第79話 マキナ、久しぶりにサルマ武具店へ行く。
翌日の昼、マキナは自宅の鍛冶場で巨兵の調整をしていた。
内部をくり抜いたことにより、操縦席を確保。
魔導エンジンを起動、赤く発光していた目が緑に変わる。
両腕を上下左右に動かし、挙動を確認。
「……ふいー終わった」
マキナは額の汗を拭う。
初めて行う作業、流石に手間取ったが上手くいって良かった。
確かなスキルアップを実感し、彼は満たされていた。
さて、いよいよ次はミスリルだ。
あいにくまだ案は出ていない。
「うーむ、サルマさんにも聞いてみるか」
サルマ武具店、以前『白銀の翼』とのトラブルがあった街の武器屋だ。
武器を作れるマキナにとって足を運ぶ必要のない場所に思えるが、あの店の品揃えは目を見張るものがある。
お陰で、今ではすっかり『虹の蝶』の皆の行きつけの武器屋になっており、そんなマキナも時たま顔を出し、新たな武器の参考のために商品を購入し、店主のサルマにも相談に乗ってもらったりしている。
実際、巨兵の装甲を貫いた魔導武器――突撃角フォレストホーンはパイルバンカーという他国の武器を参考にしており、元はサルマが教えてくれた物だ。
「そうと決まれば」
善は急げだ。
マキナは外套を羽織り、自宅を後にする。
街の大通りを抜け、裏路地を進む。
誰かの案内が無いと迷いやすいが、何度も来るうちに慣れてしまった。
「――やめるッス! サルマさんが困ってるッス!!」
店内に入ると、聞き慣れた語尾で喋る少年の声。
獣耳を揺らしたニコルが、店主のサルマを庇うように立っていた。
「なんだぁこのガキ?」
「オイオイこいつ『虹の蝶』だぜ。こんなチビまでいんのかよ、あのギルド」
「俺らはただ金額をまけて欲しいって言ってるだけなんだよ、部外者は黙ってろよ」
複数の冒険者が睨みを効かせている。
不味い状況なのは一目で分かった。
「まけるだけなら大人数で詰め寄る必要なんて無いッス、お前らのやってることは恐喝ッス!」
「だ、駄目だニコルくん! 彼らは……!」
ニコルは冒険者の1人に首を掴まれ、簡単に持ち上げられる。
「あぐ……!?」
「ひとつ教えてやるよ獣人く〜ん、正義感なんてモンはさぁ――」
拳を振り上げ、振り下ろす。
「力が無きゃ、何の解決にもならないんだよ!!」
「そうでもないぞ」
マキナは後ろから腕を掴み、捻りあげる。
「い、いでででで!?!?」
「俺みたいな暇人が来るかもしれないしな」
あまりの激痛で、冒険者はニコルの首を掴む手を離した。
「かは、アニキィ……」
「マキナくん。君が来てくれて良かった、実は……!」
「大体状況は分かりました」
冒険者達は心底穏やかでは無かった。
自分の仲間が攻撃され、殺気立っている。
「か、関節がぁ、関節増えてない俺!?」
「落ち着け、俺たちと変わらない!」
「よくもやりやがったな白髪!」
「俺たちを、この街にやって来た武闘派ギルド『鉄血の獅子』だと分かってやってんのかぁ!?」
彼ら全員の胸に光る獅子の紋章、ヨロイ島で遭遇した連中と同じだ。
更にマキナは、『白銀の翼』のギルド跡地に掲げられていた獅子の紋章を思い出す。
以前から感じていた既視感の理由がやっと分かった。
「何のようだ、お前ら?」
マキナは殺意を込めた目で見る。
こちらも理不尽な理由でニコルを傷つけられている。
敵対するものには容赦しない。マキナは『鉄血の獅子』を既に敵と認識している。
「な、なんだよ、やんのか……!?」
「お前ら次第だ」
「あの白髪、もしかして鉄血の四銃士の1人を倒した奴じゃねぇのか?」
「『虹の蝶』の白髪の少年とか言ってたけどよ、はは、まさか……」
「つまり俺たちが倒せば、誰かが四銃士入りできるかも知れねぇぞ!」
出世に目が眩んだ『鉄血の獅子』は、無謀にも戦いを挑もうとする。
「――やめときなアンタたち、死ぬよ」
サルマ武具店の入口には、『ローズ団』を束ねる女リーダー、ローズがいた。
「何だ何だ、綺麗なねーちゃんまで来やがった」
「もしマキナが本気を出したら1分も経たずに地に伏せることになるよ、その前に……コイツらが許さないだろうしね」
ローズは店の外を向くように首で指し示す。
いつの間にか武装した『ローズ団』がサルマ武具店を包囲していた。
屈強な男たちの圧は、店内にも届く。
「マキナのアニキィ!」
「ニコル、今助けるぞぉ!」
「『ローズ団』の兄貴分と弟分に喧嘩売りやがって……許さねぇ」
「アネゴ、命令を下せぇ!」
その光景で『鉄血の獅子』の顔面が真っ青になる。
「な!?」
「ちなみにマキナは外にいる全員を相手しても勝つよ。今なら一時の粋がりで済ますことが出来るけど、どうするんだい?」
「……ちっ、おい行こうぜ」
『鉄血の獅子』はそそくさとサルマ武具店を後にした。
「うう、アネゴォ……」
「この店のために頑張ったみたいだね、自分を誇りな」
ローズはニコルを撫でる。
「マキナもすまないね、ニコルを助けてくれて」
「いや、こっちこそ助かったよローズ」
実際、物騒な手段を使わずに済んだ。
「本当にありがとうございます……! 私1人ではどうにも……」
「この店にはアタイら『ローズ団』も世話になってるからね、当たり前じゃないかい。それにしても参ったね『鉄血の獅子』には」
ローズはため息混じりで言った。
「連中、数日前にこの街に来てからやりたい放題、嫌な感じさ。他のギルドにもちょっかいを出してるみたいだね」
「俺のパーティーがヨロイ島に行ってた時か」
「ああ、それでこれはあくまで噂なんだけど、何でも『鉄血の獅子』は神器を保有してるって話さ」
「――じ、神器ですと、全ての武器の頂点に立つと言われるあの!?」
マキナより先に、ニコルに水を飲ませていたサルマが驚く。
――神器、その性能は魔導武器を優に越え、数多くのカテゴリーを持つ武器の中で、唯一破壊された記録が無い。
遠方の国では使用する人間を含め、軍事兵器として運用されているという。
「奴らが調子に乗っている理由がそれか」
マキナは『白銀の翼』の鍛冶師時代の記憶を辿る。
炎魔剣イフリートを初め、威力の高い武器の製作が安定し始めたとき、メンバーは次第に横暴になっていった。
自分の強さを勘違いした人間ほど歪んだ振る舞いをするものだと、マキナは嫌というほど理解していた。
唯一『白銀の翼』と違うのは、個々の冒険者の実力も高い点だ。
「俺がヨロイ島で戦った奴の銃剣はそんな感じじゃ無かったな、良い武器だったけど」
恐らく、違う人間が使っているはず。
「でもアニキの武器は神器よりも絶対強いッス! オイラはそう思うッス!」
ニコルは元気一杯に言った。
痛みはある程度引いたらしい。
「――マー兄、大変だよ!!」
すると、血相を変えたアリアが店にやってきた。
【疾風の加護】を使い、街中を走り回っていたようだ。
呼吸を整える間もなく、アリアは言葉を絞ろうとする。
「はぁ、はぁ」
「落ち着け、何があった?」
ただならぬ様子を理解したマキナは、アリアの両肩を掴む。
アリアの一言は、その場を凍りつかせるのに充分すぎた。
「ラティナちゃんたちが……!!」
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