無慈悲な決戦(2)
今夜は新年祭、今更だが日没で今日が終わるので、大晦日の夜が新年祭であっている。僕も昨日知った。
「テル、回復薬を棚に並べてくれ」
「テルちゃんは新年祭の準備よ」
「あ、そうか」
「僕のも、もう直ぐ終わるので、後で運びます」
「随分、早くなったな」
新年祭は日没から日の出まで、真冬の夜に行なわれる。
毎年、体調を崩した人達が回復薬を求めて薬局に訪れる。回復薬は直接的に風邪を治す効果はないが、体力が回復するので間接的に風邪に効く。
「あとは、鎮痛剤だけね」
コンッ、コンッ
「あら、開いてますよ」
「失礼します。私は王国軍第3近衛部隊のディレンです」
「あらあら、テルちゃんを呼ばないと、ショウちゃんお願い」
「はい」
近衛部隊が直接、訪れるなんて初めてだ。
僕は走ってテルを呼びに行く、船着場では商工ギルドの再建と新年祭の準備で人が多い。資材置き場でテルを見付ける。
テルは女の子と暖かいスープを飲みながら休憩していた。収穫祭からモテモテのテルは王都に戻らず、アルストリアの生活を満喫している。
「テル、王都からの使者が来た」
「そうか、ごめんね行かないと、スープありがとう」
「あの、新年祭は・・・」
「大丈夫、迎えにいくよ」
テルと共に薬局へ走る。
なんでだろう。緊急で王都に行く依頼を期待している。
「戻りました」
「あらあら、そんなにせっつかなくても」
「だが、内容は重要だった」
ディレンさんが書類を見ながら2度目の報告をする。
「国境警備の駐屯地や砦が幻獣の襲撃を受けています・・・」
幻獣の見た目は頭部は牛、胴体は人型、腰から下は4本足の獣、蹄の形状から馬と考えられます。幻獣部隊の総数は不明ですが、100体の部隊を複数進行させていると推測されます。現在、北部国境警備隊に援軍を送り、近隣の冒険者ギルドにも討伐要請をしています。敵部隊の攻撃は単純ですが、隊列は完璧で隙がなく苦戦しています。なお、通信魔導具が混線して伝達の不具合が発生中です」
「なるほど、で、俺達は何をすれば」
「今はまだ待機です。いつでも参戦できるよう準備をお願いします」
「そうですか、『残念』頭が、牛で体は人型、馬の下半身だっけ」
「そうです。武器は鉄の剣と盾、どちらも大型です」
「ミノタウロスとケンタウロスを合わせた見た目だな」
「そう、それでルキア殿がミノ・ケンタと名付けました」
「どうして、マナは止めなかった」×2
「マナ殿は体調不良で・・・」
ついに幻獣の量産が始まった。
軍隊が防衛しているけど、相手は痛みも疲労も無い幻獣だ、さらに大量生産が続けば敗北は見えている。
「おそらく幻獣のコア、急所は馬の部分、馬の背中にあたる部分です」
「いい読みね、でも隊列を組む敵の馬の背を、どうやって攻撃するの?」
「そうですね、急所を上手く隠してる」
「騎兵と同等の機動力、大きな剣と盾、しかも人馬一体、無敵か?」
「幻獣の弱点は足です。前足を切断すれば」
「そうか、足を切れば動きが止まる」
「お見事ね、伝令の方、急いで前線部隊に知らせて」
「は、はい」
ディレンさんは急いで王都へ帰還した。
現状、僕達に出来る事はここまでなのか。敵は100体の幻獣部隊、今までとは戦い方が違う。軍隊には軍隊、しばらく出番はないかな。
「王都へ行く準備をして、エミリ、保存食の作り方を教えるわ」
「僕は船の手配をします『良し』」
「まだ大丈夫よ、出発は5日後、定期便で行くわ」
「今夜の新年祭は・・・」
「楽しんでいらっしゃい。ショウちゃんは鎮痛剤を作って」
残念ながら出発は新年が終わって、町が平常に戻ってからだ。
リコは体調が悪く新年祭には行けない。病気ではなく、つわりが酷いのだ。時期的には収穫祭の頃かな、出産予定は夏なので結婚式には、2つの御祝いをする事になる。
「鎮痛剤、出来ました」
「ああ、お疲れ」
「それが保存食ですか、普通のビスケットみたいですね」
「これは塩を多く使ってる、食べるか?不味いぞ」
「不味いと分かってて、勧めないで下さい」
「エルフ伝統の乾パンだ、本当はお湯で戻してスープにして食べる」
「なるほど、冬の遠征には、ピッタリですね」
「それより、早く帰ってやりな。リコの調子、悪いんだろ」
「それが、機嫌も悪くて・・・」
「パパになるんだ、我慢しろ」
「はーい」
最近、エミリさんの元気がない。
話しかけた時は、いつも通りなのだが、考え事をしているのか、心ここに有らずと言った印象だ。
「エミリ、お祈りの用意ができたわ。ショウちゃんは家族に戦争に行くって、はっきり伝えるのよ」
「そうですよね」
「中途半端に伝えると、余計に心配になるわ」
「はい、はっきり伝えます」
「北部は雪が積もっている頃だ、防衛は困難だろう」
「それじゃ、王都に敵が」
「そうだな、ミドラスト河の防衛線を越えられたら。直ぐだ」
この時、王国軍の北部国境警備隊は壊滅していた。




