第17話 白銀のドラゴン
クラウディオさんのお店を出発して30分。
まだ来たことのない場所に窓の外を興味深く眺めていると、目的地に着いたようでガタンと音を立てながら馬車がゆっくりと止まった。
馬車に乗りなれない昴広の為にクッションを大量に置いていたのだが、結構長い時間スプリングのない馬車に乗っていた為、お尻が痛くなっていてようやく外に出れると安堵の息を吐く。
「昴広様、足元段差がございますのでお気をつけくださいませ。」
扉が開くとセバスチャン、クラウディオさんの順で馬車から降りる。
昴広の番になると先に降りていたセバスチャンの手を借り、足を踏み外さないように気をつけながら外に出た。
馬車から荷物を運び出していた辺境伯の使用人達が、ふわっと裾を軽やかに舞わせながら降りてきた昴広の美貌に目を奪われ固まっているのが、案の定昴広はそのことに気づかない。
セバスチャンにエスコートされたままクラウディオさんの側に行くと、石造りの大きなお屋敷に目を丸くし、居住まいを正す。
「クラウディオ様、お待ちしておりました。毎度こちらの方までお越しいただきありがとうございます。」
門で待っていた初老の男性が見本のような綺麗な礼をしながらクラウディオさんに頭を下げる。
「なに、たいした距離でもないから気にするでない。
それよりも辺境伯は今どこにいるのかのぉ?」
好々爺とした柔和な笑みを浮かべクラウディオさんが尋ねると、初老の男性は申し訳なさそうに眉をさげドラゴン部隊で指導中ですと答える。
「ふむ、では丁度よい。辺境伯がいるドラゴン部隊の訓練場まで案内してくれんかのぉ?」
「・・・・・・かしこまりました。こちらでございます。」
クラウディオさんの言葉に初老の男性、この家に仕える執事さんは逡巡したあとスっと先を歩き案内を始める。
屋敷から少し離れた場所にあるらしく5分ほど歩くと、ドラゴンが沢山集まっているのが見えてきた。
ドラゴン達から少し離れたところで執事さんにここで待つように言われ、遠目にドラゴン達を見ながら待っているとガタイのいい40代くらいの男性を連れて戻ってきた。
「済まない、待たせた。
クラウディオ殿がここに来るのは珍しいな。
なにかあったか?」
その男性に対してクラウディオさんとセバスチャンが頭を下げるのをみて、昴広も頭をさげる。
どうやらこの男性がヴァルファード辺境伯らしい。
「お元気そうでなによりだのぉ。
用という程のことではないのだが、我が息子がドラゴンを見てみたいというのできてみたのだ。」
「息子?クラウディオ殿に息子などいたのか?」
辺境伯は親しげに話しているクラウディオさんの息子という言葉に、聞いていないぞ?!という表情をしながら問いかける。
「養子をとったのだ。
ついでに紹介しよう。息子の昴広だ。」
「お初にお目にかかります。
昴広と申します。」
クラウディオさんに背中を押され、辺境伯の前に出るとソフィーナさんに学んだ貴族に対する礼をしながら名前を言う。
実際は息子ではないのだが、ここに向かう途中の馬車の中で僕のことはクラウディオさん達の息子としていた方が都合がいいと言われたのだ。
「・・・・・・ヴァルファードで辺境伯をしているヘンドリック・ヴァルファードだ。」
どうみても自分たちが信仰している美の女神ティルラツィーリ様にしか見えない昴広を愕然と凝視し、後ろに控えていた執事に裾を引かれ意識を戻す。
「クラウディオ殿にこのように綺麗な息子がいるとはな……。」
思わずと言ったようにポツリと零す辺境伯と目が合い昴広がニコリと微笑みかけると、辺境伯は僅かに頬を染め目を逸らし、誤魔化すように咳払いをするとドラゴンを見せてやると言って昴広の手を取る。
普通は男性が男性をエスコートすることはないのだが、昴広が相手なので見た目的に違和感がなく誰もつっこまない。
「ドラゴン部隊にいるドラゴン達は狭いところにいれてストレスをかけないようにこのように常に離されている。
どこか別の所に行ったとしてもこの龍笛を鳴らすと必ず戻ってくる。」
辺境伯にドラゴンについての説明を受けながらドラゴン達に近づいていく。
昴広が近づくにつれ、のんびりと寛いでいたドラゴン達がソワソワと空を見上げ始める。
「おい、あれ見ろ!!」
遠巻きに整列していた騎士の1人がドラゴン達のいつものは違う落ち着かない様子に気づき空を見上げ、こちらに向かって来ている大きな影を指し声を上げる。
だんだんと降下し始める大きな影に敵襲かと騎士達が腰に指していた剣を抜き構えた。
その瞬間見計らったかのような突風が吹き、昴広のそばでいつの間にか元の大きさに戻っていたスハイル以外が吹き飛ばされ、砂埃から目をかばう。
風がやみ顔を上げると空から降り立った白銀のドラゴンを前にし他のドラゴン達に囲まれている昴広の姿が目に入った。
昴広が目の前にいる白銀のドラゴンと目を合わせ数瞬した後、白銀のドラゴンは昴広に対して傅くように大きな首を下げる。
それを見た周りのドラゴン達も同じように首を下げはじめた。
「・・・・・・ありえない」
伝説と言われる黒いフェンリルに守られ、白銀のドラゴンを筆頭に多くのドラゴンに傅かれている物語のような光景を目にし誰一人として動くことが出来ず、呆然と立ち尽くす。
プライドが高く自分が認めたものにした敬意を表さないとされているドラゴンが1人の人間に対して首を下げ傅いているのだ。
当の本人である昴広は突然ドラゴン達に囲まれてわけも分からず傅かれることになり、オロオロと辺りを見回し、クラウディオに助けを求める目線を向けるのだった。
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