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見知らぬ弟
男は昨日と同じように帰宅した。
キーケースから見慣れた鍵を取り出し開錠する。玄関に入り鍵を再度閉めて、廊下の間接照明をつけ、週末に手入れした革靴を脱ぎ、最近着始めたコートをハンガーラックに掛ける。常と違わない行動だ。
ふうと息を吐くと仕事の疲れが押し寄せて、明日の仕事を思い憂鬱になった。休日まであと二日。翌日のプレゼン内容を反芻しながらリビングへ向かう途中、洗面所のドアの向こうから物音がした。
目を向けると同時にドアが開いた。ドアを開けたのは若い青年だった。薄暗い廊下に浮かび上がるような生白い肌、細すぎるほどの体躯がいかにも不健康そうだったが、少し伸びた黒髪を耳に掛けたかんばせは、ちょっと驚くくらいに美しいものだった。
「おかえりなさい」と微笑む彼には悲哀がとても良く似合う。薄幸の美青年然として精一杯の好意を湛え男を見つめる彼に、男は思わず口を開いた。
「誰だ、お前は」