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「ススム、ススム!早く起きて、遅刻するわよ」
ママの声が聞こえる。
上半身だけ起こして髪の毛をかきむしる。目覚まし時計を見たら、針は5時半をさしている。まだ朝のこんな時間なのに太陽は今にも燃え尽きるように強い光を放っている。
「ススム!」
「分ったよ!」
こう叫んでベッドから起き上がる。さっさと服を着て、片手にかばんを持って部屋を出た。最近のママの声が大きくなった気がする。それもそうだ、毎朝僕を叫んでいるから。
台所に入るとママは食パンをかじりながら漫画を読んでいる。
「ママ、たまにでもいいから朝はご飯がいいなあ」
「日本人の朝は食パンに決まってるでしょう!」
あきれた。
「誰が決めたの?」
「勿論、母さんよ」
堂々とこういうママもたいしたものだ。
「そんなの理由にならないよ」
「こんな理由はどう。片付けるのが面倒なの,ご飯にしたら」
これ以上話してもママの気持ちは変わらないと悟った。
「それよりママ、かわいい息子と会話を交わしてるのに、見てもくれないの?」
ママの目は漫画ばっかり見つめている。
「かわいいと思うのは6歳までだよ。その後は生意気になって、言うこともちゃんと聞かないし、」
また何か言おうとしているママの話を遮った。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
家を出て、学校へ向かう。5分歩いた所にバス停があって、バスで20分行くと校門前に着く。それより、今日起こされたのはずいぶん早いな。どうしてだろう。また寝ぼけている頭を無理やり働かせる。
そうだ!今日僕の当番。早く行かなくちゃ。助走なしに走り出す。腕時計をちらりと見たが、このままだと間に合える。
5メートル先にある横断歩道があって,わたるとすぐバス停だ。頑張ろう。こう意気込んでスピードを上げる。でも、すべてはそううまくいかないみたい。
ちょうど横断歩道に差し掛かろうとした時、青信号が点滅し始めた。もう少し足に力を入れたが信号は完全に赤になった。信号待ちしてもいいが遠くからバスが見えた。早速左右を見たが車はない。信号を一回無視したくらいで罰当たるわけないでしょう。
そう考えてスピードを下げずに横断歩道を渡った。ぎりぎりバスをキャッチしてまず一安心した。
一番後ろの席に坐って後ろに消え行く窓外の景色を見る。間に合ってよかったと一人にんまりする。