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第47話 外患誘致

第47話 外患誘致


「花、並びにナイフ様、そなたらを手討ちと致す」


新井家の当主である俺は、花とナイフ様に手討ちを命じた。

翌日花とナイフ様による、新井の家の変わった手討ちの披露が行われた。

その光景を見て、淀様は言った。


「新井殿、なぜ徳川殿までご参加なのですか?」

「ナイフ様は新井の家を作った方にして、達人にございますれば。

この度は無理を言ってお願い致しました」

「あの女人は? 新井のお家は正妻を置かぬと聞いておるが…」


淀様は近づいて、俺の耳元に囁いた。

美しい人ではあるが、淀様はどうも苦手だ。


「花と申しまして、ナイフ様のご養女にございまする。

元は井伊直政の正室だった女なのですが、縁あって井伊の旧家臣団と共に引き取りました。

正妻でこそございませぬが、花は公が認める事実上の正妻にございます」

「正妻でないのなら良いではありませぬか、いかがです今宵」


俺はすっと立ち上がって淀様から逃げた。


「…確かに花は正妻ではございませぬし、政略の縁組みと思われても仕方ありませぬ。

でも縁組みは私と花で愛し合って決めた事にございます故」

「お逃げになりますか、憎らしい方…でも逃がしませぬ事よ?」


さすが淀様、そんなごときでは退かぬか。

俺は製氷機の車を回す井伊の旧家臣と交代した。


「私と代わろう」

「新井殿、その機械は何にございますか?」


豊臣の家臣が製氷機について聞いた。

珍しいのも当然だろう、徳川の外の者はまだ見た事がないはずだから。

氷は先に何度か作ってあり、おがくずを詰めた容器に入れて外側を分厚い布でくるんだ、

簡易の氷室に保管されてある。

そして今作っている分も大分固まって来ている。

俺は豊臣の家臣を手招きし、蓋についたびいどろの小窓を覗かせた。


「氷…!」

「氷を作る機械、製氷機にございまする」

「なんと、氷を作る事が出来るのか!」

「徳川の技術にございます、徳川には西洋船の造船技師の三浦按針殿を始めとした、

最新鋭の技術者が大勢おりますので」


豊臣の家臣らはざわめいた。


「それはつまり…」

「そうです」


俺は懐からピストルを抜き、庭の木を狙って連続で撃った。


「徳川の技術は造船や製氷だけでなく、軍事的にも最新鋭にございますれば」


豊臣の家臣らは俺が撃った庭木を観察していた。


「驚いた…まったく同じところに着弾しておる」

「これが徳川の技術か…!」

「片手で持てる銃、しかも続けざまに発射出来るとは…」

「徳川の者は出自もさまざま、よってこのような新しい技術も入って来るのです」


俺は淀様に目をやった。

淀様は額に汗を浮かべて、目を見開いていた。


「見事…惚れ申したぞ、新井殿」

「さあ、何の事やら…」

「新井殿、良ければ豊臣に来て見ぬか? 豊臣はそなたに豊臣の姓を用意しよう」

「要らぬ、私は徳川の者だ。豊臣など敵の苗字など要らぬ。

花を娶って井伊の旧家臣団を引き取っても、私は苗字を『井伊』とは改めなかった。

俺は新井紅千代いーさん直政、徳川家家臣…それ以外の何者でもあらぬ!」


豊臣などとんでもない、そんな家に入ってしまったら俺も終わりだ。

淀様に骨の髄までしゃぶられて、抜け殻だ。

秀頼様の面倒を見るための機械にされてしまう。


「貴様、淀様に向かって無礼な!」


豊臣の家臣らが俺を取り囲んだ。


「いいのか?  俺はここであんたらに殺されても何ら構わんが、

徳川の技術の粋が黙ってなどいない、西洋の軍艦が大坂を攻めてもいいのか?

新型の鉄砲を持った鉄砲隊が豊臣を攻めてもいいのか?

それとも俺がナイフ様をたぶらかして国を大きく開かせ、外患を誘致してもいいのか?」


鎖国はまだ先の事だが、この時代も朱印船の許可制でそんなに国は開かれていない。

そんな時代に外患誘致などすれば、豊臣どころか徳川にも朝廷にも大変な事になる。

こんな弱国などあっという間にどこか強国の支配下だ。


「いーさんは異国の言葉にもよく通じておる、外患誘致も難しくはない」


麺を茹でるナイフ様が助け舟を出してくれた。


「徳川殿、そのような事をすれば豊臣も朝廷もただでは済まさぬ」

「そうだろうね、いーさんどうする?」

「俺は構いませんよ、雪の朝に桜田門外で死ぬだけですから」


俺は耳をほじりながら言った。

勝手に開国した罪をなすりつけられた奴の末路ぐらい、俺でも知っている。


「まあ、大人しくしてろという事だ…ナイフ様、花、そろそろいいですか?」


俺は庭に設置されたかまどの前に立つ、ナイフ様と花に声をかけた。


「もうすぐ出来上がるよ」

「さて皆様、もうすぐ出来上がりまする。この度はお招きいただき誠にありがとうございました、

私ども新井家一同による『新井の手討ち』をお目にかけとうございまする」


又七郎と井伊の旧家臣代表が、侍女たちと一緒に膳や椀の用意をする。

俺は出来上がった氷と用意しておいた氷を出し、おがくずを取って桶にあけた。

ナイフ様がゆであがった麺を水で洗って、それを桶の氷水で冷やす。

花は給仕の侍女たちと一緒に、つゆと具を盛る。


「今日は少し暑うございます故、冷やしと致しました。

具は赤色の野菜と赤魚の天ぷら、梅しそでさっぱりと、でも薬味と卵で健康にも配慮して…。

名付けて『赤色☆部下のささいな落ち度も手討ちうどん』と申しまする」


俺たちは花とナイフ様を加えてうどんを食べ始めた。


「麺もつゆもしっかりと冷えておる、これは旨い」

「たまごで梅の酸味もまろやかだな」

「これが『新井の手討ち』か、こんな手討ちなら喜んで受けたいね」


新井家のうどんの評判は上々だった。

淀様も秀頼様の面倒を見ながらうどんを食べている。

その淀様は言った。


「新井殿、徳川殿、このうどんが『手討ち』という事は、他にも手討ちになる者があるはず。

もっと他にたくさん種類があるのでは?」


俺とナイフ様は顔を見合わせ、ナイフ様が片目をぱちとつぶってにやりと笑った。

かかったな、豊臣。


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