緊急事態宣言の配達②
「飛沫感染したくないから、荷物を置いといて」
地域によって異なるが、……そんな事を真面目にやってくれる受取人がいるかどうか。
99%いない。こーいう受取人は始めからそうしているお宅だけである。宅配BOXを置いている方、仕事で夜しか帰って来れない方とかが希望で出している。
インターフォンやノックをした時、受取人さんは誰が来たのかの確認を済ませれば、すぐにドアを開ける。覗き穴から誰が来たか分かるし、今の時期は8割ぐらい。宅配業者だって、向こうも分かっているからだ。
飛沫感染の原因だ!
黴菌の掛かった宅配業者がやってきたぞ!!
そんな感じに思われているかどうかは知らないが。出てきてくれる人の8割は間違いなく、マスクをしてないで出てくる。当然だと思う。家の中までマスクしないし、手袋なんかしてるわけがない。
宅配業者の大半は使い回しでも、マスクはつけているので少しだけは安心して欲しい。
っていうか……。こっち側からしたら、……
「ごほぉごほぉ……に、荷物受り取まーす……」
マスクして、手袋して、おでこに冷えピタを張り、顔が真っ青で汗ダラダラの人物が玄関先から出てきたら
「なにをアマゾ〇で頼んでるんだよ!?」
こっちの心臓が悪いわ。
なんでこんな状態で荷物を欲しがっているんだろう?
出てくる前に先に言ってくれ、置いておきますから!
住所や名前は分かっていても、お客様の体調なんか分かるわけがない。こんな弱々しい姿でも検査をしているのか、自宅待機を喰らっているのかなんて、こっちは分かっていない。
だからといって、仕事は仕事。物量に負けず、天候に負けず、クレームに挫けず、配送する我々は黙々とやらねばならない。感染するかもと言っても、せいぜい対面しても20秒。代引きなどで長くても2分くらい。それにお客様と話し合う事なんか
「サインかハンコお願いします」
「ペンあります?」
「どうぞ」
カキカキカキ……
「じゃあ、荷物どうぞー(住所確認するの面倒)」
朝の挨拶を3回か4回分やる程度のこと。こっちがマスクをしてれば、まずリスクはない(思い込む)。
懸念しているのは、お客様に会う数と荷物の多さから来る、ヤバそうな客との出会いぐらいなものだ。外で働き、よく動いているから移されるはないと思っている。
まだ元気に配達はできそうだ。
◇ ◇
「ぶっちゃけさ、倉庫とかの方がヤバイよね?」
お客がどーいう考えで流通の仕組みを考えているかは分からないが、外で荷物を渡して来てくれる人物が何も全てをやっているわけではない。
「狭いとは言わないが、換気は良くないよな」
「感染者いたら蔓延するだろ」
狭い部屋とは言わないが、荷物が管理されている場所だ。開放的な場所とは言い難い……。中で働く人達との距離感もさほど離れてはいなかった。感染の対策として、お互いの距離は多少離れて作業するのだが、当然ながらスペースが足りていない。
まぁ、そんな事よりも
「全国から荷物が来るからな……。疑わないが、ウィルスついててもおかしくねぇだろ……」
「だよな」
よほどの事がない限り、今は全国を旅するなんてことはないだろう。しかし、荷物は地元近くもあれば、遠い果てからもやって来る。しかも、荷物は色々な荷物と出会うように、トラックなどの輸送手段によって、旅をするように運ばれる。
震えているわけじゃないが、タイムリー過ぎるだろう。
「倉庫がやられたら、会社は全滅だし。運転手がやられてたら、全国に散らばるからな……」
「大袈裟に考え過ぎだろ!マスクしてるから」
「あれ気休めだから。みんなみんな、毎日同じの使ってるようなもんだから」
感染しないようにするための、マスク。相手を感染させないようにするための、マスク。
という考えよりも。
「マスクしてないと、うるせー電話ばっか鳴るんだよなぁ……」
「眼鏡曇るからマスク嫌なんだけどね……。仕方ないよね」
スーパーが大急ぎで店員さんにマスクの支給やビニールのカーテンを貼る理由と同じくらい。とにかく、五月蠅い奴等がいるからの対応。
全員、気休めだ。客がいなければ普通に咳き込むし、くしゃみもする。たったそれだけを見られると、五月蠅い人は五月蠅い。
あとは1割程度。お客からうつされること、うつさないことを意識した装備。
できる事なら外したい気持ちがある。
「うおおぉぉっ!俺の体温!上がれ!!平熱をちょっと超えただけじゃあ、休めんぞ!!」
「止めろバカ!!」
「今、誰一人も倒れられんぞ!」
「いや~、その。我慢している方が絶対にいるでしょ?」
ここに来て嫌なところは……。
正直、休みをくださいと言いにくいことだ。
それが良い緊張感で身体の異常を跳ね除けていると言えば、いいんだろうか?悪いんだろうか?
物量も調整されているらしく、一日の負担をなるべく減らす事で長期的な運営を望んでいるんだろう。
まだまだやれる。
そう。
「お前等、思い出せ!どれだけウチがブラック企業なのか!!忘れたならパワハラ再開すんぞ?」
「止めろ!ホント!!どれだけ辞めたと思ってる!」
「猛者もいるけど、まだ知らない若手もいるんだから……!これ以上、人を減らすな!」
思い出したくもないけど、パワハラの数々を乗り越えてきた猛者達はジョークが絶えない。
悪天候での仕事。クソ上司にクソクレーマー。無理難題な要求。
多少の体調不良でも、こなして来た労働の日々。あれ?今の状態でもまだいけるんじゃね?というショック療法のような錯覚。
検査とかそりゃあね。人間だからしたいけど、数にも限りあるし。結果のどうこうで大きく変わるとは……思えない。っていうか、病院に行くのが恐いという気持ちもある。
荷物を届けに病院に行くと、中の空気が重々しい。まるで葬式会場だ。
学校がその次に重い空気。生徒達はおらず、大人達の顔色がホントに優れていない。ここは学校だっけ?って思ってしまう、暗さがある。
実際に会ってしまうと、会えない人達はもっと暗いかもしれない。
「……まぁ、やろう!」
下を見れば、その下はいる。上を見れば、そのさらに上もいる。
立場もクソもなく。やれる仕事をしっかりこなすのが、こーいう仕事。
今日もやるぞ、おらぁっ(ヤケクソ)。
注:
4月上旬(6日~11日ぐらい、4月の2週目)でお仕事をしていた時を参考に書いております。
緊急事態宣言はこの頃が正式な発令でした。
担当地域では、宣言前から各自企業の自粛。時短が多かったかなと思います。
発令してすぐに自粛するって事は難しいので、それに備えるための準備と重なって、この時期の荷物はエグかったですね。駆け込み需要という感じでした。




