第24話 エールは大人の味がする。
ステラはパチンと手を合わせると意気揚々に言った。
「マキナってエール飲んだことある?」
「一応飲んだことはあるぞ」
「なら丁度いいわ! 実はアタシら3人飲んだことがなかったから今日試しに飲んでみようと思って、どんな味なのか聞いときたいのよ」
「ベローネも飲んだことはないのか?」
「ああ、アルコールの類は一切身体に入れたことはない。良い機会だから試してみようと思ってな」
「ねーねーどうなのマー兄??」
3人から興味津々な目を向けられた。
ここはエール経験者としてしっかりする必要があるな。
「そうだな、まずは独特の苦味があって」
「うんうん」
「飲み込むと共にそれが口いっぱいに広がるんだ」
「うん」
「後味も、まぁ苦いな」
「……」
「……うん、とにかく苦い」
「……本当においしーの?」
アリアの純粋な言葉が突き刺さる。
自分のレポート力がここまで乏しいとはマキナ自身思ってなかった。
「得られた情報が『とにかく苦い』だけだったわよ」
「本当にすまない」
マキナは両手で顔を隠す、不甲斐なさで皆を直視出来なかった。
「だが私は余計気になってきたぞ。ただ苦いだけなら、あれだけ国内全域で愛されるはずもない」
「それもそうだね! 私も飲んでみたいな」
「なら決定ね! もちろんマキナも飲むでしょ?」
「ああ、俺も貰うよ」
ステラはエール4つを注文し、速やかにテーブルに運ばれてきた。
「それじゃマー兄、乾杯の合図して!」
「お、俺が?」
「当然だ、君が私達のリーダーなのだからな」
「ホラホラ、泡消えちゃうわよ!」
ステラが急かせ、慌てながらもコホンと喉を整える。
「それじゃあ改めて……俺達パーティーのクエスト成功を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
本日2回目の乾杯、4人はジョッキを口に運び、エールを喉に流し込んだ。
◇
「あっはははー、マー兄が3人いる〜」
30分後、
顔を真っ赤にしたアリアはマキナの頭を掴み、首を軸にぐるぐると回していた。
2杯飲んだ辺りからずっとこの調子だ。
「全員一人占め〜」
「そうか、よかったな」
湾曲する視界の中、マキナは冷静に返す。
「なぁにのんびりしてんのマキナ、どんどん飲みなさいよぉ!」
マキナの肩を組み、ステラはエールを口に運ぶ。
例によって彼女も酔っ払っていた。
ちなみに今飲んでいるのが1杯目だ。
その対面にいるベローネは腕を組み、背筋をピンと姿勢良く座りながら3人を見守っていた。
「すぅ……」
否、寝ていた。
ベローネは最初の一口を飲んですぐに今の形になり、夢の世界に迷い込んだのだ。
「もうやめといたほうがいいんじゃないか?」
「ふん、アタシはまだ酔ってなんかないわよ! ……にしても、アンタは全然酔わないわね」
「『白銀の翼』にいたころは無理矢理樽で飲まされたこともあったからな、嫌でも慣れた」
「た、樽!?」
マキナはジュダルによく酒を強要されていた。
最初は酔い潰れる様を見て面白がっていたのだが、繰り返すうちに酒に強くなったマキナを見てつまらなくなり、いつの間にかそれも無くなったのだが。
「まぁ、単なる嫌がらせだろうな」
「……マキナ」
「?」
「アンタはずっとこの『虹の蝶』にいなさい! 離れるのなんて絶対無しよ!」
肩に乗っている腕に力が入るのをマキナは感じた。
「アリアも! これは決定事項よ、もし抜けるなんて言ったら無理矢理にでも阻止してやるんだから!」
「大丈夫だよステラちゃ〜ん、その時は私も手伝うよぅ〜」
後ろからマキナに抱きつくアリア、背中に柔らかい感触を覚えつつもマキナは答える。
「随分強引だな」
「……アタシとパーティー組んでくれる奴なんてアンタらみたいな物好きぐらいなのよ、いなくなられちゃ困るんだから」
ステラは勢いのまま吐露した。
「ずっと誰かとパーティー組みたかったのか?」
「そうよ、こんな面倒な性格してるもんだから誰も寄り付かなかったけどね。だからある時吹っ切れてさ、誰も追いつけなくなるくらい強くなろうって思ったわ。『虹の蝶』最強を目指して」
ステラは前に目を向ける。
「でも、やっぱり上には上がいるわ」
「ベローネか」
「ええ、悔しいけどベローネには敵わない。2人でパーティー組もうって誘われたりもしたんだけど、アタシのプライドが許さなくてさ……何度も断ったの。でも今はなんだかんだで同じパーティーでしょ、だから申し訳ないことしたって気持ちもあって……ほら、面倒なヤツでしょ、こんな自分嫌になるわ」
「そんなことはない、自分自身を押し殺すよりはずっとマシだろ」
「え……」
「それにそのままのステラでパーティーを組めたじゃないか。クエストだって成功したし、ベローネとはこれから一緒にいる時間も多いんだ。気持ちを伝えたいならチャンスはいくらでもある。無理に変わらなくても良いと思うぞ」
「私も今のステラちゃんが好きだな〜」
ステラは2人の言葉を聞いた途端、残りのエールを一気に飲み干す。
「どうした??」
「そのままで良いなんて初めて言われたから、少しびっくりしただけ!! まぁ、ベローネには気が向いたら伝えてみるわよ! 気が向いたらだけど!!」
そして誤魔化すように顔を背けた。
「そういえば、俺は俺でアリアに伝えないといけないことがあるんだ」
「ふぇ?」
マキナは背中に乗ったままのアリアに語りかける。
「俺をこのギルドに誘ってくれてありがとな。お陰で毎日ちゃんと生きてるって感じがするんだ。本当に感謝してるよ」
「それを言うならこっちの台詞だよ〜、あの時マー兄が助けてくれたから私もこうして今も楽しく冒険者生活が出来てるんだよ、本当にありがと!!」
「助けてもらったって、何かあったの?」
アリアはマキナから離れ、背後の空いた空間に立つ。
「私が路地裏で他の冒険者に絡まれてる所を助けてくれたの! 炎剣でズバーってジャバーって! 本当にかっこよかったんだから!!」
そしてその時のマキナの動きを再現してみせた。
「ま、まいった〜」
何故かやられた側の方もやりはじめた。
「あの時はアリアだって知らなかったからな、びっくりしたよ」
「誰であっても助けてたってことだもんね、流石マー兄!」
「なら、もしかしてアタシも……」
「ステラ、何か言ったか?」
「な、何でもないから!」
ステラは頭の中で他の冒険者から自分を助けてくれるマキナを妄想した。1度デビルジャッカルから助けてもらった身ではあるが、頭の中で勝手にピンチになる分には問題ない。
「あれ、もしかして私が絡まれたのがきっかけでこのパーティーが誕生したってことだよね!? やったー絡まれてよかったー!!」
「マキナが助けたからでしょうが!」
ステラは万歳状態のアリアの頭をペシン! と良い音で叩いた。
「にゃああああ!?!? ステラちゃんひどいよおおお!!!!」
「今のはアリアが悪いな」
「がーん、マー兄まで……!」
額をさすりながらアリアは言った。
「でも、なんかいいねこういうの。仲間って感じがして!」
「ああ、私もそう思うぞ」
「「「!?」」」
久しぶりに聞く声、主はベローネだ。
「なるほど、エールには強力な睡眠剤の役割があるとみたぞ」
ベローネはジョッキを手に取り、じっくりと観察する。
作った人もまさか一口で寝るとは思ってないだろう。
「いきなり喋るから驚いたぞ」
「私抜きで盛り上がっているのだからな、参加したくもなる」
水を軽く喉に通す。
「ベローネさんいつから起きてたのー??」
「ああ、ステラが私の実力を褒めてくれた辺りだ」
「!?」
「誘いを断ったことをそんなに気にかけていたとはな。てっきり嫌われてると思っていたがそんなことは無かったのだな、安心したぞ。私もそのままのステラが好きだぞ、伝えたいことがあれば何でも言ってくれ。同じパーティーなのだからな」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるベローネ、嘘偽りない本音なのは間違いない。
ただ、
時と場合というものがある。
マキナとアリアは恐る恐るステラの方を確認する。
「……!!!!!!」
耳まで真っ赤になり、プルプルと小刻みに震えるステラ。決してエールのせいではないことは2人にも理解できた。
「む、どうしたのだステラ、顔が真っ赤じゃないか? エールの飲み過ぎか?」
「……ベローネ、アタシの思ってること、伝えていいのよね?」
「ああ、全部受け止めるぞ!」
「......なら」
ステラは背中の竜撃槍リンドヴルムを勢いよく構える。
「今すぐリンドヴルムの錆になれええええええええ!!!!」
眼前に迫る鋭い一撃をベローネは咄嗟に避ける。
「ステラ! 一体どうしたと言うのだ!? 同じパーティーの仲間じゃないか!?」
「忘れろ! 忘れろ! 忘れろおおおおおお!!!!」
リンドヴルムを振り回し、逃げるベローネを追いかけ回すステラ。酒場内をテーブルや椅子が舞い飛ぶ。
「何だ何だ!?」
「ベローネとステラの決闘か!」
「いいぞー!! もっとやれー!!」
団員達もお酒が入っている為、むしろ盛り上がっていた。
マキナは大きく息を吐くとアリアと顔を見合わせる。
「……止めるか」
「だね!」
対象にアリアは笑顔で返した。
「まてステラ、私は丸腰だ! 第一ギルドホールでの決闘は御法度だ! せめて修練場で!!」
「うるさい! もう喋るなああ!!!!」
『虹の蝶』ギルド、祝勝パーティーは最高の盛り上がりになったのであった。
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