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第90話 アスナの過去(1)

 マキナの家を後にしたアスナは、目的も無く街を歩いていた。


「理解不能です、自ら平穏を手離すとは」


 平穏というのは決して簡単に手に入らない。

 それはアスナ自身が痛いほど理解し、それでも渇望した物。

 まさか断られるなんて思いもしなかった。

 血を分けた実の姉に否定された。

 挙句の果てに、ギルドが家族などと言っている。


「ありえない、絶対に」


 姉上の家族は自分だけだ。

 血の繋がりこそ、家族の証拠ではないか。

 ただの戯言、嘘でしかない。


「……それは私も同じですね」


 自分も一つ嘘を付いた。

 『鉄血の獅子』は素晴らしいギルドだと。

 あそこの生活は、少なくとも自分にとって良い物ではなかった。



 ミリシャ村で襲来したスタンピードにより、アスナはベローネと生き別れとなった。

 その後のミリシャ村の調査を依頼された『鉄血の獅子』の冒険者が、山から滑落して気絶したアスナを発見し、そのまま保護された。

 

 幼いアスナは回復と共に、とある場所に預けられた。

 『鉄血機関』――武闘派ギルド『鉄血の獅子』で活躍する、次世代の冒険者を輩出するための育成機関。

 ここには災害やスタンピードにより行き場を失った孤児が集められ、その非合法さからギルド協会にもその存在を秘匿している。

 

 過度な鍛錬を強制、戦闘技術などの英才教育を叩き込み、【絶対勝利】という信条を植え付ける洗脳の場。


 故に、弱い者の立場は無に等しい。


「うわぁ!?」


 木剣が宙を舞い、修練場の床に甲高い音を立てながら跳ねる。


 尻もちを付いたアスナは、ブロンド髪の少年に木剣を突き付けられる。


「ふん、まるで僕の相手にならんなぁ」


「さすがガヴェインくんだ!」


「未来の『鉄血の四銃士』のトップは決まったね!」


 子供のギャラリーは沸き立つと、惨めに倒れるアスナに目を向ける。


「それに比べてアスナは全然ダメだな」


「ほんと、本物の落ちこぼれって感じだよ」


「動きも単純だし、あれじゃ使い物にならないね」


 ギャラリーは去り、アスナは修練場に1人取り残される。

 この日の模擬戦の最下位も彼女、罰として居残り練習をしなければならない。

 幼いアスナにとって、拷問の様な毎日だった。


「うう、ぐす……おねぇちゃん」


 泣きじゃくるアスナ。

 村での暮らしが恋しい、またあの日に戻りたい。

 たった1人の家族に会いたい。

 辛いとき、アスナはずっとそればかりを考えていた。

 今はベローネが生きているかも分からない。

 だけどきっと無事なはずだ、こんな出来損ないの自分よりも、ずっとしっかりしているのだから。

 

 ギルドリーダーのグラハムにも相談したことがあった。


「うーむ。ワシは一向に構わないが、お姉ちゃんはきっと悲しむのぅ」


「お姉ちゃんが……?」


「そうじゃ。せっかく再会したのに私の妹は泣き虫のまま、弱いままだとガッカリするじゃろう。嫌われるのが目に見えるわい」


 グラハムはアスナの目線になって言った。

 唯一の心の拠り所のベローネにも嫌われる。

 それは、幼いアスナにとって何より耐えがたい物。

 アスナは震えが止まらなくなる。


「いやだ、いやだ、そんなの……!」


「今、お前がやるべきことは誰よりも強くなることじゃ。会うのはそれからでも遅くない、お姉ちゃんも喜ぶじゃろう」


「が、がんばります! わたし、つよくなります!」


 それからは、アスナは己を徹底的に見直し、鍛錬に励んだ。

 漠然とした日々から『再会した姉に喜んでもらえるため』に意識を定めた。

 だが、人はそう簡単に強くならない。

 数年経過しても、アスナは相変わらず落ちこぼれのままだった。


「どうすれば強くなれるんだろう……」


 アスナは考えながら『鉄血機関』の施設内を歩いていると、武器のレプリカが飾られた展示室に辿り着く。

 武器も人によって適性がある。

 その理解と知識を深める場として作られた部屋だ。

 アスナは何の気なしに入ると、とある武器が目に止まった。


「……何だろこの剣、すごく薄いや」

 

 

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