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第69話 ファイアウォール

第69話 ファイアウォール


「新井直政…! まさか、あの死の綴りを作った…」

「俺ひとりであの綴りを作った訳ではない、火狐と共にだ」

「くそ…何だその装備は、井伊の赤備えのつもりか」

「納戸で埃をかぶっていたこれが、単に丈夫だったから使っているだけだ」

「井伊直政の亡霊…その正体は貴様だったか、新井直政」


俺は敵の言いがかりにひとつひとつ、丁寧に受け答えした。

その間に、声の出演をした花が火狐のひとりと離れて行く。

俺はそれを確認し、始める事にした。


「おいおい、あんなデブと一緒にしてくれるな…どう見ても俺の方が美しい。

貴様らが美女と見まがうほどにな…!」


俺は被いた衣の中に自分と一緒に隠してあった、組み立て式の大槍で敵を撫でた。

敵がいっそう俺に近づき、より固く集まって来る。


「俺は新井直政…俺は女、貴様ら豊臣に殺された島津又七郎豊久の女!」


敵の固まり具合を見ながら、前後を見回す。

火が上がった、わずかに見える。

俺は挑発を繰り返し、囲まれながら炎の成長を待った。

炎は驚く早さで成長し、海を作り、光と陰を作り出した。


「火の壁…馬鹿か新井直政、自分も囲まれておるぞ」

「火の壁は英語で『ファイアウォール』と言う、『ファイアウォール』には『ポート』なる扉がある。

火の壁を通過するにはそのポートを解放するまでだ…」

「アホかいーさん! 敵と何しゃべってるのさ! 馬鹿じゃね、行くぞ!」


火狐の者の叫ぶ声がする。

敵兵たちはそれにどっと笑った。


「部下に罵られるようじゃ大した事はないな」

「情けない主君だな、新井直政」


俺は敵中から罵倒する火狐の者に怒鳴り返した。


「俺ごとどかん! ポート番号117003解放!」


炎の向こうから砲弾が飛来し、俺の足元で炸裂する。

敵は手足をもがれてばらばらになって飛び散り、俺の身体も持ち上げられた。

だがそこはあって良かった井伊直政デブ装備、実に頑丈だ。

俺は火の壁を通過し、外の地面に落ちて転がった。

多少の傷はまあ仕方がない、そこはどうでもいい事だ。


「火狐より前の戦での事を聞いていましたが…まあ、なんと恐ろしい戦い方だこと。

井伊の赤備えがこんな事に使われているなんて、直政も泣きますよ」


皆と合流すると、花は笑っていた。

直勝も苦笑していた。


「ああもう、草葉の陰で井伊直政大泣きですよ」


火は川を挟んで前後にあり、その二つの火はお互いどんどんと近づいて行った。

火の壁の内部には爆発から生き残った者がまだおり、行き場を失った。

彼らには川しかない、次々と川に入って行き次々と溺れていく。

左右から回り込んだ敵が近づいて来る。

そこからは白兵戦だった。


「花、下がれ!」


俺は花に後退を命じた。

ところが花は兜の取れた敵の髪を掴んだまま、離しはしなかった。


「退きませぬ! 誰が退きますか!」


花はそのまま生きた敵の身体から首を引きちぎった。

…すごい力だ、嘘だろ。

そして刀を手に敵中へ飛び込んで行った。


「女だ! でもえらいばばあだな! 抱く気も起こらねえぞ!」

「ばばあはすっこんでろ!」

「ばばあどころか女に非ず! 私はお熱さん三号新井花、新井の皆が次の当主に選んだ男!

そしてお熱さん一号、女人新井直政の男…!」


返り血を浴びながらも修羅の顔をしてなお突き進む、花はあまりにも恐ろし過ぎる。

井伊直政の気持ちが手に取るようにわかる。

武家の娘としてたしなみぐらいはあっただろう、でもなぜこんなに強い。

男たちの集団相手に力負けしない上、動きも速い。

おばさんだからだろうか。


「花様すげえ! さすが火狐の一員す!」

「そなたらのおかげだ…そなたらが私を鬼にした」


花は刀を両手で衣を被づくように掲げ、敵中を素早く動いた。

刃に敵の喉が斬れて血を噴き出す。


「『橘姫』…! お前ら全員殺す!」


だが後ろががら空きだ。

俺は飛び出した、同時に直勝も飛び出す。

俺と直勝は花の後ろについて、大槍と刀を交差させた。


「『妹背山』…俺たちが求女、敵はお三輪だ」

「何ですかそれ」


花の「橘姫」にかけて言ったが、この世界にはまだ「妹背山婦女庭訓」の歌舞伎はない。

登場するのはずっとずっと後の事だ。


「まあ要は男ひとりをめぐる女の争いだ」

「私も女人にございますか、父上…あれ、火狐の皆は?」


火狐の姿が消えている。

すると川の中から彼らの声が聞こえた。


「行くぞお前ら! 新井の心にかけて! …『ジハード』!」

「『ジハード』!」


火狐の者たちは太い管のような物を何人かで掲げており、

その足元には車の付いた金属製の機械のような箱状の物が置かれてあった。

そして残りの者たちで、その機械に付いた車を回し始めた。

少し回すと管が膨らみ、管の先端に取り付けられた金属の口から水が出始めた。

水は勢いを増し、圧をもって敵に襲いかかった。


「ポンプ…! お前らどうやって?」


俺と花、直勝は急いで火狐の許にかけ寄った。


「製氷機の応用です、あの製氷機にも小さいですが押し出し装置が付いています」

「修理の際に分解して、仕組みは理解しました。吸い込みは弁を使えば簡単です。

車は重ねれば大きな動力になりまする」

「金属部品の製作は按針殿にお願いし、組み立ては俺たちで」

「いつ持って来たのだ」

「いーさんたちの後ろでこっそり…本来は消火と飲料水の確保のためですが」


驚いた、火狐にこんな技術力があるとは…しかも俺にまで隠して。

前の戦の後、伏見に彼らを残した時に何か作り物をしていたな…。

あれはこのポンプの事だったのか。


素晴らしい部下に最高の女、可愛い息子、良い上司…。

俺はこの世界でなんと人に恵まれた事だろう。

嘘のようだ。

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