それぞれの収穫(1)
日々やさしくなる日光
日々つめたくなる空気
朝露が日光を浴び霧が立つ
晩秋の早朝
かすみ掛かる町
竜の羽音が空を行く
四季は移ろい冬が近づく
僕は今、収穫祭の準備をしている。
商店街の各店舗がそれぞれ嗜好を凝らした出店を出して、3日間のお祭りを盛り上げる。去年は港町ポルトトに行っていて、参加できなかったイベントだ。
メイン会場は船着場、新年祭と違い昼の祭りなので、老若男女が参加する。
「テル、柱を支えてくれ」
「はい」
「ショウちゃん、お肉の下茹では終わった?」
「もう少しです」
薬局は『元気の出る薬草スープ』を販売する。
店の主力商品の宣伝を兼ねた薬膳スープだ。毎年、魚の出汁だったが今年は竜族から新鮮なウサギの肉が空輸された。
縄張りに戻る前に立ち寄ってくれたのだ。
「下茹で終わりました」
「じゃ、お肉だけ出して骨と身に分けて、スープの味付けは私が」
「はい」
「ショウ、熱くないのか?」
「大丈夫、なれてるから」
「でも、熱湯から出して直ぐだぞ」
「ここで修行したら、熱湯ぐらい平気になるよ」
婚約パーティーの後、僕はリコと暮らしている。
僕が住んでいた薬局の弟子用の部屋はテルが使っている。
婚約パーティーの後、テルはセシリアさんに頼んで修行をしている。最初は槍術は専門外で教える事がないと、断ったセシリアさんだがテルの熱意に折れ弟子にした。
「テルちゃんは無理よ、魔力が低いから耐性は上がらないのよ」
「そうですか、どうしたら魔力は上がりますか」
「職業的に無理なのよ」
「テルは戦士だ、力仕事を頼む、ほら、こっち持って」
「お肉をほぐしたら塩を振ってね、高い位置からサラサラって感じで」
「はい」
魔力も化学スキルも低いテルだが腕力は高い。
長い槍と大きな盾で戦う槍術士は攻撃も防御も高い。しかし、武器の重さで動きが遅くなる為、陣形を切り替える時に遅れてしまう。
盾を使わない方法も試したが、なぜか上手く行かない。
「ショウ君、こっちを手伝ってくれないか」
「トーマスさん、すみません、手がベタベタです」
「後でも構わんよ、荷物が重くてな」
「テルちゃん、行ってお上げなさい」
「はい」
「すまないね、助かるよ」
「いつも助けていただいてますから、今年は男の子が多いので」
力仕事は任せろと言わんばかりに、重い荷物を運ぶテル。それを見た商店街の人達も、手伝いを頼んでいる。
「・・・・・」
「どうしました?セシリアさん」
「なんだかね、雑用ばかりで何も教えてないから」
「エミリさんが稽古を付けてますけど、まあ、ね」
「王都でも相手はいるでしょうし、ショウちゃん、何かないかしら」
王都の兵士との模擬戦で感じたのは『素早さ』だ。
各職業もそうだし、チームでの連携も素早く流れるように行っている。軍隊では隊列や行進を日々練習している。離れて暮らす僕達は単に練習不足かもしれない。
だったら、原因は僕にある。
「僕が王都に行って練習機会を増やした方が良いかもしれません」
「あら、なぜ?問題の解決にはならないわ」
「え、だって連携の練習不足だと思います」
「連携を乱してるのは、テルちゃんだけじゃないわ。ヴァンって子もそうよ」
「攻撃の主軸だから、ヴァンに合わせて組み立ててますけど」
婚約パーティーの後、広くなった裏庭でアグレイさん監修の下、練習を行った。その時いろいろ教えてもらい、僕とマナで練り直す予定になった。
「あの子は大斧を使ってるでしょ」
「はい、ダークヒーローみたいでカッコイイって」
「大斧は中距離武器よ、近距離は苦手なのよ」
「なるほど、武器の相性ですね」
「ショウちゃん最近、勘が悪いわね。武器を変えても駄目なのよ」
「どうして、ですか?」
「フフフ、あなたは勘に頼らず自分で考える時期ね、ヒントはここまで」
凄く優しく突き放された感じがした。
中距離2人、遠距離1人、サポート2人、いや、攻撃サポートと防御サポートだから遠距離2人かな。魔法は詠唱時間が必要なので、遠距離3人かな。
だったら、僕が前に出れば・・・いやいや、それは以前に否定されている。
「ほらほら、手を止めないで、お祭りに間に合わないわよ」
「あ、はい」
「ショウ、肉が終わったら、蓋のない樽を持って来てくれ」
「大きさは?」
「一番大きいの」
「はい」
収穫祭は昼から日没まで開催される。
食欲の秋にふさわしい食の祭典と言った感じのイベントだ。食だけでなく花屋は花の冠、道具屋は義母リースさんの特技の似顔絵、金物屋は的にナイフを投げて当たった場所で景品がもらえるなど、楽しい屋台が並んでいる。
「ショウさん、今日は鼓笛隊、呼んでないの」
「僕の権限では無理ですよ」
「ショウさん、開会の鐘、準備お願いします」
「はい」
船着場で開会式が行われ、開会の合図が送られる。
この町には各地域に1軒、屋根の上に釣鐘が付いた家がある。祭りの開催の合図だけでなく、火災などの緊急事態を知らせる時に使われている。
『近くで見ると大きい』
僕は屋根の上で開会の合図を待つ。
鐘を打つリズムで状況を知らせる。祭りの合図は簡単なので、屋根に登る身軽さがあれば誰でも出来る。
「カン、カカン、カン、カカカカカ、カン」
予定と違う鐘の音が鳴り響く。
「あれ?・・・すみません!間違いですか!?」
「これは緊急事態の合図だ!火事じゃない!何かあったのかもしれん!」
「カン、カカン、カン、カカカカカ、カン」
また、同じ合図だ。僕はリズムを真似て鐘を打った。
「カン、カカン、カン、カカカカカ、カン」
鐘を打ち、船着場に目をやると、土煙が舞い上がった。
「カン、カカン、カン、カカカカカ、カン」
アルストリアに鐘の音が響き渡る。




