた。

流石に違和感を隠せず執事に聞けば、ペルチーノ公爵の策略だと知る。

その頃にはアンシェリーの逃げる足に磨きがかかっていて、話をするのも難しくなっていた。




『この国を照らす光、王太子殿にご挨拶申し上げます』

『あぁ、ペルチーノ公爵』

『殿下もしよろしければ私の娘リビラスにも、アンシェリー嬢と同じように王宮で学ぶ機会をいただけませんか?』

『申し訳ないが、それは陛下が決めることです』

『あ、でしたら御口添えだけでも…』

『閣下、陛下は私と同じで交友関係や人事に口を出されるのを嫌うお方です』

『し、失礼いたしました』


牽制になっていれば良いけれど、野心を隠さず娘を王妃にと画策しているのは分かっている。

ペルチーノ公爵とキャンディラス公爵では差が歴然で、領地民の反応が一番顕著だろう。

貧富の差が少なく理想的なキャンディラス公爵領に対して、裕福な者だけがさらに裕福になる現実をそのままのペルチーノ公爵領。

そもそも王室の信頼を得て公爵位を賜った歴史あるキャンディラス公爵家と違い、隣国の姫を妻にもらい伯爵から公爵に成り上がったペルチーノ公爵家では違うのかもしれない。


ペルチーノ公爵が娘を王妃にしようと画策する横で、それがいいでしょうとにこやかなキャンディラス公爵には誰もが肩透かしをくらっている。

アンシェリーもさすが閣下の娘というべきか、自分が公爵令嬢であることを忘れているのか、殿下が素敵な御令嬢とご一緒になられたら両陛下も安心ですねなんて、呑気に教師と話ているのを聞いた時はおかしくなりそうだった。


それでもアンシェリーのデビュタントだけはと思っていたのに、ペルチーノ公爵に誰よりも先に同意したキャンディラス公爵のせいで、エスコートも叶わなかった。

恐らくダンスレッスンで僕がアンシェリーの相手を務めたことを根に持っているんだろうけど、今後婚約者になった時の事も考えてほしい。

これこそが閣下からの娘は渡しませんという、そういう気持ちなのかもしれないが。


アンシェリーのデビュタントから一年が経つ頃、僕の二十歳も目前で周りでは僕の婚約者選びで論争が飛び交っていた。

グリーンベル侯爵は早々に令嬢の婚約を他でまとめ、相手が僕の友人でもありキャンディラス公爵の甥であるザックということもあって、アンシェリー派の筆頭となっていた。

もちろんキャンディラス公爵は納得していないが。


『殿下におかれましては、我が娘リビラスをいつもエスコートしていただき、国民も二人の婚約を望んでおります。婚約前の娘をいつもエスコートしていただいたのは、婚約者筆頭候補だったからかと』

『公爵、随分エスコートに重きを置いているみたいだが、それは公爵が提案した二つの公爵家に差がないことを示す為だったはずでは?』

『仰る通りでございます、ですが国民がこのまま二人の婚約を望んでいる事実にも耳を傾けて頂きたく』

『国民が望んでいるというのは一人一人に聞いてきたのか』

『あ、いえ、我が領地民と近い領地民の声で…』

『では王子の意見を聞いてから判断しよう、王子』

『はい、私は二つの公爵に差がないことを示すのならば、むしろキャンディラス公爵令嬢と婚約するべきかと思います。一年間交互にエスコートするなどではなく、ペルチーノ公爵の意見を尊重して、キャンディラス公爵家を軽視してるとも取れる状態でした。それはペルチーノ公爵の希望していた公平に背きますし、国民の声と言うのなら、私たちはそれを代表した貴族の声を取りこぼすわけにはいきません。よってペルチーノ公爵の希望である、二つの公爵家が平等であることを示すためにもキャンディラス公爵令嬢との婚約が良いかと思います』

『そうだな、王子の意見に異議のあるものは今申せ』

『陛下!我が娘リビラスは殿下のため日々尽くしているのです、どうかっもう一度お考えください!』

『そうです陛下、アンシェリーはリビラス嬢と違いまだ婚約には幼すぎます』


みんな頭にクエスチョンが浮かんでいるのは当然で、アンシェリーもリビラス嬢と同じ年で幼すぎるはずもない。


『キャンディラス公爵もし私との婚約が不満であれば、この国でアンシェリー嬢と婚約できる侯爵位以上の令息はいないので、

遠い国に嫁がせることになりますよ?それこそ閣下の目が届かない国』

『殿下、我が娘アンシェリーも殿下との婚約に興味があるようです』


この国では公爵家に置いては侯爵位以上ないし王室を除いては国外に嫁ぎ国益に務めることが決まりであり、従って根回しをして侯爵位以上の男性が全て婚約済みのこの国に、アンシェリーが留まるには僕との婚約しかない状況を作った。

閣下が簡単には婚約を許さないことは分かっていたからこそ、こちらも全力で一年間動いていた成果だ。


ペルチーノ公爵やその派閥貴族が騒いでいたけれど、そんなことはもはやどうでもよかった。

あの二歳八ヶ月の日から、ようやくアンシェリーの婚約者という立場を手に入れたんだから。




逃げられたけど、もう逃さないよ。

だってアンシェリーが逃げる前から僕は君を見つけていて、君が僕を王子様って言ったんだから。


「今までで一番楽しそうですけど、手加減してあげないとアンシェリー嬢が可哀想ですよ」


追いかける一歩を踏み出した僕に、ブリタルドから声をかけられたけど仕方がないだろう。


「無理だよ、手加減なら今まで散々したんだから」


笑顔でそう言えば、ブリタルドはそれ以上何も言わずため息を一つ落として準備に向かった。



次回からアンシー視点に戻ります><


ブックマークありがとうございます^^

ちょこちょこ更新していくのでよろしくお願いします!

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