無慈悲な決戦(4)
「ハイドって魔族がボスだろ、直接あいつを倒せば俺達の勝ちだろ」
「そこまで行く前に、幻獣に囲まれて終わりだろ、待つのも作戦だ」
「兵士達が整列を始めたわ」
僕達は城下町の郊外にある空き家の2階を使い、待機していた。
城下町は町人が避難して空き家だらけ、そこを利用して徴兵部隊や傭兵が生活している。戦時でも衣食住の確保は大切だ。
昨日、兵士達に通常より多い食料配給と酒が配られた。
「いよいよ、平原での合戦だな」
「この作戦、上手くいくのか」
「ヴァンちゃん、今更すぎる」
「ハイドがここの近くに来なかったら、出番無しだろ」
「その為にエミリさん達と離れて待機してるのよ」
「来るよ、きっと来る」
僕達の作戦は、王国軍の作戦に組み込まれていない。
王国軍が平原で戦い幻獣部隊が優勢になる、城下町へ後退し市街戦に突入する。市街戦は王国軍が有利に進める、幻獣の操作をする為、ハイド達が城下町へ来る。そこを叩く作戦だ。
この作戦は王国軍が王子の指揮の下、平原で戦うと決まった時に思いついた。
「ショウを信じてるよ、でもなぁ」
「不確定な要素が多過ぎる。だろ」
「まだ、合戦も始まってないのに」
「ミカエル王子が激を飛ばしてるわ、そろそろ始まるわ」
「王子様が先陣をきるなんて、兵士が退却できないかも」
「おいおい、信じさせろよ」
ミカエル王子の激が飛ぶ。
「我等が領土に侵入する!不浄の獣を打ち砕き!この地に再び平穏を取り戻せ!
我等の剣で槍で!獣を地獄へ叩き落とせ!」
ミカエル王子は激の後、軍の後方へ下がった。
突撃のラッパが鳴り響き、騎馬隊を先頭に歩兵隊も、全軍が突撃を開始した。
「王子様、下がちゃったね」
「口先だけで戦わないのかよ」
「それより全軍突撃して、作戦とか無いのかよ」
「ドレーゼンさんは、王子にしては良策って言ってたよ」
「ここから何か仕掛けるのかしら」
全軍、まっすぐに敵陣へ走る。
幻獣部隊も突撃を開始した。恐怖を知らない幻獣部隊の方が、完全に有利と言える。
騎馬隊は幻獣部隊との衝突を避け、左右に別れ旋回した。
「おっ!騎兵が逃げた」
「まって、幻獣が騎兵隊を追いかけてるよ」
「歩兵が突っ込むぞ!」
「そうか、騎兵は囮、敵に横を向かせて、まさに横槍だ」
「幻獣と歩兵が乱戦状態になってるわ」
さらに、旋回した騎兵隊は敵の後方に回り込む。
騎兵の機動力、歩兵の粘り強さを生かした、まさに良作だ。
もしも同数の合戦なら、王国軍が勝っていただろう。この戦いて突撃したのは、非正規部隊(騎兵)7000、徴兵部隊(歩兵)23000だ。
王国軍3万、幻獣部隊5万、この数の差は1つの良作だけでは埋まらない。
「王国軍が押されだした」
「歩兵が下がってる。まずいぞ、騎兵が囲まれた」
「どうして後方で待機してる部隊は動かないの」
「あれは貴族部隊、王子の取り巻きだよ」
「ひどい、見物するだけで、何もしない気ね」
歩兵隊は敵に押し込まれ後退、隊列を組み直した幻獣部隊は、騎兵隊を取り囲んだ。遠くから見ると分かる。幻獣部隊は100の単位で連携をして戦い、時々全体で整列をして隊列を変える。
「やっぱり、隊列を整える時、誰かが命令している」
「それって、念動術の事?」
「操っているヤツが、あの近くにいるんだな」
「あとは市街戦を待つだけ、早く後退しろよ」
「なんで兵隊さん、逃げないの」
歩兵隊は囲まれた騎兵隊を助ける為、無理をして前に出ようとしている。
歩兵を後退させれば幻獣部隊は歩兵を追う。そうすれば騎兵の逃げ道が出来るはずなのに、指揮官が支持を出さない。
タイコの音が響き渡る。
歩兵隊が後退を開始した。
「やっと、後退命令か」
「でも、どこから?」
「左!騎兵隊がいるわ」
「歩兵さんが下がると、騎兵さんが全滅しちゃうよ」
「そうでもないよ。騎兵の逃げ道が出来るはず」
歩兵隊の後退にあわせて、幻獣部隊が前に出る。
包囲が緩んだ騎兵隊は隙間から脱出、さらに新手の騎兵隊2千が幻獣部隊の後方に突撃した。新手の騎兵隊は無理な交戦はせず旋回、市街地へ撤退して行く。
「スゲー、あっさり騎兵隊を逃がした」
「さらに時間稼ぎして、こっちに来るぞ」
「王子の部隊も市街地に走ってるわ」
「あの人達は戦いたくないんだね」
「そのおかげで、予定どおりになった。準備OK?」
「OK」×4
王子の部隊の撤退で全軍が市街地へ撤退した。
城下町は大通りと細い路地入り組んでいて、土地勘がないと迷う。まして自動で動く幻獣は迷路で混乱するはずだ。
幻獣部隊は街の入口付近で待機している。
「幻獣が止まった、街に入らないのか?」
「誰かいるよ、女の子かな」
「あいつはハイドと一緒にいた奴だ」
「何をしてるのかしら。幻獣に触ってる?」
「市街戦用に指示を変えているのかも」
幻獣部隊が市街地に突入した。
女の魔族も市街地に侵入した。
「あの子だけか」
「他には見えないな」
「ハイドは砦にいるのかも」
「距離が遠いよ、近くで見たいはずだよ」
「静かに、下の道、男が歩いてる」
「ハイドか?」
「違う、見た事ない魔族だ」
「どうする、ショウ」
「・・・・・奴は放置、ハイドを待つ」
男の魔族は周りの様子を気にしている。
僕達は息をひそめ、その場で待機した。
「ケビン、残りの幻獣の数は?」
「約28000体かな」
「籠城する敵に対しては、厳しいかな」
「敵の質が落ちてる、問題ないよ」
「あのエルフが出たら、まずいだろ」
「あんな大技、数日で回復は無理だよ。小技なら使えるかもね」
多数の光の矢が魔族達を襲う。魔族は左右に飛び、矢を避けた。
僕達は2階の窓から飛び、魔族を囲む。
「小技って、これかな」
「驚いたぜショウ、エルフの技が使えるのか」
「なるほど、弓で散弾を制御してる」
「やっとボス戦だ、気張って行くぜ」
臨戦態勢の僕達に対して、魔族は余裕の微笑み浮かべた。




