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その時のことだった。急にめまいがしたと思うと、瞼が異常に重たくなって、つい眠りにはいってしまった。
誰かが僕を揺すっている。目を開けてみると運転手さんだった。
「お客さん。終点ですよ」
終点。えっ、終点!その言葉に頭は氷水をかけられたようにさえてしまった。周りを見回したらやっぱり知らない所。それもそうだ。終点まで乗ったことがないから。
景色を眺めている場合じゃないと自分を責めながら、前に立っている運転手さんを突き飛ばしてバスから降りる。これじゃ当番どころか、完全に遅刻だ。がっくりした気持ちを取り直してバスを待ち始める。
こんな時に限って時間は長く感じるもの。ようやく来たバスに飛び込むと今度はドア付近の椅子に坐る。少しでも時間を稼げると思って。
校門前についた。体を屈めてバスをおり、そのまま校内に潜り込もうとしたが、警備のおじさんに見つかられた。名前とクラスを遅刻簿というノートに書いて教室に向かう。
遅刻簿とは一週間のうち、遅刻者が一番多いクラスが日曜に校内の掃除を任せるいやなノートだ。
教室に向かって急ぐ。校内に入り廊下で走った。
角を曲がった瞬間、担任と鉢合わせになった。これじゃ説教確定だな。しかも担任の説教は長い。
1限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。ようやく担任から解放されて教室に入る。
どこのクラスにもいるかもしれない。僕のような影の薄い人。友達もあんまりいないから、休みの時間も一人でぼうっとしてる。だから、同じクラスのガクさんから話しかけられた時には正直驚いた。
「ね、ススムさん」
「あ、、はい」
「ね、頼みがあるんだけど、」ガクさんは素敵な笑顔を見せた。その笑顔を見たら、誰でも断れないでしょう。
「な、なんの頼み、、なの?」
ガクさんは意味ありげに笑ってから続けた。
「ね、うちのバンドのボーカルやらない?」
「ボーカル?」ちょっと驚いた。
「ね、やらない?」顔に飾ってある微笑みは消えなかった「知り合いから偶然聞いたんだけど、ススムさんって昔ボーカルやってたそうじゃない。しかも、とっても歌うまいんだって」
「あ、、はい」ぎこちなく答えた。
確かに、昔ボーカルやってたけど、そのせいでずいぶんいじめられてたからな。歌が上手だからと言って、出しゃばるんじゃねえよ。地味なあんたは地味に生きていけばいいんだよ、などなど、いろいろ言われてボーカルやめたことがあった。いやな記憶だから、忘れようとしたんだけど、またボーカルと関わらないといけないかな。
「すみません、僕無理です。」
驚いたそぶりをみせてガクさんは口を開いた。