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第84話 炎魔剣イフリートvs刀神器ムラサメ

 マキナはイフリートから伝わる衝撃を感じていた。

 腕がビリビリと痺れる、彼にとって久しぶりの感覚だ。


「初めてです、この刀神器ムラサメの一撃を耐えた方は」


 女剣士は静かに呟き、再度ムラサメを抜刀。


「俺のイフリートなら造作もない」


「イフリート……炎の魔人、良い魔剣ですね」


「ムラサメ、俺が見た中で1番の業物(わざもの)だ」


 瞬間、剣と刀が接触、つんざくような金属音が鳴る。


「「――これから折るのがもったいない」」


 マキナはイフリートの炎を燃え滾らせ、一撃破壊を狙う。

 対する薄い刀身のムラサメ……にも関わらず女剣士は真正面から斬り合う。

 研ぎ澄まされた強靭な刃、そこから繰り出される美しい剣戟は間違いなく本物。

 この神器の使い手、決してお飾りではない。


「よし、必ず倒せ!」


 陰で見ていたグラハムが逃げ出そうとする。

 マキナはすかさず【収納】で氷獄鎌デスサイズを装備し、投擲する。


 ガキィン!

 グラハムを阻むように石壁に突き刺さる。

 同時に氷の魔力で檻状に凍らせ、拘束する。

 

「ひいい!?」


「逃げるなよ、そもそもお前を捕まえるために来たんだからな」


 その最中、女剣士が再び強烈な一振りを放つ。


 ズガアアアアアアン!

 巨大な斬撃が、残りの柱を破壊する。

 中庭を囲む屋根は倒壊し、残骸がなだれ込む。

 肝心のマキナはまだ動いている。

 再度、彼はイフリートで防いだのだ。


「今度はこっちの番だな」


 イフリートに膨大な炎を纏わせ、それ自体が巨大な剣となる。

 

「倒れてもらう」


 瓦礫が落ちてくる中、巨大な炎の剣撃。

 阻むもの全て焼き尽くす、問答無用の攻撃が女剣士を襲う。


 だがそれも、神器(・・)にとっては唯一の例外をとる。

 炎で模られた巨大な剣身は、ムラサメにより真っ二つに斬り裂かれた。

 女剣士はそのまま、マキナに剣戟を仕掛ける。


 ガキィンッ!


「あのような攻撃を人に使ってはいけません、死んでしまいます」


「神器相手なら普通じゃない」


 剣と刀が交わり、均衡する。

 マキナは【武器ステータス】を起動させ、刀神器ムラサメを解析。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:刀神器(とうじんぎ)ムラサメ

 威力:3000

 耐久値:(5000/5000)

 搭載能力:【決闘斬(けっとうざん)】……この刀神器(とうじんぎ)ムラサメが接触した刀剣類を除く武器、防具の耐久値を0として扱う。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……とんでもない武器だな」


 マキナは独りごちる。

 この刀神器ムラサメ、言うなれば相手の戦闘スタイルを制限する能力がある。

 防具を一方的に破壊するマキナの戦蛇棍(せんだこん)ニーズヘッグの持つ【粉砕の加護】とは違い、ムラサメの【決闘斬(けっとうざん)】は武器も対象に入るため、効果範囲が広い。

 槍や斧、戦鎚も、ムラサメの前では無力化されるだろう。

 かと言って剣で勝負を挑むとなると、この基本性能の高いムラサメと真正面から斬り合うことになる。

 更に使用者の腕が立つとなると、手が付けられない。


「剣での決闘(けっとう)を重んじる能力か、理にかなってるな」


 女剣士はほんの一瞬だけ動揺する。

 闘いの最中、ムラサメの【決闘斬(けっとうざん)】を看破されるとは微塵も思わない。

 それを予想させる出来事すら起きていない。

 

「丁度よかった」


 マキナはイフリートでムラサメを受け流し、間合いを取る。


「どうせこれ(イフリート)しか使うつもりはないしな」


 イフリートを構え、先行する。

 女剣士は弾き飛ばされるも壁に着地(ちゃくち)、脚のバネを利用してマキナに突撃する。

 

 ザシュッ!


 互いの身体が交差する。

 戦場に静寂が降り、炎が燃える音のみが響く。

 

 マキナの左肩が裂け、血が噴き出る。

 身体がぐらつくも、なんとか踏み止まる。


 それと同時に、女剣士の仮面と鎧が爆発と共に砕け散る。


「……!?!?」


 衝撃が身体を襲い、状況が飲み込めないまま女剣士は倒れ込む。

 僅かに、マキナのイフリートの一撃が芯を捉えていた。


「ムラサメの破壊が本命だったけど、上手くはいかないか」


 マキナは損傷のないムラサメを尻目に、肩の傷を抑える。

 武器破壊、自身の防御を兼ねたイフリートの剣撃を全て逸らされた。

 まして、ムラサメの斬撃を貰うつもりもなかった。

 一太刀入れられたのなんて何時ぶりだろうか、マキナはこの女剣士に、敬意を表したいとすら感じている。


「認めるよ、神器抜きで強かった」


 マキナは女剣士に近付く。

 『鉄血の獅子』の横暴の原因、刀神器ムラサメの破壊のため。

 ギルドリーダーを捕らえるのはその後でいい。


「――何やっとるんじゃアスナ(・・・)! 早く立って白髪を倒せ! ワシを助けろぉ!」


 グラハムはデスサイズで動けなくされたまま吠える。

 アスナ、その名前には聞き覚えがある。

 女剣士は身体に鞭を入れて立ち上がると、仮面のない素顔を見せる。

 端麗な顔立ちから覗く鋭い眼差しは、マキナもよく知る人物に似ていた。

 

「……ベローネ?」


 マキナは思い出す。

 露天風呂で、ベローネが妹を想って呼んだ名と同じだと。

 だが、聞いていたものと違う。

 確か……アスナはすぐ泣いてしまうほどの繊細な性格だとベローネは言っていた。

 目の前の彼女は優れた剣士そのもの、脆弱さを一切感じない。

 幼少期からここまで変わるものなのか。

 

 アスナと呼ばれた女剣士はムラサメを握り、闘いを続行しようとする。

 もう動くことすら苦痛のはずだ。


「待て、アスナってお前の名前だよな」


「だとしたら……何でしょう?」


「会わせたい人間がいる、もう俺は闘わない」


 マキナはイフリートを鞘に納め、両手を広げる。


「イフリートを取って下さい、丸腰の人間を斬る趣味はありません」


「闘う必要のなくなった人間と斬り合う趣味はない」


「早く斬るんじゃアスナ! そのムラサメで!」


 グラハムは好機とばかりに騒ぎ出す。

 アスナは息を切らしたまま、ムラサメの切っ先をマキナの額に付ける。

 剣尖が当たり、少量の血が流れる。

 マキナはイフリートを抜く気配がない。

 アスナはそのまま深く息を吸い、少し間を置くと。


 カシャン。

 ムラサメをゆっくり腰の鞘に納めた。


「おい、何をしてるんじゃ!」


 すると、中庭に1人の人物がやってくる。

 

「――アスナ……アスナなのか……!?」


 崩れ落ちた中庭の入口には、ベローネが呆然と立ち尽くしていた。

 マキナは2人を見比べ、容姿と雰囲気で改めて血の繋がりを感じた。

 やっぱりそうか、とマキナは胸を撫で下ろす。

 これで無駄な戦闘は避けられる。


「『鉄血の獅子』にいたのか……心配したんだぞ、無事で良かった……」


 ゆっくりと、おぼつかない足取りで歩く。

 

「会いたかった、本当に、もう会えないものかと……」


「……」


「泣き虫だったお前が……立派になったな、姉として私も嬉しい」

 

 幼少期振りの再会に涙するベローネとは反対に、アスナは冷めた目を向ける。


「どうしたんだアスナ……?」


「――誰です、貴女は」


 言葉を吐き捨てた。


「は……」


「私の家族は死にました、もうこの世にいません」


「ま、待ってくれアスナ、私だ、ベローネだ! ミリシャ村で一緒に過ごしたじゃないか!」


「記憶にありません」


 アスナの一方的な拒絶にベローネは狼狽する。興味がないと言わんばかりの、無機質な返答。


「どうしたんだアスナ、私の知ってるお前はそんなことを言わないはずだ!」


「ベローネ、刺激はするな」


「だが……!」


 マキナはベローネを宥める。

 アスナは神器を扱う剣士。手負いではあるが、また戦闘となれば1番危険なのはベローネだ。彼女はまだムラサメの威力も攻撃範囲も知らない、手短な説明をするのも今は難しい。


 すると、中庭に隊服に身を包んだ大勢の人間がなだれ込む。

 胸には、盾に2本の剣が交差した紋章。

 あっという間にマキナたちは包囲される。


「ギルド協会か……!?」


 いくら何でも早過ぎる。

 本部のある王都は馬車で2日はかかる位置のはずだ。

 隊長と思われる男が一歩前に出る。


「――我らはギルド協会執行部隊だ。『虹の蝶』並びに『鉄血の獅子』に警告する……直ちに戦闘行為を停止せよ!」


 ギルド協会は、クフラル全てのギルドを収める王国最高機関。

 彼らに反発するのは国を相手にするのと同義、大人しく従う他ない。


 アスナは壁に刺さったデスサイズを引き抜き、両手でマキナに手渡す。


「ふん、ギルドの襲撃など立派なギルド法違反、貴様らは終わりじゃ『虹の蝶』! ざまぁないのぅ!」


 グラハムは指を刺しながら笑い、協会員と奥の執務室に向かう。

 遅れてアスナもその後ろを着いていく。


「ま、待て、アスナ……話を……!」

  

 弱々しく呼び止めるベローネ。

 アスナは一切振り向かず、その場を立ち去った。

 マキナは気が動転しているベローネの前に立ち、肩を掴む。


「今は堪えるんだ」


「マキナ……」


「大丈夫、アスナはお前の妹だ」


 2人は協会員に連れられ、『鉄血の獅子』ギルドを後にした。


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