第82話 全面戦争、『虹の蝶』対『鉄血の獅子』!②
「へ」
「ランザスさん?」
呆然とする『鉄血の獅子』。
彼らの目に映る、動かないランザス。
「う、うわああああ!?」
近くにいた『鉄血の獅子』が腰を抜かす。
倒されることと無縁に見えるランザスが、一撃で撃破された。
マキナの魔導武器の凶悪さを垣間見た。
「ど、どういうつもりだお前ら!」
「ウチとやり合うつもりか!」
「――察しが悪いわね、こっちは戦争しに来てんのよ!!」
ステラがリンドヴルムを構えたのを皮切りに、『虹の蝶』全員が戦闘態勢に入る。
ベローネはストームブリンガーを抜剣し、切っ先を『鉄血の獅子』に向ける。
「我々の家族を傷付けるとどうなるか、身を持って知ってもらう」
――貴様ら、塵も残らないと思え――
「――総員突撃!!」
「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」
ベローネの号令と共に駆ける『虹の蝶』。
先陣を切るマキナ、皆がその背後を追う。
「マキナが目に物を見せた、俺たちも続くぞぉ!」
「マキナに続けぇ!!」
敵の幹部クラスをマキナが倒したことで、『虹の蝶』の士気は燃え上がる。
「上等だテメェら!!」
「武闘派ナメんなゴラァ!!」
酒場の椅子を蹴っ飛ばし、迎え撃つ『鉄血の獅子』。
画して、『虹の蝶』対『鉄血の獅子』のギルド戦争の火蓋が切られた。
両者は入り乱れ、混沌と化す。
マキナはダモクレス装備を継続し、立ちはだかる『鉄血の獅子』を薙ぎ倒していく。
「がはぁッ!?」
「ば、化け物かコイツッ!?」
彼は普段、このダモクレスを滅多に装備することはない。
唯一使用する場面、それは……。
自身が純粋な怒りに満ち溢れているときだ。
「――どけえええええええええ!!!!」
マキナはこれでも感情を抑えている。
彼には与えられた役割があるからだ。
それは『鉄血の獅子』のギルドリーダーの拘束。
元々ここは『白銀の翼』のギルド跡地。
改築がされていようと、内部構造にはマキナが1番明るい。
自前の魔導武器による持ち前の突破力で執務室に向かい、ギルドリーダーを抑える。
今回の相手は、闇ギルドや群れのモンスターとは比べ物にならない規模だ。
加えて正真正銘の武闘派ギルド。
時間を掛けるわけにはいかない。
「くらいやがれぇ!」
「船長の仇!」
船員服の男たち――ランザスの子分がマキナに魔導銃を発砲。
マキナはダモクレスを盾にして凌ぐ。
この乱戦の中だ、全方位から攻撃が来る。
「面倒な……!」
マキナは独りごちる、すると、
バンッ!
バンッ!
「ぐぁ!?」
「な、何だ!?」
銃声と共に倒れ伏す数人の子分たち。
身体が痙攣しているのをみるに、麻痺弾が撃ち込まれたと分かる。
黒衣を纏う少女が、魔導銃を装備し舞い降りる。
「ネイルか!」
「……」
ここは私に任せたまえ、とネイルは合図を送る。
「恩に切る」
マキナはギルドホールの奥へと駆け進む。
ネイルは見送ると、周りの敵を見据える。
「やってくれたなぁ、ねーちゃん!」
残りの子分たちが一斉に魔導銃を発砲する。
ネイルは颯爽と駆ける。
「……!」
酒場のテーブルや柱などの障害物を利用し、魔力弾を避ける。滑り込み、流れるようにリロード。
一瞬身体を出し、目標を補足。
バンッ!
バンッ!
「ぐはぁ!?」
3人を撃破、ネイルは柱を背に排莢を行う。
「あの女……もしかして『虹の蝶の死神』――ネイル・ショットか!?」
「全員で撃て! 柱ごとぶっ壊すんだ!」
ネイルが身を隠す柱に向け、子分たちは一斉に発砲する。
ネイルはこんな時でも冷静だった。
むしろ、彼らは愚かな選択をしたと考えている。
柱に当たる魔力弾の数、時間差、角度、それらを全て計算し、人数と位置関係を把握出来てしまったのだから。
「……」
ネイルは愛用の魔導銃を仕舞い、黒コートの内側からある物を取り出す。
深海の蒼き魔導銃――海竜砲リバイアス。
『鉄血の獅子』に乗り込む前にマキナに託されていた。
上手く使ってやってくれ、と一言添えられて。
目を閉じ、精神を集中する。
「……!」
ネイルは身を乗り出し、分離状態での射撃をする。
――ドドドドドドンッ!!
海竜の咆哮の如き銃声。
その銃弾は全て、正確に子分に撃ち込まれた。
無駄弾を一切撃たず、彼女は銃撃が舞う中、まるで魔法のように無傷だった。
「な、まさか!?」
「俺たちの銃撃を……全部掻い潜ったぁ!?」
全員撃破。
ネイルは更なる敵を見据え、黒き翼を羽ばたかせる。
「やるねぇ、流石『虹の蝶の死神』だ!」
戦闘用の茨鞭を振り回すローズ。
彼女の率いる『ローズ団』はトレジャーハンターギルド。
だが、身を守るための手段として培われた個人の戦闘力も決して馬鹿にならない。
「野郎ども、その無駄に鍛えた身体の使い道は今だよ! 留守番してるニコルやラティナたちに、最高の土産話を聞かせてやろうじゃないか!」
「へい、アネゴ!」
「覚悟しやがれ『鉄血の獅子』!」
殊に物量戦では決して負けていない。
『虹の蝶』にとって『ローズ団』ほど心強い存在はいないだろう。
これは、全員が一丸となった戦い。
「負けるわけにいかない、絶対に」
マキナはギルドホールの階段を駆け上がる。
この先には執務室がある。
広く取られた部屋だ、きっとギルドリーダーが再利用してるはず。
その時、
マキナに円形の刃が迫る。
ダモクレスで受け止め、弾き返す。
「ほう反応したか、我の攻撃に!」
覆面の剣士は衝撃を受け流し、軽快な動きで階段の手すりに立つと、チャクラムを構える。
「急いでるんだ、どけ」
「なりませぬ、まかり通りませぬ」
チャクラムの剣士とは別の声。
レイピアを装備し、優雅に表れる。
「貴様らは我らに倒される運命」
天井から落雷が轟く。
それはマキナを阻むように落ちると、階段が焦げ、煙が立ち込める。
すぐさま煙が晴れると、雷の剣を装備した剣士が現れる。
「「「そう、我ら鉄血の四銃士に!」」」
3人の剣士は一斉にマキナに襲いかかる。
だが、その攻撃を受け止める3人の陰。
ガキィィンッ!
「そんなの私が許さないよ!」
「大体数合ってないし、三銃士でしょうが!」
「ここは我々が食い止める、いけ、マキナ!」
アリア、ステラ、ベローネの助太刀。
マキナは思いを受け止め、走り出す。
「任された」
「待つのだこの白髪!」
「よそ見してんじゃないわよ!」
「この痴れ者がぁぁ!!」
マキナはギルドホールを抜け、真っ直ぐに執務室に向かう。
この戦いに決着を付けるべく。
◇
「なんじゃ、今日はいつになく騒がしいの」
『鉄血の獅子』ギルドの中庭にて、ギルドリーダーのグラハムは喧騒を感じ取る。
「せっかくこのワシが銅像を眺めておったというのに」
グラハムは不機嫌そうに、目の前の巨大な銅像の鑑賞を再開。
小太りの男を模したこの像は中庭のど真ん中に建てられ、グラハムと瓜二つだった。
だが……銅像の両眼はぽっかりと空いている。
「それにしても『虹の蝶』め、よくもヒヒイロカネを横取りしおったな……!」
グラハムは憤慨する。
『鉄血の獅子』がヨロイ島のヒヒイロカネを狙った理由、それは彼――グラハムが自身の銅像の両眼に使用するためだった。
ナルシストの側面を持つこの男は、自分を素晴らしく魅せるためなら、どんな出費も惜しまない。
それが自身の銅像なら、素材だって妥協しない。
そのために『鉄血の四銃士』の序列一位である撃剣のガヴェインをヨロイ島に派遣し、ヒヒイロカネを確実な物にしようとした。
だというのに、『虹の蝶』に全てを壊された。
「許せん、不愉快だ!」
グラハムは自身の分身を見つめながら言った。
だが、最近悪いことばかりではなかった。
グラハムのイチオシの歌姫である大海のミロスが再び活動を始めた。
休止の理由も、再開した理由も分からないが、またあの歌声を聴けるだけで至福と言うものだ。
「ミロス様の新曲でも聴いて心を癒すかのぅ、彼女は神じゃ」
「――ほ、報告します!」
『鉄血の獅子』のメンバーが中庭にやってくる。顔中に汗が伝い、震えていた。
「不粋な、一体何じゃ」
「『虹の蝶』が、この『鉄血の獅子』に殴り込みをかけてきました!」
報告を受け、グラハムは一瞬半信半疑になる。
この武闘派ギルドである『鉄血の獅子』に、宣戦布告をするギルドがいたのかと。
それも、個人的な恨みがある『虹の蝶』。
わざわざヤツらの方から乗り込んできたわけだ。
「丁重にもてなしやれ、ランザスが戻っている時に来てくれるとは好都合じゃ」
余裕そうに言うグラハム。
『鉄血の獅子』はメンバーも多い、生半可なギルドは返り討ちだ。
「それが、開戦直後に、ランザスさんが倒されました!」
「……何じゃと?」
聞き返すグラハム。
あの大男が倒されることがあるのか?
珍しいこともあるものだ。
だが、まだ『鉄血の四銃士』がいる。
全員が二つ名を持つ冒険者、ガヴェインは抜けたが、正真正銘の精鋭だ。
「『鉄血の四銃士』もおるじゃろ、まったく運の悪い奴らじゃな」
「それが……つい先ほど全員が撃破されました」
「……は?」
「で、ですから、『鉄血の四銃士』は全滅しました!」
「え、ええ!?」
思わずグラハムは目を剥いた。
我が武闘派ギルドの精鋭が全滅するとは、流石のグラハムも想定していない。
「もう既に『虹の蝶』がこの区画に侵入しています。ギルドリーダーは安全な場所へ避難を!」
「バカモン報告が遅いわ!」
グラハムはメンバーを怒鳴りつける。
突如、中庭に炎塊が放たれる。
流星を思わせるそれは、巨大な銅像に吸い込まれるように飛来した。
「ん?」
そして、
ドゴオオオオオオオン!!!!!!
直撃、轟音と共に銅像は爆散。
火炎と共に舞い跳び、まるで先鋭芸術のようになった。
「っええええええええ!? 何か燃えちゃってるんですけどおおおおお!?」
グラハムは爆発の光に晒されながら絶望する。
「モンスターかと思ったけど、違ったみたいだな」
1人の人物が中庭にやってくる。
鯨の怪物を模した大砲――炎岩砲バハムートを装備した白髪の少年。
胸に光る、蝶の紋章。
「お邪魔してます」
マキナは砲身を下げ、グラハムを見据えるのだった。
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