~第3幕~
翌日、明朝の5時には目を覚ました。気がつけば朝の支度を終えて制服に着替えていた。朝練に耽っていた昨年は誰よりも早く学校にいき、グランドで朝から汗を流していた。部活を辞めたいま、彼がすることは学校の図書館に行って予習することや、図書館にある本を読むことぐらいだった。
そういえば、図書部の顧問をしている教師からスカウトを受けたことがあった。向井という教師だ。勿論丁寧に断ったが、考え直してもいいかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていた通学時、彼はふと発見した。
「あいつ……」
河川敷の片隅でバット振りに耽る安藤武の姿だった。
安藤とは1年のとき、クラスが同じで仲良くしていた友であった。
彼は恵まれた体格もあって、1年ながらレギュラーに入り、打線の中軸を打つ野球部員であった。それが俊一の大怪我事故があった頃、突然部活を辞め、学校にも来なくなった男子だった……
話をかけようかどうしようかしているうちに安藤はどこかにいってしまった。
また明日、あそこにいるようなら話しかけよう。そう改めた。
登校し、図書館で余暇を過ごして教室に向かう。
教室はいつもの面々がやはり宇宙人の話題でいつものように賑わっていた。
「おはよう!」
俊一は青木へ元気よく挨拶をした。旧友の元気な姿? を目にしたからなのか、不思議と声がよくでた。
「お、おう、おはよう……」
「どうした? なんか元気なさそうだぞ?」
「お前は元気が良さそうだよな? 西村よ」
「え? ああ、何だろうな? よく寝られたから(いや寝られてないけどな)」
「そっか、今日学校終わったら相談したい」
「相談?」
青木はいつもと違っていた。いつもなら強気で自分の興味のある話をべらべら喋って止まらない男なのだが、今日は何かでふさぎ込んでいるようにしか見えなかった――
案の定、彼は1日中何も話さなかった。何を尋ねても「ああ」「うん」「いいや」など一言の返事しかしなかった。
何を話すつもりなのだろうか? 俊一はだんだん胸騒ぎがしてきた。
終業のホームルームで、担任教師の小林はこの1年で休学・退学をする生徒がでてきていることに触れ「何かあったら先生に相談しなさい」と話した。
その後、小林が青木を呼びだして、問答のような場が教室の片隅で行われた。よほど青木の顔色が悪かったのだろう。
(まったく、お節介かよ)
遠くで見守っていた俊一は見兼ねて介入した。
「先生、コイツのことは俺に任せてください。俺の親友ですから」
「西村君……でも青木君のこの感じ、とても心配で仕方ないのよ」
「誰にだって話したくないことはあります。先生にはありませんか?」
「それは……」
「先生に話せる内容なら先生に話させます。俺はコイツに救われている。今度は俺が救う番かもしれません。そういうのは駄目ですかね?」
「わかったわ。でも、学校をやめちゃうとかないようにね」
「肝に銘じます。任せてください」
小林は「溜めこまないで」と青木に言い残してその場を去っていった――
俊一は溜息をこぼして青木と向き合う。青木は俯いたままだ。
「まったくさ、どうした? 何があった?」
「話すと長くなるのだけどさ……」
困った顔をしている。それでも青木は俊一と目を合わせた。
「西村、よければ『メアゾの会』に入会してくれないか?」
時がとまった。「は?」と即答するしかなかった――
∀・)読了ありがとうございます!明日に続きます!