第75話 精霊弓アムシオン
無事に火山の神殿でヒヒイロカネを手に入れ、ヨロイ島を後にするマキナ達。
帆船のスピードもあり、夕方には港町に帰ることが出来た。
大海のミロスの屋敷に向かい、成果を伝える。
「『虹の蝶』、ただいま帰還いたしました」
「良かった、皆様ご無事で何よりでしたわ!」
初めて対面した時と同じ、弦楽器に囲まれた部屋でミロスは安堵する。
「今日の昼に出港されたと聞きましたが……随分早いのですわね」
「思いの外、早くヒヒイロカネが手に入ったので、我々は日帰りとなりました」
「ヒヒイロカネを守る巨兵もいたんですけど、とりあえず俺達で倒してきました」
「ええ!? わたくし冒険者ではありませんが、巨兵が危険なモンスターであることは知っておりますわ、それを倒してきたのですか……!?」
「マー兄の武器があればどんなモンスターとも戦えちゃうんです!」
「ギルドや海賊とも戦ったけど、まるで苦戦しなかったわね」
「ギルドとも、ですか。やはり危険な目にあったのですね……」
ほんの少し、ミロスは悲しげな眼を浮かべる。
「ミロス様、どうかしましたか?」
「いえ、マキナさん、何でもありませんのよ、おほほほ!」
ミロスは口元に手を添え誤魔化す。
マキナは頭に?を浮かべながらも、【収納】でヒヒイロカネを取り出す。
「まぁ……この輝き、本来のアムシオンに使われていた物よりも高品質と見ました」
ミロスはヒヒイロカネを見てうっとりする。
「これから修理に入らせていただきます」
ケースから取り出された精霊弓アムシオンを手に取り、スキルを使用する。
「鍛冶スキル【修復】」
光り輝くアムシオンとヒヒイロカネ。
本来埋め込まれた場所に、ヒヒイロカネが吸い込まれると、周りを彩るように装飾が施されていく。
「まぁ……」
幻想的な光景に、思わずミロスからため息が漏れる。
輝きが収束する。
精霊弓アムシオンは、蝶の羽を思わせる姿に変化していた。
「わぁ、凄く綺麗!」
「見た目全然違うけど、これ大丈夫なの?」
「いえ、これが本来の、わたくしも知らないアムシオンの姿ですわ!」
ステラの心配とは裏腹に、ミロスは感極まっていた。
マキナはアムシオンをミロスに手渡す。
「どうやら、ヒヒイロカネのランクで見た目が大きく変わるみたいですね」
今回使用したスキルは【修復】。
あくまで破損した物を直す効果の為、普通は元の状態からは変化しない。
しかし、アムシオンは姿を変えた。
これはつまり、素材のランクが見た目に影響を与えたことになるのだ。
「皆様、本当にありがとうございます。特にマキナさん、貴方のお陰でわたくしは活動を再開出来ます」
「とんでもないです」
「この蝶の形は歴代のアムシオンの記録にもありませんわ……ですが、わたくしには分かります。今なら最高の音色を奏でることが出来ますわ!」
ミロスは手を2回叩くと、音も無く執事がやってくる。
「ここに」
「劇場の用意を、今すぐに」
「かしこまりました」
執事はぺこりと頭を下げ、足早に去っていく。
「さて、今から皆様にはわたくしの演奏を聴いていただきます、有無は言わせません」
「え、演奏ですか、ミロス様の!?」
「はい、わたくしのこの興奮を抑えるには演奏しかありませんわ」
「ひょええ、まさかの生演奏ですと……!」
アリアの頭から湯気が出る。
「皆様には、この大海のミロスの、復帰後初のお客様になっていただきますわ」
ミロスがそう言うと、精霊弓アムシオンは輪郭を沿ってキランと光った。
◇
白亜の屋敷の隣には、ドーム型の劇場が併設されていた。
大海のミロス、屋敷の使用人、そして、一部の招待客でなければこの劇場に入ることも、座席に座ることも出来ない。
ましてや一介の冒険者が入ることは前例がない。
彼らを除いて。
「とんでもないことになったな」
「楽しみ〜、何か緊張してきたよ!」
「アタシらだけの為の演奏って……罪悪感すら出てきたわよ」
「ミロス様の気持ちの昂り、我々で受け止めようじゃないか」
三階席まで用意された広い劇場。
その1階席の真ん中辺りで横並びになる4人。
体験したことのない雰囲気に飲み込まれそうになる。
劇場全体が暗転し、舞台に明かりが灯る。
その上手から、
大海のミロスがやってくる。
彼女の持つ、本来の魅力を活かした控えめの化粧、ダイヤモンドダストのように輝く水色の髪。
まるで海の精霊のようだった。
「綺麗……」
アリアから言葉が漏れる。
無意識だったのだろう、それほど美しかったのだ。
ミロスは4人に対し一礼すると、舞台に用意された椅子に座る。
そして、演奏が始まる。
アムシオンの弦を優しく撫で、緩やかに音色が奏でられる。
弾く音一つ一つに存在感が感じられる。
やがて、それはミロスの歌声と共に乗る。
澄んだ綺麗な歌声が、大海に流れる波のように緩く、激しく劇場を包む。
すると、蝶の形のアムシオンから、鱗粉のような輝きが放たれる。
音色と共に舞い踊り、ミロス自身を彩る。
1人の歌姫を祝福するかのようなその光景に、ただただ圧倒された。
「……!?」
言葉が出てこない、
マキナの頬に、何か伝うものがあった。
――俺、泣いてたのか?
心が、揺れ動かされていた。
元は魔導武器の精霊弓アムシオン。
それを愛する者なら、新たな姿に昇華させ、自分を表現出来る。
これもまた、一つの武器の形なのかも知れない。
――まだまだだな、俺は。
涙を拭うマキナ。
学べることは沢山ある。
だけど、今はこの時間を楽しもう。
うっかり刻の流れを忘れそうな、そんなひと時を『虹の蝶』は過ごしたのだった。
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