表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師見習いです。  作者: ダグラス
55/63

無慈悲な決戦(2)

 今夜は新年祭、今更だが日没で今日が終わるので、大晦日の夜が新年祭であっている。僕も昨日知った。


「テル、回復薬を棚に並べてくれ」

「テルちゃんは新年祭の準備よ」

「あ、そうか」

「僕のも、もう直ぐ終わるので、後で運びます」

「随分、早くなったな」


 新年祭は日没から日の出まで、真冬の夜に行なわれる。

 毎年、体調を崩した人達が回復薬を求めて薬局に訪れる。回復薬は直接的に風邪を治す効果はないが、体力が回復するので間接的に風邪に効く。


「あとは、鎮痛剤だけね」

 コンッ、コンッ

「あら、開いてますよ」

「失礼します。私は王国軍第3近衛部隊のディレンです」

「あらあら、テルちゃんを呼ばないと、ショウちゃんお願い」

「はい」


 近衛部隊が直接、訪れるなんて初めてだ。

 僕は走ってテルを呼びに行く、船着場では商工ギルドの再建と新年祭の準備で人が多い。資材置き場でテルを見付ける。

 テルは女の子と暖かいスープを飲みながら休憩していた。収穫祭からモテモテのテルは王都に戻らず、アルストリアの生活を満喫している。


「テル、王都からの使者が来た」

「そうか、ごめんね行かないと、スープありがとう」

「あの、新年祭は・・・」

「大丈夫、迎えにいくよ」


 テルと共に薬局へ走る。

 なんでだろう。緊急で王都に行く依頼を期待している。


「戻りました」

「あらあら、そんなにせっつか(・・・・)なくても」

「だが、内容は重要だった」


 ディレンさんが書類を見ながら2度目の報告をする。


「国境警備の駐屯地や砦が幻獣の襲撃を受けています・・・」

 幻獣の見た目は頭部は牛、胴体は人型、腰から下は4本足の獣、蹄の形状から馬と考えられます。幻獣部隊の総数は不明ですが、100体の部隊を複数進行させていると推測されます。現在、北部国境警備隊に援軍を送り、近隣の冒険者ギルドにも討伐要請をしています。敵部隊の攻撃は単純ですが、隊列は完璧で隙がなく苦戦しています。なお、通信魔導具が混線して伝達の不具合が発生中です」


「なるほど、で、俺達は何をすれば」

「今はまだ待機です。いつでも参戦できるよう準備をお願いします」

「そうですか、『残念』頭が、牛で体は人型、馬の下半身だっけ」

「そうです。武器は鉄の剣と盾、どちらも大型です」

「ミノタウロスとケンタウロスを合わせた見た目だな」

「そう、それでルキア殿がミノ・ケンタと名付けました」

「どうして、マナは止めなかった」×2

「マナ殿は体調不良で・・・」


 ついに幻獣の量産が始まった。

 軍隊が防衛しているけど、相手は痛みも疲労も無い幻獣だ、さらに大量生産が続けば敗北は見えている。


「おそらく幻獣のコア、急所は馬の部分、馬の背中にあたる部分です」

「いい読みね、でも隊列を組む敵の馬の背を、どうやって攻撃するの?」

「そうですね、急所を上手く隠してる」

「騎兵と同等の機動力、大きな剣と盾、しかも人馬一体、無敵か?」

「幻獣の弱点は足です。前足を切断すれば」

「そうか、足を切れば動きが止まる」

「お見事ね、伝令の方、急いで前線部隊に知らせて」

「は、はい」


 ディレンさんは急いで王都へ帰還した。

 現状、僕達に出来る事はここまでなのか。敵は100体の幻獣部隊、今までとは戦い方が違う。軍隊には軍隊、しばらく出番はないかな。


「王都へ行く準備をして、エミリ、保存食の作り方を教えるわ」

「僕は船の手配をします『良し』」

「まだ大丈夫よ、出発は5日後、定期便で行くわ」

「今夜の新年祭は・・・」

「楽しんでいらっしゃい。ショウちゃんは鎮痛剤を作って」


 残念ながら出発は新年が終わって、町が平常に戻ってからだ。

 リコは体調が悪く新年祭には行けない。病気ではなく、つわりが酷いのだ。時期的には収穫祭の頃かな、出産予定は夏なので結婚式には、2つの御祝いをする事になる。


「鎮痛剤、出来ました」

「ああ、お疲れ」

「それが保存食ですか、普通のビスケットみたいですね」

「これは塩を多く使ってる、食べるか?不味いぞ」

「不味いと分かってて、勧めないで下さい」

「エルフ伝統の乾パンだ、本当はお湯で戻してスープにして食べる」

「なるほど、冬の遠征には、ピッタリですね」

「それより、早く帰ってやりな。リコの調子、悪いんだろ」

「それが、機嫌も悪くて・・・」

「パパになるんだ、我慢しろ」

「はーい」


 最近、エミリさんの元気がない。

 話しかけた時は、いつも通りなのだが、考え事をしているのか、心ここに有らずと言った印象だ。


「エミリ、お祈りの用意ができたわ。ショウちゃんは家族に戦争に行くって、はっきり伝えるのよ」

「そうですよね」

「中途半端に伝えると、余計に心配になるわ」

「はい、はっきり伝えます」

「北部は雪が積もっている頃だ、防衛は困難だろう」

「それじゃ、王都に敵が」

「そうだな、ミドラスト河の防衛線を越えられたら。直ぐだ」


 この時、王国軍の北部国境警備隊は壊滅していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ