第63話 『虹の蝶』でまったり
強盗団を退治したマキナは銀行を後にし、『虹の蝶』のギルドを目指して歩く。
盗られた金もきっちり取り返した。
本当はタイミングを見て奇襲するつもりだったが、イフリートを奪われそうになった時は冷静さを欠いていた。
仮にフリでも許せなかった。
「反省しないとな」
ふとマキナは脚を止め、横に目を向ける。
立派な門を構えた建物――『白銀の翼』ギルド、いや……正確に言うとそうだった建物だ。
ここ数日この道を通るたび、大勢のギルド協会員がせっせと作業を進めていた。
何でも、次にこの場所を利用するギルドが決まったらしい。
無数の大きな旗には、ギルドの紋章と思われる獅子の横顔が描かれている。
「何か寂しいな」
『白銀の翼』には散々な思い出しかない。
それでも、ここで数年鍛冶業務をしてきたのは事実だ。
自分なりに仕事がし易くなる様に内装を改築し、効率を考えた配置にした。
何だかんだ愛着はあった。
それもきっと、以前のまま残ることは無いだろう。
「変化ってのは必ず起きるものだ、俺も変われてればいいな」
以前よりもずっと、ずっと、良い方向に。
マキナは前を向き、再び歩き出すのだった。
◇
「それは災難だったな」
『虹の蝶』に戻ったマキナは納金手続きを済ませ、ベローネと共に執務室を後にする。
「全くだ、勘弁してほしい」
「いや……この場合はその強盗団が災難というべきかな? 君がいるタイミングで実行してしまうのだから」
「俺の心配をしてくれ」
「冗談だ、しかし君がピンチになるのが頭に浮かばないんだ」
「俺は万能じゃない、現にロックトレントの毒でやられそうになったし」
「あの時は本当に心配したぞ。だが、あれも本当は1分も経たずに死に至らしめる毒だと聞いた。それを君は5分以上耐えていたんだ。前々から思っていたが、君の身体の頑丈さには驚かされる」
「自分でもよく分からないんだよな……何で無事なんだろって思う時もある」
マキナには未だに実感が無かった。
「それにしても、君が考え事をしていたお陰でその銀行は救われたんだな」
「そういうことになるな」
「当ててやろう『ミスリルをどんな武器にするか?』だな」
「……何で分かった?」
「君が悩むことと言えば、武器に関することだろ」
ベローネはマキナの肩をポンと叩く。
マキナはまだミスリルを武器に加工していなかった。
理由は単純、どんな武器にするか決めかねているからだ。
希少な鉱石である以上、後悔のない使い方をしたい。
「刃にしてもいいし、打撃武器にも最適な強度だ。幅が広すぎるのも考えもんだな」
「ふふ、幸せな悩みじゃないか」
何気ない会話を交わしながら、2人はギルドホールに出る。
賑やかな酒場の一角で、アリアとステラがポーカーに勤しんでいるのを見つけた。
「――ぎゃあ〜、ストレートなフラッシュですとぉ!?」
「どう、これがステラ様の実力よ!」
ステラはテーブル上の大量のキャンディをゴッソリと掻き寄せる。
「あう〜そんなぁ〜」
「これが勝利、勝者の証……」
アリアは敗北に項垂れ、ステラは勝利の愉悦に浸る。
この日のマキナ達はクエストを休みにし、各々自由な時間に当てる日にしていた。
たまには息抜きも必要だ、それでも何だかんだ4人全員が『虹の蝶』にいた。
「盛り上がってるみたいだな」
「あらマキナ、戻って来たのね!」
「マー兄おかえり〜、どうだった?」
「ちゃんと振り込まれてたぞ」
「もしあの通りの金額なら……とんでもないわね」
ステラがゴクリと生唾を飲む。
実際は提示された数字以上の金額が振り込まれていた。というか一桁多かった。
何か手違いかリサーナの独断だ、きっと後者だろう。
「おや、全員集まってるじゃないかい」
「皆さん、お疲れ様ッス!」
すると『ローズ団』リーダーのローズ、そして獣耳の少年、ニコルがやってきた。
「ローズにニコルか、今クエスト終わりか?」
「まぁね、アタイらにかかれば造作もないよ、にしてもこの子は見どころがあるよ。身体は小さいが、ガッツがある」
「アネゴに追い付けるよう、オイラ頑張るッス!」
「はは、言うじゃないかコイツ!」
ローズはニコルの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
新しく入団したこの2人も『虹の蝶』の雰囲気を気に入ってくれたようだ。
『虹の蝶』の傘下に入った『ローズ団』の活躍は上々らしい。
見た目はゴロツキ集団だが、この前、街の清掃や花壇の手入れなどの奉仕活動をしているのをマキナは目撃していた。
ただ、こっちを見るなり「お疲れ様ですアニキ!!」と挨拶してくるのだけはやめて欲しい。
「こんなオイラを受け入れてくれて、アニキとアネゴには感謝してるッス……!」
その影響を、例外なくニコルも受けていた。
思い返してみると、ジュダルのこともそう呼んでた気がする。
「その、アニキって言うのは何とかならないか?」
「オイラはマキナのアニキをリスペクトしてるッス、それは勘弁して欲しいッス!」
「何か落ち着かないんだよ」
「それを言うなら、何でアリアにマー兄って呼ばせてるんだい?」
「うぐ!?」
ローズに痛いところを突かれた。
「アリアが許されて、アタイの可愛い部下達が許されないのはどうかねぇ」
「どうか、アニキと呼ばせて下さいッス!」
「……もう好きに呼んでくれ」
マキナは即座に諦めた。
別にアリアにはマー兄と呼ばせてる訳ではないが、昔からそうだったため、この矛盾に気付けなかった。
訂正させるタイミングが無かったのもあるが、これを長々説明すると言い訳がましかった。
「まぁでも、マー兄呼びが許されてるのは私だけだからね!」
「オイラも、アリアのアネゴみたいに自分だけの呼び方を見つけたいッス!」
えっへん、と胸を張るアリアを羨ましそうに見つめるニコルを見て、マキナは頭を抱える。
「さぁ、そろそろ準備しないと!」
するとアリアはバッグから、七色に光る小さな棒を取り出す。
周りの冒険者達も、そわそわしながら小道具を持ち出す。
「もうそんな時間か」
「すっかり定番になったわね」
マキナは呟くと、ステラは周りを見渡す。
この頃、夕方には決まって『虹の蝶』に冒険者が集結する。
腹ごしらえもあるが、それ以上の理由があった。
ギルドの魔導拡声器から流れる、一つの曲。
『――今注目の歌姫、大海のミロスのNEWシングルをお送りします!』
「始まった始まったぞ!」
「待ってました!」
賑やかな冒険者達も、この時だけは曲に耳を傾ける。
大海のミロス、このクフラル王国で絶賛売り出し中の歌姫だ。
彼女の弦を弾く音、澄んだ歌声がギルドホールを熱狂に包む。
その時間はあっという間に過ぎた。
たった一曲の演奏とは思えないくらい、濃密な時間だった。
「……はー、今日もよかったですなぁ〜」
アリアは興奮冷めやらぬまま言った。
「アリアもすっかりファンだな」
「そりゃもう、最初に聴いた時からビビっと来たよ!」
「思えば……ちゃんと曲を聴いたのは今日が初めてだな」
「ええ、そうなのマー兄!?」
「この時間は修練場にいるしな、ベローネもそうだろ?」
「普段は私とマキナで模擬試合をしてる時間だな」
「これは是非とも沼に堕とさなきゃ……良いグッズが揃ってまっせ、お2人さん……!」
アリアは怪しい商人のような顔で大海のミロスグッズをテーブルに並べる。
どんだけ出てくるんだ、【収納】スキルでも使ったのか。
すると、慌てた声が拡声器から響いて来た。
『――素晴らしい一曲でしたね、まるで天に上る気分でございました! えーっと、ここで臨時ニュースです……何々、大海のミロス、む、無期限活動休止!? えっこれ本当に、マジの奴!?』
読み上げた本人が素になっていた。
ドタバタと、動揺する物音も聞こえてくる。
「無期限活動休止……これ、今の歌姫のことだよな?」
えらく急な話だな。
売れてる真っ最中なのに、何かあったのだろうか?
ドサドサッ、とグッズが落ちる音が響く。
「……アリア?」
「あ、あはは、はは」
アリアは白目を剥き、口から魂が抜けていた。
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