表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/88

最終話 プロミスト・ランド

最終話 プロミスト・ランド


台北に着くと伊家より迎えが来ており、俺と直政はそれを振り切って逃げた。

そしてビルの裏で日本から持ち込んだ拳銃を準備した。

直政には匕首を渡す。

そして台湾伊家の本部ではなく、伊家屋敷に接近した。


「いーさん、誰の家だ?」

「おじい様…伊家の屋敷だ、今日から俺たちの家になる」

「すごい屋敷だね、伏見の井伊屋敷どころではないな…ちょっとした城だ」


伊家は古い家で、その屋敷もまた古い。

石造りで表は洋館になっているが、内部は中庭のある台湾式構造のままだ。

中庭に沿って、団地のようなオープンエアの廊下が作られてあり、

はしごや階段が不規則に取り付けられてある。

森のように木の多い庭も池のほとりに、台湾式のオレンジ色の瓦のついた東屋が建っている、


「で…その伊家のいーさんは里帰りするのに、なぜこんな物騒な物が要る?」


屋敷付近の建物の隙間で、直政は俺を脂肪だらけのだらしない身体で隠しながら言った。

このまま押し倒されたいが堪えた。


「どこの戦国武将だよ…あ、いーさんは俺のいた世界で武将になったんだったな。

『新井直政』、見たかったなあ…格好よかったんだろうなあ」

「確かに戦国と大差ない、直政の武家は武力を持つ政治家だが、

極道や黒社会は武力をもつ商人、少し違うがやってる事は同じ」

「ふうん? 俺でも黒社会の一員になれるかなあ」


俺は直政の肉に埋もれながら、彼の無い腰を抱きしめた。


「井伊直政、お前はデブだ。でもお前ならやれる、俺が黒社会の重鎮にしてやる。

だがまず俺らがここを愛の巣にするためには、どうしても殺さねばならぬ人がいる」

「…標的は誰だ?」


直政の目つきが変わった。

あの抗争で見た目と同じ、魚のような冷たく鋭い目だった。

きっとあの世界での井伊直政はこんな顔をしていたのだろう。

俺は直政の戦国を思った。

「コールド・フィッシュ」、外人らは直政をそう例えるだろうか。

俺も帽子をかぶり直し表情を消して、冷たい魚になった。


「伊尚子…台湾名は伊微安、英語名はビビアン。俺の実の母だ。

おっさんである俺の母だからもうばばあだ」

「了解」

「母がいる限り俺たち夫婦に、俺の心に安寧はない。殺す。

全ては心のために…火狐の名にかけて」

「…了解」


伊家の子である俺は、セキュリティの抜け穴も非常用の出入り口も当然知っている。

屋敷の裏手から敷地内に侵入し、非常口を通って屋敷内に忍ぶ。

そして薄暗い玄関のホールに、身長ほどもある花瓶の花を愛でる母を見つけた。

ガラのように痩せている、麻薬か。


「ただいま母上」


俺が前に出た。

母との再会に何も感慨はない、ただただ冷たい感情が流れるだけだ。


「直政…!」


母は振り向き、満面の笑みを浮かべて俺に近づいた。

そこを隠れていた直政が飛び出し、匕首で背中を刺した。


「直政推参…悪いが義母上、俺も直政だ」

「なっ…!」


俺は拳銃の安全装置を外し、柱にもたれて座り込む母を踏んで突きつけた。


「何しに帰って来たか? それはあんたを殺して忘れるためだ…!」


俺は母を撃った。

弾が切れるまで、何度も。

撃ち終えると直政が彼女の髪を掴んで、首を切り取る。

腕をもぐ、脚を落とす。

俺はリロードし、胴体だけになった彼女の死体になお撃ち込む。

出来上がった傷口から手を突っ込み、僅かな黄色い脂肪を、肉を裂いて臓物を引きずり出す。

胸部に心臓を探して、血管を引きちぎりながら強引に取り出した。

その心臓を玄関の大理石の冷たい床に転がして、足で踏みつけた。

心臓は中に残った血をまき散らしながら、潰れて踏みにじられ、

そしてただの肉片になった。


「やるねいーさん…いきなり母親殺しか、戦国の武将にもなかなかいないぞ」

「そうだろうな…ここは台湾、黒社会のど真ん中だ。

直政の戦国とはまた違う残忍さがある。そして俺は吉富直政、その黒社会の子」


俺は赤い手で拳銃を黒いスーツの中に戻した。

裏地の朱が一瞬覗いた。


「台湾黒社会へようこそ、井伊万千代直政」


俺は振り返り、直政を歓迎した。

直政は目を見張り、そして笑った。


「台湾黒社会か…ここが俺といーさんの『プロミスト・ランド』ってやつになるのだな。

うん、素敵だ…! いーさんとなら俺はやれる」


俺も直政とならやれる、直政とじゃないとやれない。

少しだけ女の部分を見せて、俺は直政の頬肉に埋もれた唇からキスを奪った。

恋する乙女子のように可愛く、可愛くな。

そして俺は目を細め、笑顔になった。


「あ…」

「始めようか直政、『プロミスト・ランド』だ」


俺は直政のぶよぶよした背中を押して、屋敷の奥へと歩き出した。

次にやる事なんて決まっている。

母の死体を透明に消しながら、歌って笑って交わろうぜ。

直政がだらしない贅肉を揺らしながら、小走りになって股擦れを起こしつつ追いかけて来る。

脂肪と一緒に春物の薄いコートの裏地の赤が揺れる。

井伊直政は肥満した赤い熱帯魚だな、デブ最高。

今どきっとしたろ、顔まで赤い。

そんな直政はくすりと笑って言った。


「…ねえ、いーさん今、笑った?」







「自分武将化計画」 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ