~第2幕~
俊一が住むのは高知県にある土佐市という街だ。高知市と須崎市の間にあり、山に囲まれ太平洋に渡る海を一望できる地でもある。また観光としてはホエールウオッチングが人気な港町だ。
俊一もまた親に連れられてホエールウオッチングにはしゃいだこともあった。しかしそれも少年時代の話だ。いうなれば昔話だ。
彼の父親は単身赴任で東京にいる。母と2人で父の仕送りと母のパート勤務による給与で生活を支えている。
彼は高校を卒業したら、働いて親孝行しようと思っていた。ただぼんやりと。ただぼんやりと彼はお風呂に浸かっていた。
いま学校では宇宙人がどうの、UFOがどうので賑わっている。それも生徒達だけでなく、教師達の一部も授業中に話すまでになっているのだ。
「どうしちゃったのだろうな、みんな」
俊一はお湯のなかに顔を沈めた。
何か馬鹿げたことで騒ぎたい人間の気持ちがわからない。今を生きるだけでもこんなに必死なのに、どうしてこんなにみんなでワイワイできるのだろうか?
俊一は夏休みに青木と行った、アニソン歌手のライヴを思いだした。顔を紅く染めてペンライトを両手で持ちあげた彼の姿が眩しかった。そのいっぽうで俊一はペンライトをぶら下げて歌手の歌う姿を眺めていた。
行きたい訳じゃなかった。でも唯一の友人である彼の誘いを断るわけにはいかなかった。東京までの長い道のり、楽しいひとときもあるにあったが、何もかも楽しいひとときではなかった。
自分はこれからどうなるのだろうか?
担任教師はよく「今ある一瞬を楽しもう」と自身の学生時代の友情美談をただ熱く語っているが、俊一にとってそれは疎ましい自慢コーナーでしかなかった。ここまで思ってしまうと青木に対して悪い気がしなくもないが……
いびきをかいて寝る母、その横で浴衣姿の俊一はつけっぱなしのテレビをただじっと眺めた。深夜のこの時間、ちょっとエッチな番組がよく放送されているのだが、今晩は宇宙人に纏わる都市伝説を題材にした番組が放送されていた。
チャンネルを変えてしまえばいいのだが、それも何だかめんどうくさい。
宇宙人を目撃した人間の話や未確認飛行物体が空を飛ぶ映像をひらすら眺めた。ただぼんやりと。
「どいつもこいつも暇人だなぁ」
「!?」
急にでてきた母の寝言に驚く。
「それもそうだな」
俊一はちょっとでも寝ようと試みた――
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