~第7幕~
やがて俊一たちは3年生になった。青木とはクラスが離れても、ときどき一緒につるんでは「メアゾ捕獲」の思い出話に耽った。早紀との交際も順調だ。彼女も卒業後は地元で働くと言っており、末長い交際が望めそうである。
大きな挫折をした自分に誰がこんな青春時代を想像できただろうか。母親こそ何も知らないが、充実した高校生活をおくる俊一に驚いているに違いない。
そう思っていた矢先だった――
その日、学校から帰ると豪勢な夕食が並んでいた。
「今日は凄い御馳走だね! ウチ、そんなに金持ちじゃない筈なのに……母さん、なんか無理してない?」
「ううん、いいのよ。今日はお父さんがくるから」
「え? 親父が?」
俊一は父親の記憶がない。少年時代、ホエールウオッチングへと連れていってくれた面影、それを朧気ながら思いだすぐらいに。
「へへっ、じゃあ親父が来てから、いただきますだね」
俊一は心を躍らせて父との再会を待った。
しかし客人として現れたのは予想外の人物だった。
「向井先生……!?」
もう1年振りにもなるだろうか。メアゾ捕獲をともにした向井だった。まさか向井が実の親父になるとでも言うのか? 俊一はただ呆然とした。彼の真横にはカナミアンもいる。
「まさかね、ここまでこの世界に馴染むとは思わなかった。“シューマ”よ。君はアルタから派遣されたメアゾの最高峰個体。驚くも無理ないと思うが、ゆっくりと話を聞いてくれるかな」
そう言いながら向井はカナミアンとともに腰掛けた。
向井の話を聴くことで全てに合点がいった。俊一がこれまで生きていたなかで感じた違和感の根源がそこにあったからだ。しかし、この生に愛着もとい執着があるのも確かだった。
向井は母親だった女性に御礼を申し上げると、カナミアンに境の出現を命じた。彼女はすぐに取り掛かるが、俊一は彼女へタックルし、そのまま家を飛び出した。
「待ちなさい!!」
向井の怒鳴り声が背中に響く。しかし俊一は止まらない。彼は背中に翼を生やして、やがて飛び立った――
「何という事だ……とんでもないものを世に放ってしまったではないか……」
向井は夜空の向こうを見上げた。飛びたった人間でない者はもうどこか遠くへ消え去ってしまった――
西村俊一が行方不明となって数年が経った。青木幸助は広島の大学に進学し、新しい環境に新しい友人をつくって過去と決別しようとした。俊一が行方不明になったあの夜、またも未確認飛行物体の目撃情報が地域であった。翌日向井から電話があり、俊一のことを尋ねてきたことも記憶にある。
「アイツなのかな」
青木は澄み渡る青空を見上げた。広島の空は高知の空に比べてみれば、碧くはないように感じる。これを地元愛の偏愛とでも呼ぶのだろうか。
神流崎早紀は地元スーパーのレジで働きながら親元である巫女の行事にも精をだしていた。俊一が音信不通になり、行方不明となったことにショックを受けた彼女だったが、前向きに生きてはいた。
空を見上げる。あの入道雲の中に俊一がいるのだろうか? そうだとしたら、もう二度と出会うことはないのだろう。
「私ったら何を考えているのかな」
ふと涙が頬を伝う。それを振り払い巫女の行事にもどった。
そんな彼女を木陰に隠れて見守る一人の青年がいた。
彼も涙を流していた。しかし彼女を愛しているがゆえに、何も言わずにその場を立ち去った――
∀・)読了ありがとうございました!いや~なんとか走り切りました!楽しんで貰えたら何よりです!ローファンタジーってことでSF寄りではあったのですが、最終的には漫画「亜人」っぽい感じにはなりました(笑)でも個人的には新海誠監督によるインスパイアが大きかったのかな?と思ったり。大変だったけど、楽しかった。そんな作品になったと思います。っていうか今年がそういう1年でした(笑)令和の時代がはじまり、これからどう生きていくのか。それは人それぞれだと思うけど、楽しくやっていきたいですよね。皆様も良い年末年始をお過ごしください。ジャンルシャッフルなろうコンの大盛況を願います。イデッチでした。