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錬金術師見習いです。  作者: ダグラス
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新人冒険者(1)

 早朝は肌寒く上着を着ていたが、太陽が上るに連れて温かくなる、僕は上着を脱いだ、新緑がまぶしい。

 川原に群生している薬草の新芽を摘んで集める、新芽は栄養豊富らしく上級回復薬の材料になる、それを薬局に持って行き、買い取ってもらうことが、僕の主な収入源だ。


 僕の名前は佐藤将太「ショウ」と呼ばれている、会社員で32歳だったが、2ヵ月ほど前、この世界に召喚された、しかも15歳の若返った姿で!

 召喚されたのは僕を入れて5人、それぞれ得意なスキルを持ち、チームで協力して魔王を倒すため、今は冒険者ギルドの討伐依頼を受けながら、経験値とお金を稼ぐため、戦いの日々だ。


 僕を除いて・・・


 最初はRPGゲームの様な世界と思っていた、レベルにスキル、魔法もある、しかしゲームではなく現実だった。暑さ寒さを感じ、ケガをすれば痛いし血も出る。風邪を引いて寝込んだ仲間もいた。だが、怖くなって脱落した訳ではない、やむを得ない事情がある。


 先週から日中は汗ばむ陽気が続き、新芽が次々と出てきている、お昼前にカゴいっぱいになったので、町へ戻ることにした。

 町の名前は「アルスウエスト」中世ヨーロッパ風のレンガ造りの家が立ち並ぶ、王都から西へかなり離れた山間の町、近くに鉄鉱石の鉱山がある為、人口は多い。


「あら!ショウちゃん、ご苦労さま!たくさん取れたわね、はい、報酬!」


 薬局のオーナーのタリムさんが、笑顔で言う。報酬は10Sコイン1枚、この世界の通貨は、ゴールド(G)、シルバー(S)、ブロンズ(B)、の3種類すべてコインだ。

 100Bが1S、100Sが1G、各単位に1と10のコインがあり、1Sで宿屋に1泊できる、だだし大部屋、個室は5Sだ。


「弓矢の練習はしてるの?」

「はい、午後からギルドの訓練場に行きます」

「早くチームに戻れるといいわね、がんばってね」


 タリムさんは男性だ、高身長でガタイがいい、顎にだけヒゲを生やしている。オネエ系のじゃべり方だが、奥さんと子供がいる。

 最近はタリムさんの依頼ばかり受けている、報酬がいいのもあるが、今の僕に受けられる依頼は限られているからだ、やさしい人で僕の事情を知って心配してくれている。


「明日はギルドに依頼を出さないの、でもね、朝一番にお店に来てほしいの」

「いいですけど、何かあるんですか?」

「家族で山菜を取りに行くのよ、護衛と荷物運びをお願い」

「わかりました、では、明日」


 あぶないお誘いではなさそうなので、明日の予定が決まる。

 昼食はいつも屋台で食べている、青空市場の中に10軒ほどあり、どの屋台も1食30Bぐらいだ。入れ物を持っていけばテイクアウトもできる。普通の冒険者はテイクアウトをして、森で魔物を狩りに出かけ夕方帰ってくる。

 討伐依頼のある魔物は、依頼主に届けると報酬がもらえる。依頼のない魔物でも肉や皮を売ることが出来る。


 食事を終え冒険者ギルドへ向かう、朝夕は冒険者でにぎやかな場所だが、昼頃はほとんど人がいない。

 受付で依頼達成の報告と訓練場を使う手続きをする。料金は1Sで練習用の矢は5本だが刺さった矢を抜いて何度でも練習できる、時間は約2時間、砂時計が落ちきるまで、コーチを就けることも出来るが、10S掛かるため1人で練習する。


「命中率が上がってるな!弓術スキルは?」

「今・・・58です」

「もう十分実戦で使えるレベルだな、どのスキルもそうだが、50を過ぎると上がりにくくなる、毎日の鍛錬を怠らないようにな!」

「ありがとうございます」


 ギルドの教官ジャンさんだ、1人で練習する僕を心配して声を掛けてくれた。

 スキルは自分で確認できる、目を閉じるとリストが見えてくる。そこにスキル名とレベルが書いてある。

 武術スキルは剣術、槍術など各武術に分かれていて、0~99までの100段階ある。

 90以上が達人、70以上が上級で40以上は中級らしい、つまり僕は、中の上クラスの弓術スキルがある事になる。

 ジャンさんの言うとおり、実戦でも問題なく戦える。チームを抜けたのは実力がないからではない。もちろん性格に問題がある訳でもない。

 もしも弓術スキルがカンストしたとしても、チームで戦うのは難しいだろう。


 練習を終え図書館へ行く、ここで夕方まで本を読み、現状を打破する方法を探すのが、最近の日課になっている。

 図書館は町を治める領主の元邸宅、今は新しい邸宅に移ったため、旧館をそのまま図書館として無料開放している。そのため外観はお城のようだ。

 数千冊の本が無料で読める、魔道書が多いため、わざわざ遠方から訪れる人もいる。


「毎日、熱心ですね。魔術士の方ですか?」

「あ、いえ、弓術士です」

「弓術士さんが魔道書を?」

「まあー、いろいろ勉強したくなって・・・」

「そう、ですか・・・」


 魔術士風の女性が話し掛けてきたが、すぐに離れて行った、変わり者に思われたのかもしれない。

 弓術士に魔法は必要ない、魔法の詠唱に時間がかかる魔術士と比べ、弓術士は矢を放つだけで遠距離攻撃が出来る、接近戦に弱いがそれは魔術師も同じ、接近戦は剣術や体術で補うのが基本だ。


 図書館を出て宿屋へ向かう途中、武器屋によった、必要な武具はそろっているのだが、つい立ち止まってしまう。

 武器屋の店主は僕をチラ見しただけで、声をかけて来ない。


   現在の装備

鉄の弓

木の矢(5本)

短剣(補助装備)

布の服(上下)

鉄の胸当

鉄のこて(弓術士用)

皮のブーツ

皮の上着(腰に巻く)


 王都で支給された初期装備を、そのまま使っている。まだ新しいので店主から見れば、完全に冷やかしだ。

 店内を見て回ると、いつも同じ棚の前で足が止まってしまう。


[ 木の矢  1本   20S ]


 これがチームで戦えなくなった原因だ。


「はぁ・・・」


 僕は小さくため息を吐いて、宿屋へ向かった。

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