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「お父さん、ありがとう」
手に取った万年筆を見つめながらお父さんに礼を言った。
「模試で、いい成績とっただろう。それのご褒美だ」
お父さんはテーブルに料理を並べながらいった。
お母さんは5年前に行方不明になった。捜索願をだしたけど、いまだに見つかっていない。もともとお母さんといってもお父さんの後妻だから、そんなに情があるというわけでもない。実のお母さんは私を生んでからすぐなくなったそうだ。
「お父さん、これ値段高いでしょう」
私はじろじろと万年筆を見つめながらお父さんにきいた。
「ちょっと踏ん張ったってことかな」
お父さんもテーブルの前にすわった。
「さあ、食べようか」
「うん、いただきます」
「いただきます」
朝ご飯を食べて、お父さんとバイバイして家をでた。今日はいいお天気。これからもいいことが起こるかもしれない。もうすでに一つのいいことが起こったから、もう一つ起こるなんて、贅沢かな。
学校へ行く途中で、アヤとマイに出会った。同じ学校のクラスメート。
「ハツコ、おはよう」アヤとマイは声をそろえて挨拶した。
「おはよう」
「あっ、そうだ」
早速今朝もらった万年筆を自慢した。
「素敵!」
マイが感嘆をもらした。
「そうでしょう。お父さんが模試のご褒美だって」
「いいな。あたしなんかさんざん叱られたよ。このままだと、いい大学へ行って、いい就職先をみつけて、いい人生を歩むことはできないって。でもさあ、玉の輿っていう選択肢もあるんじゃない?」
同意をみとめるように私とマイに視線を送る。
「それも、そうだね」
ぎこちなく答える私。
「それより、そっちはどうなった?」
マイが話題を変えた。
「なんのこと?」
アヤが聞く。
「オサムのことだよ。この間ハツコに告白したんじゃない?それで、ハツコの返事はどうなの?」
「そうだね、その後、ハツコは全然話してくれないから、どうなったのかさっぱり分らないもんね。ねえ、」アヤが私の腕を揺すりながら続けた。「ハツコの気持ちは?」
「私は、、、」
タイミングがいいか悪いか、後ろから呼び声がしたので振り向くと、うわさをすればってことだ。
「おはようみんな」
オサムは明るい笑顔をしながら走ってきた。
「お、、おはよう」さっきまでの話でオサムの顔を直視できない。
「ハツコはね、今までずっとあなたのことしか言ってないよ」
マイが面白半分に言った。
「マイ!」
私の声など無視してマイは自分の話を続けた。
「こっちに立って」そう言って、アヤの腕を掴んで、「邪魔ものはここで消えるね」
「ちょ、ちょっと。」
呼びかけても振り向かず走っていくマイとアヤ。アヤはなんどか残りたがっている顔をしてる。でも、マイの力には勝てなかった。
「あっ、はっはっ」オサムを見てから無理やり笑顔を作った。
気まずい雰囲気になってしまった。オサムはいろいろ話しかけてきたけど、なにを話しているかかわからないし、気分はもう遠い空の向こうの感じなので、ただ適当なところで相打ちを打った。
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