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第58話 新井家次期当主選出選挙

第58話 新井家次期当主選出選挙


「これて…立候補して選ばれれば、誰でもなれるという事か?」

「もちろん」

「いーさん、俺は花様を候補者に推薦したいんだけど…さすがに女はだめすか?」

「構わぬ、皆が選ぶ当主だ。そこに性別や出自は一切関係ない」

「いーさんは誰を推薦しますか?」


騒ぎの中、家中のひとりが俺に聞いて来た。

俺は首を横に振った。


「選出の公平性を保つため、俺は参加しない。

現当主が参加すると、必ずその者の意見が反映されてしまうから」

「ふうん、本当に俺たちだけで選ぶんですね…これは責任が重いですね」

「新しい当主を選ぶという事は、この家の未来を自分たちで決めるという事だ。

皆でよく考えた上で選んで欲しい」


新井家の次期当主選出の事は、徳川家中でも噂となり秀忠様の耳にも入った。


「皆で選ぶ新当主か…面白いね、いーさん。

徳川もそう出来たらいいけど、年寄りらが伝統とか何やらうるさいしな…。

で、どうやってその仕組みを思いついたのだ?  な、教えておくれ、興味深いのだ」


学問を好む秀忠様の事なので、当然この仕組みについても知りたがり、

「な、な」と繰り返し、俺に催促した。


「この仕組みは私が前にいた世界において、要職を選ぶ方法の主流でした。

それは『選挙』という名で、特に政治の世界で採用されておりました」

「政治の世界で?」

「はい、私のいた世界の政治主権は民にありまして、

民たちが選んだ代表者たちで政治が行われておりました。

それを『民主主義』と申し、政治だけでなく、経済も、何もかも、

全て民が、民の手によって、民のために行うものにございました」


秀忠様はちょっと待ってと言って、硯箱と帳面を持って来させ、

それに俺の話した内容を書き留めた。


「『民主主義』…何と素晴らしい仕組みなのだろう」

「私も『民主主義』が最高のあり方だと思いますが、

『民主主義』は社会に相当の発展がなければ、導入も維持も出来ませぬ。

この徳川の世…私のいた世界で『君主制』と言うのですが、

徳川の世がその礎として、とても大事になるのです」


この乱世が終わったばかりの世界に民主主義は早過ぎる。

徳川のような強い家が引っ張らねば、その先の発展はない。

いつか国が民主主義を導入する時、手がかりに新井の家を思い出してもらえればと思う。


「面白いね…新井の新当主選出はその実験のようなものか。

で、『民主主義』の他に別の主義などあるの? ああ、もっともっと知りたい…!」

「はい、『民主主義』の反対に『社会主義』がございます…」


俺は秀忠様の興味のまま、社会主義について応えた。

その平等性は、日本人の性格に合っているという長所もあるが、

権力が中央に集中しやすい事、平等性ゆえに国が発展しづらい短所など。

秀忠様の興味は尽きる事なく、話は長引きに長引いて、

俺は結局夜通しで、秀忠様と話し込んでしまった。


新井の家ではまず、候補者が家中の者らの話し合いによって選ばれた。

一人目は花で、彼女の優秀さからして当然の事だった。

二人目は直勝で、まだ若いが将来性を買われての事だった。

三人目は火狐の頭で、実戦経験の豊富さから候補者に選ばれた。

今も又七郎が生きていれば、彼も候補者の中にいただろうか…。


候補者たちは皆の前で演説を行い、選出の後の事や公約などについて話した。

花は次世代の育成と、飢饉に備えて麺料理の普及を。

直勝は領民の産業に製麺と、新井家の一層の発展を。

火狐の頭は病人のために製氷の発展と、医療の発展を。


「俺は火狐の頭に投票するね、医療の発展は大事だよ」

「私は花様だな、いつ代替わりしてもすぐに働けそうだから」

「直勝様だよ、絶対。直勝様なら若いし、長く働けるよ」


新井の家中ではこうした議論が頻繁に交わされた。

こうした考える時間を少し置いてから、投票は江戸と京で行われた。

家中の者には一票ずつ与えられ、それぞれが候補者の中から一人の名を書き、

俺の他に外部から立会人を頼んで、無記名での投票とした。

立会人は秀忠様と江戸城からの者を始め、大御所様、京にいる徳川の者数名にお願いした。


「いーさんや、これが『選挙』という物なのだね…確かにこれなら公正。

無記名投票に立会人の存在、不正は出来ませぬな」

「はい…さらに選挙全体の監視者を置けば、談合や賄は行えなくなりまする。

もし当選後に不正が発覚しても、皆の意思で罷免する事が出来ます」

「地位にあぐらもかけぬとは恐ろしいね、でもこれが国の生きる道なのだな…」


秀忠様は投票の様子を眺めて、つぶやいた。

きっと遠い遠い未来、民主主義が導入された日本を想像しているのだろう。


投票が終わると、立会人によってすぐに開票され、

結果は江戸と京の中間にいる大御所様に通知された。

この選出はきっと、大御所様が一番に見たかったであろう。

大御所様を外す訳にはいかぬと、文で大御所様に集計をお願いしたのだ。

江戸と京から受け取った結果を、立会人のもとで大御所様が集計して結果を出す。

そして使者たちはその結果を、江戸に京にと持ち帰った。


「駿府よりお文が届きました、結果発表です!」


家中の者が結大御所様からの文を手に、廊下を駆けた。


「決まったか」


俺は皆を座敷に集め、受け取った大御所様からの文を開いた。


「新井家次期当主選出の結果を発表する。

投票総数は四十五で当選は花、獲得票数は二十三票。

次点は直勝、獲得票数は十四票。火狐の頭、獲得票数は八票」


俺の読み上げを聞いて、家中の者たちの間に歓声がわき起こった。


「花様だ! 新井家次期当主は花様だ!」

「おめでとうございまする、圧勝ですね!」

「さすが母上、私などとても太刀打ち出来ませぬ」

「私にございますか…私ごときが世継ぎで良いのですか」


花は目を白黒させ、きょろきょろと家中の者を見回した。

俺はそんな花に声をかけた。


「外にはあれこれうるさく言う者もいるとは思うが、これが家中の者らの意思だ。

女人である事は少しも悪い事ではない、そなたの優秀さを見せつけて差し上げよ」

「はい…着任の暁には、新井の代表として力を尽くしまする」

「おめでとう、花…そなたならきっと良い当主になるだろう」


選出には参加しなかったが、俺も花と思っていた。

しかし、花が選出された事は諸大名の間に議論を呼んだ。


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