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「改めて今回の婚約、受けてもらえるだろうか」


テラスに着いてすぐ、殿下は再度首を傾げ上目がちに尋ねられました。

心臓が脈打つ速度を上げて、いっそ止まってしまうのではないかと思うほどです。

殿下は御自身の存在が放つ力を、その神々しさをご存じないのかもしれません。



「もちろんでございます」

「あぁ、あり「殿下とリビラス様の婚約がうまく整うための、偽婚約ですよね?」


殿下が喋ろうとしていたのを遮って、一思いに喋ってしまいました。


「申し訳ございません、殿下のお言葉を遮ってしまいました」

「うん、それはどうでもいいかな」


やはり殿下はお優しいこと神の如く、そのお姿にも感じる内面の神々しさです。


「アンシェリー嬢、いやアンシー。ここ数年で、きみは私を殿下と呼ぶようになった」

「?殿下の御名前をむやみに呼ぶことは不敬にあたりますが、殿下と呼ぶことも控えた方がよろしいでしょうか」

「確かに王族の名前はみだりに呼ぶものじゃない、だけど私はきみに呼ぶことを許していたはずだろう」

「幼き日にお許し頂いたことは覚えておりますが、私もレディと呼ばれる年になりましたので、控えなくてはならないかと…」


出会った時でしょうか、確かに御名前を呼ぶ許可を頂きました。

ですが当然幼き日の出来事であり、いつまでも呼んで良いものではないと分かってました。


殿下の成人を迎えるよりも前、殿下が十五歳で私が十三歳の頃でした。

まだユーラスと無邪気に呼んでいましたが、それを見ておられたペルチーノ公爵様よりお教えいただいたのです。


『殿下はこの先この国を背負って立たれるお方なのに、未来を約束したわけでもない君が名前はおろか愛称で呼ぶなどあってはならない。将来殿下の隣に立つお方が不安になるかもしれないと、君はうちの娘と同じ年なのだからそろそろ考えるべきだろう。

うちの娘は殿下と親しくしたいと思いながらも、殿下の将来を考えて近づきすぎないようにしているんだ。同じ公爵家の者として、君にも殿下の未来を考えた言動をしてほしい』


自分の無知さを恥、同じ年のリビラス様の思慮深さに感銘を受けた出来事でした。

あの時教えて頂かなければ、きっと今でもユーラスと呼びリビラス様の不安を煽ってしまった事でしょう。




「あの時から急に王宮にも顔を出さなくなって、アンシーに見せると約束した花さへも待ち惚けてる」

「申し訳ございません、小鳥の庭園にて約束のスズランが咲いているのを観させて頂きました」

「見せると約束したからね、あの後も毎年小鳥の庭園はスズランを咲かせているんだ」


少し憂いを帯びて微笑む殿下は、たぶんこの世の美しさを全て集めても勝てません。

そしてあのスズランが約束のために咲いていたなんて、もうその御言葉だけで姿絵を手に入れられなくても生きていけそうです。

ウィビーの言葉を借りるなら、殿下しか勝たん。


「アンシー、私はリビラス嬢とは婚約しないよ」

「リビラス様と仲睦まじいのは存じておりますし、殿下がリビラス様と婚約するために私に手伝って欲しいというのなら、キャンディラス家は協力は惜しみません」

「うん、その協力をしたら閣下は宰相の立場を追われかねないんだけどね」


笑顔でものすごく怖いことを仰って、神々しい笑顔の殿下はやっぱり素敵で、ちょっと、本当に少しだけ怖いです。


「アンシーが考えてることはわかるから、全て私から説明して良いかな?」


なんと殿下におかれましては、私の心まで見えるようです。

それならば、拝んでもいいと許可をいただきたいけれど、むしろそれ自体控えるように告げられたらどうしましょう。


「まずリビラス嬢と仲睦まじく見えていたのは、社交界でエスコートしているところを何度も見ているからだよね?それ自体キャンディラス公爵がそれを薦めたからで、私の意思ではないんだよ。しかもファーストダンスも私は踊らずに、いつでもキャンディラス御夫妻が務めてくれていた。入場だけはエスコートしていたから挨拶も一緒にいることが多かったけど、その後アンシーは逃げていたから知らないだけで親しくしていたつもりはないよ」


逃げていたことが殿下にも知られていたなんて、やはり悪いことはするべきではありません。

貴族の務めと思い、次回からは頑張らないといけませんね。


「だからリビラス嬢と婚約することはないし、今日私はアンシーに求婚しに来たんだよ。公爵には昨日ようやく許可をもらって、先ほど夫人からも許可を頂いた。だからアンシー勘違いしないで、あの日に戻って言うよ。僕と結婚してほしい」

「殿下と?」

「うん、先ずは婚約という形になるけど、許可してもらえるならすぐにでも結婚の準備に入るよ」


先ほどから笑顔の殿下は、まるで私と結婚したいと言ってるように聞こえて、耳がおかしくなってしまったのかしら。


「殿下とどなたが結婚されるのですか?」

「アンシー、君だ」


神様の中にはとても意地悪な神様や、悪戯が大好きな神様がいると言います。

もしも私の殿下に対する気持ちを疑って、こんな風に試しておられるのならばおやめください。


「殿下、私は殿下をお慕いしているという可愛らしい気持ちを超越し、崇拝しております。ですがそれゆえに、殿下と

近づこうなどとやましい気持ちは決して抱きません。いえ、抱けるような者ですらありません。ですのでこのお話は、辞退させて頂きたいのです」


「嫌われてるわけではなかったんだね、でも崇拝してる僕のお願いをアンシーは断るんだね」


なぜでしょう。

ものすごく憂いを帯びた雰囲気の殿下から、圧をビシビシと感じます。


あぁ、でももう限界です。

その御尊顔を前に手がくっつきそうです、拝んでしまいそうです。


「で、殿下、申し訳ございません、もう私は限界なのです。こんな私では、殿下の隣には立てません。こ、こん、婚約は辞退させて下さいませ」


言うが早いか脱兎の如くテラスを飛び出し、淑女にはあるまじき速さでその場から逃走いたしました。



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