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第93話 血より濃い物

「つまり、アタシらを目の敵にしていた『鉄血の獅子』の最強剣士がベローネの妹で、『虹の蝶』に対して同盟を結ぼうと言ってきたわけだ」


 翌日、マキナの自宅にて。

 ステラは頬杖を突きながら事を整理する。


「アタシがいない間に結構なことが起きてんじゃないの、どおりでマキナたちがギルドにいないと思ったら……」


「ごめんねステラちゃん」


「まずはベローネに話を通すのが先だと思ってな」


「説明が遅くなってすまない」


「にしても生き別れねぇ、そんなことがあったなんて知らなかったわ」


「ステラも初めて聞いたのか」


「私の過去を教えたのはマキナ、君と『虹の蝶』のギルドリーダーだけだ」


「あれ、ベローネってウチのギルドリーダーに会ったことないんじゃないの?」


「入団の際、ギルド協会員にそう言伝してもらうように頼んだのだ。アスナの行方に繋がる可能性があるクエストを流してもらうためにな。ニコルがいた闇ギルド『魔狂の牙』壊滅も、元はヤツらが過去に売り捌いた奴隷のリストを調べるためだ」


「でも同盟を断ったきり、その妹のアスナがここに戻ってこないときたわけ」


「そうなんだよぅ、昨日から探してるんだけど見つからないの……」


「いつ戻ってくるかも分からないから居るしかない訳ね、ならアタシも残るわ。頭数が多いほうが絶対いいし」


「ありがとうステラ、恩に切る」


「アタシはあくまで腑抜けたアンタでいられちゃ困るだけ、勘違いしてもらっちゃ困るわ! というか……そもそも敵ギルドの女を泊めるなんて言語道断よ」


「アスナは神器を装備してなかったし、何かする様子でもなかった。少し変わってたけど、ただの女の子だったよ」


「余計ダメよ!」


「余計ダメって? 危険な方がよかったってことか?」


「そうじゃない、ただの女の子と泊まったってとこ……」


 マキナの見当違いな返答に、ステラはごにょごにょ小さく口を動かしながら萎んでいく。


「これだけ街で見かけないってなると……近くの森や山岳にいるのかな?」


「夜にもモンスターは出る。野営の準備もしなきゃならないし、アスナにその用意があるとは思えない」


 マキナは言った。


「この街で唯一調べてない場所は『鉄血の獅子』のギルドくらいだな」


「アタシら『虹の蝶』が最も近付きにくい場所ね……というか最近、他の『鉄血の獅子』すら見てないわ」


 ステラの言う通り、ここ数日『鉄血の獅子』を目撃していない。

 同じ街のギルドにも関わらず、全く姿を見せないのは不気味である。


「……なぁ、我々は家族だよな?」


 不安を拭うようにベローネは口を開く。


「急にどうしたのよ」


「私にとって『虹の蝶』は大切な居場所だ。そこで紡がれたメンバーとの絆は、血の繋がりと変わらない……だがアスナは言ったんだ。【ギルドが家族などありえない】と、そんな『鉄血の獅子』に残ろうとしているんだ、私のために」


 アスナの行動は善意からくる物だ。

 自分達が離れ離れにならないように努力し、計画を現実にした。

 それが辛くて堪らない、身を削る思いで『鉄血の獅子』に貢献してきたのだろう。

 考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。


「もしマキナ達が良ければ、アスナを『虹の蝶』に迎え入れたいんだ」


「……アスナを?」


 ベローネは俯きながら続ける。


「アスナには、時に血より濃い物もあると教えてあげたいんだ。断られるのは目に見えている、だが……せめてマキナ達が受け入れてくれるかどうか知りたい。『鉄血の獅子』に在籍した事実を受け入れられるかは分からないが、それ以上にアスナは私の――」


「――妹だしな、歓迎してやらないとな」


 言い切る前に、マキナが口を開く。


「い、いいのか本当に……!?」


「もちろん」


「あの子は君に、傷を負わせたんだぞ」


「元々俺らが乗り込んだ方だし、なんなら手当もしてくれたしな」


 マキナは包帯越しに肩を撫でる。


「というか、聞くまでもないと思うぞ?」


 アリアがベローネに笑いかける。


「それ大賛成だよ! アスナさんが入ったらもっと『虹の蝶』が楽しくなるよ!」


「アリア……」


「ふん、傷付けられたマキナ本人が許すんじゃこっちは何も言えないじゃないの」

 

「ステラも、認めてくれるのか?」


「アンタの妹なんだし、どうせ変わり者なんでしょ。『虹の蝶』には武器マニアに大食らい、天然女剣士みたいな変なヤツばっかり。今更1人増えたところで支障なんてないわよ。もし入ったら、このステラ様がルールを叩きこんであげるわ!」


「まて、武器マニアって俺のことか……?」


「他に誰がいるのよ」


「大食らい、一体誰だろ〜?」


 アリアは能天気に首を傾げる。

 ベローネは涙ぐむ。

 自分には家族とも言える、素敵な仲間がいる。

 こんなに嬉しいことはない。


「……ありがとう、私もステラを変な子だと思っているぞ!」


「アタシはまともよ、ふざけんじゃないわよ!」


 ステラは顔を真っ赤にする。

 笑い声が部屋中に満ちる。

 

 その時、つんざくような破砕音が響く。

 それは遠くの方から聞こえ、悲鳴も耳に届いてきた。


「……何だ?」


 4人は窓から様子を覗く。

 すると、目を疑う光景が広がった。


「――何で街にモンスターがいるんだ……!?」


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