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早く出発したのが正解だった。
松葉杖であるくのは思った以上、体力を費やす。朝の電車は混んでいるから、時間帯の選択も重要だ。
幸い電車は混んでない。それに優しい人に席を譲られて座っていけた。
朝から幸運に恵まれている感じはなかなかいい。
教室に入ったら、僕の姿をみてちょっとばかり驚いた顔をする生徒はいたけど、具合を聞く人はいなかった。
バンドのカク君たちがいればそれで十分だ、と自分を慰める。
席に座って授業の準備をしているところへ、カク君がやってきた。
「体大丈夫?」
「うん、全然平気」
「よかった。それと歌の練習はどう?」
「やってる。たぶん問題なと思うけど、今日部活で一緒に練習するね」
「家に帰って休まなくて、本当にいいの?」
「本当にいいんだって」
「無理はだめだよ」
「うん。ありがとう」
せっかくできた友達をなくさないために、必死で練習しようと、僕は決めた。
日曜日まであと四日あるからかな、また緊張感が沸かない。オーディションの先日になったら興奮で眠れないかもしれない。
一日の授業もあっという間に終わって、カク君たちとオーディションの曲練習に精を入れた。
カク君とみんなは僕の声にとっても満足しているそうだ。
「絶対オーディションに受かりましょう!」
練習が終わって別れる際、カク君はこう言いながら皆に元気つけた。
みんなと別れてから一人で駅に向かった。
空はすっかり暗くなった。
時計を見るとそろそろ急行がくる時間に迫ってくる。せっかく時間が間に合いそうだから逃したくなかった。
不慣れな松葉杖を使いながら少しスピードをあげた。
交差点まできた。赤信号だ。
この先がすぐ駅だというのに。
時計をみたらもう時間がない。
周りには車も人もないから、僕は赤信号を無視することにした。
急行に乗って信号を無視してよかった、とうきうきしながら家に向かった。