青空の裏腹
友人から削除したことにより、パクられる可能性もあるよと教えてもらい、一度はこんな単体で読めば胸くそをパクるなんて……。
その時はその時でいいと思いましたが、やはりパクられるのは嫌だと思い直し、掲載致します。
駄作でも自分の作品は自分のもの。誰にも渡したくありません。
内容は削除当時のままです。
ここは修道院という名の監獄。
……いや、監獄とも少し違う。この施設にはこの国を侮辱した者が集められており、殺さず苦しませる特別な場所。
「ほら! 追加の洗濯物だよ! さっさと洗いな!」
修道院だというのに多くの者は本来修道女が着るような服を着ておらず、一般の洋服を着ている。こういった人たちは見張り側。
そして私を含めた一部の者だけが修道女と分かる服を着ている、こちらが囚人側。
たらいと洗濯板を使い、山盛りに積み上げられた洗濯物を洗う。手はすっかり荒れ、ささくれも目立つ。指にはひびが入り、水に触れると刺すように痛い。それでも我慢して洗う。逆らえばムチ打ちの刑が待っている。
ここでの食事は質素なもの。それでも最低限の食事は三食用意され、その点は感謝している。
食事中の会話は制限されていないが、修道服を着た誰もが働き通しで疲れており、交わす元気がない。交わすとすれば挨拶くらい。だからいつも食堂は静まり、ただ食器同士がぶつかる音だけが響いている。
晩御飯を済ませば各々与えられているベッドと小さな机しかない狭い部屋へ戻り、就寝。もちろん明日の激務に備えるため夜更かしをする者はいない。皆、自主的にそうしている。
この一人になった時間、よく涙を流す。他の部屋からもすすり泣く声や、頑丈な壁に八つ当たりしている音が聞こえてくることが多い。
一体どうしてこうなったのだろう。私はただ怖かっただけ。皆から避けられ、一人ぼっちになることが……。
そう、今のように……。
◇◇◇◇◇
友人だったルリゼは幼い頃から、将来アンサン王子の婚約者に選ばれる人として周りからそのように扱われていた。それはアンサン王子がルリゼとの結婚を望んだからだ。
二人の仲は良く、並んで歩き笑い合っている光景は見ていて微笑ましかった。しかし正式に二人の婚約が発表される直前聖女インシェンが現れたことにより、婚約発表披露は流れた。
「聖女には気をつけろ」
中断したアンサン王子の誕生パーティーから帰宅するなり、父は家族全員に忠告してきた。
「聖女はあらゆる魔法を使え、もちろんその中に魅了魔法もある。その魅了魔法を使い、我々を魅了し操る可能性がある。彼女の性格を見極めるまで極力近づくな」
属性魔法が『魅了』の父だからこそ、その魔法の恐ろしさを誰より理解していた。さらに家族全員に魅了魔法から守る道具を与えてくれた。
やがて城で暮らすようになったインシェンが、ルリゼや私たちの通う学校に入学してきた。
どうしたことか初日から多くの者が引き寄せられるよう、インシェンへ向かう。珍しさや聖女に近づきたい思いからかと考えたが、まるで魅入られているかのように皆、普段と目の色が違って見えた。
帰宅し父にその様子を報告すると、魅了魔法を使用している可能性が高いと言われた。
「魔法を使い人々を虜にするとは……。女王に危険人物かもしれぬと進言しよう」
父は早速動き翌日には女王へ進言したものの、同席していた多くの大臣たちから反発の声が上がった。
「ははは、馬鹿なことを。彼女が『聖女』だから子ども達は敬意の念を抱いているからに決まっておろうに」
「そうだ。聖女が邪まな思いから魔法を使う訳がない」
「仮に使用していたとしても、見知らぬ者たちに囲まれ緊張し、居心地が良くなるようしでかしたことかもしれん」
結局、しばらく様子を見るということになった。女王は本当にそれでいいのか思案されているようだったらしいが……。
私と同じくルリゼと親しかった友人たちは花に吸い寄せられる蝶のように、ルリゼからインシェンへと対象の花を変えた。
「ルディア、貴女もいらっしゃいな」
「そうよ、あなたもインシェン様と一緒に過ごしましょう」
友人たちから言われ、ルリゼを見る。
アンサン王子が片時も離れないよう守られているインシェンを見ていると、一体誰がアンサン王子と婚約するのか分からなくなる。そんな私の気持ちを見透かしたように……。
「どうせルリゼはアンサン王子から捨てられるもの。そんな女と一緒にいても、旨い蜜は吸えないわよ?」
小声で友人に言われる。
王族には魅了魔法を防ぐ道具が与えられていると父が話していた。それを身に付けていながらルリゼではなく、インシェンとの時間を優先しているアンサン王子。周りからそう思われても仕方のない状況だった。
ぽつんと一人ぼっちのルリゼ。
インシェンが転校してきてからというもの、ペアを組んで行う実習があれば誰からも組んでもらえなくなったルリゼ。
そうなっても教師すら無視し授業は進む。
もしここで私がインシェンではなく、そんなルリゼを選んだら?
皆の態度は一変。ルリゼにこちらへいらっしゃいなと声をかけ、今度は私が一人ぼっちになってしまうかもしれない。一人ぼっちは寂しくて嫌。それが怖くて結局、皆と一緒にインシェンと過ごすようになった。
食堂でルリゼは弟のフォルス様と過ごすようになり、たまにアンサン王子へ悲しそうな視線を向けている。でもその視線にアンサン王子はインシェンばかり相手にしているので、気がついていない。
友人なら今すぐ彼女に寄り添うべきだろう。だけど一日の大半を過ごす学校で一人ぼっちになれば……。後々の社交界生活にも影響が続く……。友人と恐怖を天秤にかけ、私は友人を捨ててしまった。
ある時、定期テストでインシェンがルリゼの成績を抜いた。
これまで女子生徒では首位を守っていたルリゼが、愕然とその結果を見つめていた。その様子を見た皆が笑う。
「いい気味ね」
「本当。これまで正式に王子と婚約を結んでいなかったのに、婚約者気取りしていた罰だわ」
……皆、なにを言っているの?
ルリゼとの婚約を望んだのは、アンサン王子本人だと有名な話でしょう? 美しく聡明なルリゼに惚れたアンサン王子が、他の女性との結婚は考えられないと公言され……。だからこれまで正式な発表がなくても誰もがルリゼを婚約者として扱い……。
……ああ、そうか。本当は皆、ルリゼを妬んでいたのだ……。インシェンの魅了魔法は、そんな本音を引き出すきっかけにもなったのだろう。そしてインシェンという『聖女』を利用し、これまで隠し続けていた妬みや恨みを爆発させ、無視や悪口で憂さを晴らしている。
だってルリゼがいなければ、自分がアンサン王子の婚約者に選ばれたかもしれないのだから。
第二王子と結婚すれば、将来は安泰も同然。その座を多くの者が狙っていたのにアンサン王子本人が、あっさりとそこに座るべき人をルリゼだと決めた。祝福する言葉を投げながら、多くの『友人』が実は不満を抱いていたのだ。
ますます怖くなった。
無視やわざと聞こえるように悪口を言われるルリゼはどんどんやせ細っていくのに、平気でルリゼは変わりないと笑顔でアンサン王子に言っている皆。しかもアンサン王子は食堂でルリゼを見ているはずなのに、疑いもしない。余計にやはり婚約者はどうでもよくなったルリゼから、新しく寵愛を向けているインシェンに変わるのだと、皆が噂する。
ルリゼに変わりないとアンサン王子に言う中に、『聖女』インシェンの姿もある。やせ細り、歩くのさえ苦しそうな姿を同じ教室で見ているのに、元気と笑顔で平気に言える『聖女』が怖く、ぞっとする。
いくらあらゆる魔法が使えるとはいえ、性格まで私たちが理想する『聖女』とは限らない。それを知っていたから父は忠告してきたのだろう。彼女の性格を見極めるまで近寄るなと。
だけどもう遅い。
すっかりインシェンの取り巻きの一人と化してしまった。
そんな中、学校を休みがちになったルリゼから誕生会の招待状が届いた。悩んだが出席する旨の返事を出した。
なにしろ他の皆は無視したと話していたから。それなら校外だしルリゼと接しても、誰にも気づかれずまた楽しくおしゃべりができる。皆に知られなければ、一人ぼっちになることはない。
私は皆が招待状を無視したことに、感謝すらした。
◇◇◇◇◇
「急だけど、明日は皆でピクニックに行きましょう!」
「え? いや、明日は……」
意外なことにアンサン王子も明日のルリゼの誕生会に出席するつもりだったのか、インシェンの提案に戸惑いの声をあげる。食堂では見向きもしていないのに……。アンサン王子がなにを考えているのか、全く本心が分からない。
きっとインシェンがピクニックを提案したのは、明日がルリゼの誕生会だと誰かが教えたからだろう。彼女にそういう意地の悪いことを行う一面があると、ともに学校生活を送ることで私にも分かってきた。教えた人物もそれを利用して、ルリゼへの嫌がらせを企んだに違いない。
もし出席を予定している人がいても、誰も行かない寂しい誕生会にしようと……。
「だって明日もきっとお天気がいいはずよ。そんな日にピクニックできたら楽しいでしょう? ひょっとして、ピクニックが嫌い? アンサン、あなたが一緒に来てくれなければ護衛してくれる人が減るから、なにかあったらと思うと……。私、不安だわ……」
「……分かった」
結局アンサン王子は顔を曇らせたインシェンとピクニックへ行くことを選び、誕生会を欠席することにした。明日が誕生会と知っている多くの者が、してやったりと意地の悪い笑みを浮かべる。
どうしよう……。もしピクニックを断って、王子すら欠席する誕生会に出席したらどうなるか……。
しかもピクニックを断る口実が浮かばない。
もしインシェンに遠視魔法を使われ、誕生会に出席していると知られたら? それをピクニック会場で皆に言い触らされたら? そうよ、遠視魔法があるのにどうして出席すると返事を出してしまったのだろう。最初から理由をつけ、欠席と返事を出しておけば良かったのに。
ただでさえ最近ルリゼは学校を休みがちで今日も欠席しており、休学届が出されるのも時間の問題と噂になっている。ピクニックよりそんな人物の誕生会を優先したと知られれば、ルリゼがいないとターゲットは私に変わり、皆から無視され陰で悪口を言われ始めてしまう。それだけは嫌!
結局家族には誕生会へ行くと嘘をつき、皆と待ち合わせてピクニックへ重い気分で向かう。御者には誕生会の会場が趣向を変え、塞ぎ気味のルリゼのためにピクニックになったと伝えた。御者はそれを信じた。
晴天で確かにピクニックにふさわしい日和。だけど私の心は曇っている。皆が談笑していても、心の底から楽しいと思うことのない一日だった。
心のどこかで、ルリゼがずっと私を待っていると思うと……。
許して、ルリゼ。私は一人ぼっちが嫌なの。貴女と同じ目に合いたくないの。何度も何度も、心の中でルリゼに詫びた。
これ以来、ずっと私の心は晴れない。
この頃やっと他の貴族からも子ども達の様子がおかしいと報告が多く上がるようになり、調査の結果、大臣たちもインシェンが己の満足のために魅了魔法を使用していると認めた。魅了魔法を使い多くの生徒や教師を手中におさめた結果、ルリゼが一人ぼっちでも教師は対応せず、まるで居ないかのように放置していた。インシェンがそう望んだから。
さらに調べるとテストの最中インシェンは遠視魔法を使い、成績の良い者の解答を覗いていることまで判明した。彼女がそうやってテストの点を稼いでいたことは緘口令が敷かれたが、魅了魔法を使い大臣から聞き出した父は、インシェンの本性を知った。
「王子の婚約者は聖女インシェンになると誤解している者が多いが、あのような女が王子妃となるには問題だ。女王が許さないだろう。ルディア、ルリゼ様は学校を休学していると聞いたが、誕生会ではどんな様子だった? 他に誰が参加した? アンサン王子は出席されていたのか?」
父に問われても答えられるはずがなかった。だって誕生会を無断欠席したのだから……。分かるのはピクニックに参加した面子は、誕生会を欠席したということだけ……。
いつまでも答えないのでおかしいと感づいた父は、魅了魔法を防御する道具を取り上げると魔法を使い、真実を語らせた。
「なんて馬鹿なことをしでかした! ルリゼ様の母君が誰なのかを忘れたのか⁉ どの国から嫁がれて来たと思っている! あの国は侮辱されることを嫌い、侮辱した者を徹底的に排除する傾向がある国だぞ! それを無断欠席とは……! お前はもう狙われているに違いない! これはもう、お前だけの問題ではないぞ! 我が家だけでなく、我が領民にも影響が及ぶ大問題だ‼ それ以前に出席すると言い無断欠席するとは、信頼を裏切る行為に他ならない! 人として恥を知れ‼」
すぐ明日学校を休んででも、謝罪に行けと命じられた。
でも私一人ではなく、全員がルリゼに背を向けた。だから全員で謝罪に行きたいと訴えると、渋々許してくれた。
翌日登校すると、同じく家族に叱られた友人の一人が私より先にルリゼの見舞いに行き、これまでのことを謝罪しないかと言いだした。
私を含め何人かはすぐに賛同したが、今さらと断る者もいた。アンサン王子の態度を見れば、婚約者はインシェンが選ばれて当然だから無意味だと。だから……。
「私、お父様に言われたの……。ルリゼのお母様の母国は侮辱されることを嫌い、侮辱した者を排除する傾向があると国だと。だから……。狙われると……。それに魔法を使い周りを都合よく操る傾向のある者が王子妃になるのは、問題があり、女王が許さないだろうと……」
「操るって……。そんな人聞きの悪い……。相手は聖女よ? 不敬な発言だわ」
「そうよ。それにアンサン王子は、自らルリゼではなくインシェン様へ接しているのよ? 性格がどうのとか、いくら女王が難色を示しても彼女は聖女だもの。王子妃となるには、それだけで十分な理由よ」
狙われればどうなるのか、具体的には知らされていない。だけどルリゼのお母様が武術を得意としているのは有名で、自ら息子へ剣術を始めとした武術を教えている。それを伝えれば、確かに敵に回すと厄介だと皆ようやく理解してくれた。
ところが謝りに行けば面会を拒絶された。
ルリゼのお母様から『侮辱』という言葉が出て冷たい射抜く視線を向けられた時は、腰が抜けそうだった。
そしてアンサン王子の誕生会で私たちは王都から永久追放と決まった……。
「女王が国や民を守ったように、私にも守るべきモノがある。それらとお前を天秤にかければ……。分かるな?」
「……はい」
「お前を修道院送りにする」
やはり……。ぎゅっとスカートを握る。
「ただし行き先は、ルリゼ様の母君の母国にある修道院だ」
「え?」
「手筈は整えてある。向こうも受け入れると返事を下さった。持って行ける荷物は制限されており、これがリストだ」
「ま、待って下さい! 修道院送りは分かりますが、なぜ? なぜ国内ではなく、あちらの国なのですか⁉」
拒否するようリストを受け取らず叫ぶが、父は淡々と答える。
「それが最善だからだ。お前が国内の修道院へ行けば、そこで暮らす罪なき者たちが巻きこまれ死す可能性がある。だがあちらの国へ行けば、あちらの国が気の済むようにお前だけを扱える。わざわざ殺さずとも取れる仕返しの方法はいくらでもあり、それらでお前に罰を与えるだろう」
狙われるというのは命まで指していたのかと震える。
せいぜい顔などに一生の傷を負わされる程度だと思っていた自分の甘さを後悔する。
馬車に揺られ母国からあちらの国へ向かっている道中、領内に隠居することになった友人が数名行方不明となり、その館で働いていた使用人が全員亡くなったと書かれている新聞を読む。それらは全員、一度謝罪へ行くことを拒んだ人ばかりで……。
新聞を握ったまま、がくがく震える。
一体皆、どこへ連れ去られたのだろう。きっと尊厳を奪われるような場所に違いない。死んだ方がましと思える、そんな場所に違いない。
そういった道から外れ、向こうの国で修道女として生きられるよう、父は最善を選んでくれたのだろう。だって私の身には、まだなにも起きていないのだから……。
父の選んだ『修道院』がどんな場所かを知らない当時の私は、父に感謝すらしていた。
◇◇◇◇◇
「遅い」
ピシャリとムチで手の甲を叩かれる。
今日の仕事はお針子。売り物となるハンカチに刺繍を入れているが、朝から何度もそう言われては手の甲を叩かれている。それも今やこの国の王族の一員となったルリゼの弟、フォルス様に。
ここには定期的に兵隊が建物内の様子を見回りに来るが、今日はその中にフォルス様の姿があった。彼は私に気がつくと兵の隊長に願い出て、今日一日、私に付きっきりとなることが決まった。
「雑だ。私の姉はもっと上手に縫える」
ピシャリ。
「下手くそ」
ピシャリ。
手が赤く腫れていき震え、これでは縫おうにもまともに手が動かせない。それを知りながら……。
ついに震えが止まらず、布や針を落とす。
「あ……っ。も、申し訳……!」
「売り物を落としてどうする‼」
拾おうとした私の背に、今日一番強いムチが落ちる。痛みで目を濡らしながら肩越しに振り返り、尋ねる。
「……お姉様は、刺繍をたしなまれるほどに快復されたのですか?」
「ああ、起き上がれ散歩をされる時もある。笑い、本を読まれる時もある。だが! お前には関係のない話だろう⁉」
ようやく全て拾い終えたのに拳で頬を殴られ、拾った道具をまた散乱させながら椅子から落ちる。
「今さら! お前が‼ 姉上の‼ 心配だと⁉」
倒れた私の体にムチを振るう。
「ふざけるな! 姉上をあそこまで人として狂わせておいて‼ 誕生会を無断欠席され、どれだけ泣かれたか……! よくもあんな非道な行いを……! 姉上はお前にも立場があると言われていたが、許せるものか! このっ、人間の屑め‼」
何度もムチで打たれるが、周りの者は誰も止めようとしない。特に私と同じ服を着ている人たちは自分に飛び火しないよう、視線を向けない。全員が手元に集中している体を装っている。
「また来る。私が来た時は、私がこの者の面倒を見る。絶対に死なすな」
そう言ってフォルス様は日付が変わる直前、帰られた。
その頃にはもう食堂は閉まっており、晩御飯なしで就寝することになった。
私が国王の姪に対し侮辱を働いたことは、ここで暮らす誰もが知っている。いつの間にか話が広まっていた。
夜も囚人に対するよう、ちょくちょく見張りが覗きに来る。もちろん自殺していないか確かめるために。
……お父様。私はいつか許される日が来るのでしょうか。それとも一生許されず、こんな生活を続けるのでしょうか……。ここでこうやって生きることが幸せなのでしょうか……。行方不明となることと、どちらが良いのでしょう……。
現状を知れば、きっとお父様なら別の修道院に送る手筈を整えてくれるはず。
そう期待をこめ、幾度となく父へ手紙を送る。
「……違った」
ある日、気がついた。
父はなぜ私をここへ送ったのか。
ここへ私を送ることで、父は守るべきモノを守っただけ。つまり私は生贄。最も罪深い者をこの国に、煮るなり焼くなり好きにしてくれと差し出したのだ。その代わり、領民たちには手を出すなと……。
だから手紙の返事が一向に届かないのだと。
「は……。はは……」
乾いた笑いが出る。その直後、涙が止まらなくなる。
一人ぼっちになりたくなくて友を裏切った結果、家族にも見放され、本当に一人ぼっちとなった。
何度手紙を送っても、家族から一通も返事が届かない。段々送る頻度は減り、ついには無駄だと諦め手紙を出すことを止めた。だがそれを聞きつけたフォルス様が、無理やり家族宛ての手紙を書かせる。そしていつまでも返事がないことを、ここで暮らす普段着の皆が笑う。
母国へ帰れず厳しい仕打ちを受ける日々。
そんなある日、友だった一人がこの修道院にやって来た。彼女はこれまでこの国の別の修道院に居たが、そこはこことは違い本物の修道院だったそうだ。そこで平和に神の教えについて勉強しながら暮らしていたが、急にこちらへ送られることが決まったと話す。
なんでも寄付金から運営していた修道院内で火災が起き、寄付金を復興に回した結果、物資や食料を買うお金がほとんど底をついたそうだ。このままでは全員食べるものに困るので、仕方なく数名の修道女を別の修道院へ移動させることが決まり、彼女はこの修道院へ向かうように言われたとのことだが……。
火災が起きたのも、お金が底をつき食うものに困る事態になったのも、彼女がそこにいたからだろう。だから修道院は元凶を追い出したに違いない。
なにも知らず『修道院』という名に騙され、見知った顔を見つけ無邪気に喜んでいるが……。
ここは貴女のいた修道院とは違う。
「……覚悟した方がいいわよ、ここは修道院という名の別の施設だから。死なせず殺せずで、侮辱した者を苦しめる場所」
服の裾を上げ、ムチで打たれ腫れあがった背中や足を見せる。
「貴女もこうやってルリゼを侮辱した罪を購うため、これからずっと身体に暴力を受けるのよ」
口に両手を当てたまま、彼女は一言も発さなかった。
私も黙って上げた服の裾を戻すと、仕事の持ち場へ一人で向かう。
道中窓から見える空は、ピクニック日和の晴天だった。
あの日から変わらぬ私の心と裏腹に……。
前回、ブクマ登録して下さった85名の皆さま。一度削除し、大変申し訳ございませんでした。