第18話 探索者
第18話 探索者
又七郎をさらった連中の素性はすぐに想像がついた。
十中八九島津の者だ。
島津は又七郎を取り返したがっていた。
とりあえず又七郎に生命の危険がない事は安心した。
俺は一度宿へ引き返して、装備を整えて馬を借りた。
この旅は戦う事も念頭に入れてあった。
今回、新しい武器を持参しており、それも使ってみる事にした。
組み立て式の大槍だ、柄はそれほど長くはない。
神話のグングニルほどではないが、柄の尻に鎖と分銅が付いており、
投擲して自分の許へ引き戻す事も可能だ。
俺は馬にまたがって、来た道を疾走した。
黒の柔らかい甲冑から、時折裏地の朱が覗く。
俺は前を向いた。
もう前しか見えなかった。
単騎で敵の居城へ攻め込む、勝機はないかも知れない。
それでも俺は行かねば、又七郎というたったひとりの家臣のために。
島津…許せぬ。
馬を走らせていると、人の気配を感じた。
俺は立ちどころに左右を馬に乗った軍団に挟まれてしまった。
軍団は俺の乗る馬に並走した。
「いーさん、単騎駆けは危のうございます!」
「…お前ら!」
見ると、俺の横を走るのは火狐の者たちだった。
やけに大勢なようだが、どうしたのだろう。
「ここ薩摩だぞ、それに火狐はこんな大勢では…」
「次の船で参り、ずっと見ておりました…それと火狐は井伊家家臣らを加えました」
「井伊家!」
さすが井伊の魔窟、ストーカーも集団でばっちり派遣って訳か。
「我ら井伊家家臣団、今こそ殿を倒してくださった恩義に報いる時!」
「…井伊のお前ら、勝手にこんなとこ来てもいいのか? ばれたら手討ちだぞ」
「手討ち? ナイフ様のお許しはいただいております」
井伊の家臣らはにっと笑った。
ナイフ様まで抱き込むとは、さすが井伊のストーカー集団は訳が違うな。
「…これより島津の城に殴り込む、目的は島津又七郎こと島津豊久の奪還。
兵力は城の者のみ、だが伏兵があるやも知れん。
囮を使った誘導作戦に注意しろ、島津のお家芸だ」
井伊のストーカー集団と結束するのは気が進まない。
だが事が事だ、手段を選んでいる場合ではない。
「我ら徳川家側用人御庭番衆『火狐』、平穏を侵して夜を駆けよ。
隠すこと闇の如し、染むること愛の如し、化かすこと狐の如し、燃ゆること恋の如し。
敵の居城を我ら火狐の色に染め上げよ、赤く赤く…!」
俺たちは島津の城の近くで馬を降り、そのまま押し入った。
問答無用、男女不問、目についた者から殺していった。
島津の側でも俺たちの襲撃は予想済みらしく、伏兵を用意してあった。
残念、それも予想済みだ。
井伊のストーカーらはともかく、火狐のやつらは普通の武士ではない。
毒を使った攻撃もあり、汚い戦い方をする。
まず武器に毒が塗ってある、そして毒の粉末を敵に投げつける。
そして全員がピストルのような短銃を持っている。
「ピストル…!」
「いーさんがお持ちだった武器を、徳川で真似させていただきました」
俺が元いた世界より持ち込んだピストルは、徳川によって研究されたのか。
ピストルの導入は非常に効果的で、種子島と違いすぐに次弾が発射できる。
さらに弾に毒を塗ればなおいい。
火狐の一人が俺にピストルと弾をよこしてくれた。
俺の使っていたものだ。
「うおお、いーさん短銃上手いな!」
「すげえ、敵がばたばたと倒れていくぞ!」
「…そりゃ本職だから」
俺は撃ち尽くしてリロードしながら言った。
自衛隊や警察は戦争に参戦することはない、銃撃戦はやくざが国内一番の本職といえよう。
とりあえず近場の敵を倒すと、俺は組み立て式の大槍を手に前進した。
刀身が脇差しほどあり、幅も広く、柄も通常の槍より短いので使いやすい。
ちょっと柄の長い日本刀みたいなものだ。
そして柄の尻についた鎖と分銅は巻き付けて良し、打ち付けて良しだ。
これなら俺はどこまででも前に行ける。
「ちょっ…いーさん、死ぬ気か!」
「馬鹿かいーさん! 怪我するぞ!」
火狐のやつらが後ろで俺を呼び止める。
俺は吠えた。
「細けえ傷なぞ気にすんな…俺は今しかねえんだよ、今前に出ないでいつ出る!
又七郎は俺のためにいろんなものを捨てた、その重さに俺は仁義をもって応える。
俺は火狐、闇に生きる男…俺は吉富紅千代いーさん直政、島津又七郎が主君!」
火狐のやつらは一瞬びしと固まった。
ドン引きされてしまったか。
しかし次には雄叫びをあげて俺の後に続いた。
「嘘だろいーさん、冷たい魚ではなかったのか」
「冷たい魚は戦になると燃える魚になるんだ!」
「アホかいーさん! そんなんじゃ破傷風で死ぬぞ!」
「破傷風? 上等だ!」
俺たちはぎゃあぎゃあと見苦しい固まりとなって前進した。
前進し、倒した敵の返り血でいよいよ赤く染まりながら、島津の城を侵した。
見苦しい固まりには井伊も徳川もなく、ただ見苦しい固まりでしかなかった。
「こちらです!」
火狐のひとりが行き先を指示してくれた。
城の内部は調査済みか。
俺たちは庭伝いに島津の殿様の部屋を目指した。
「又七郎! どこにいる又七郎!」
「又七郎殿!」
するとひとつの障子がすうと開いた。
「又七郎はここじゃっど」
そう言って現われた又七郎は、立派な着物に着替えて髪も結い直してあり、
改めてその身分の重さを思い知らされた。
ここにいる男は吉富家家臣の又七郎ではなく、島津豊久なる島津の分家の大名だった。
「迎えに来た」
「いーさん…火狐んみんな、そいから井伊ん家臣らまで。
いーさんは井伊んもんになっとか、いーさんも『直政』じゃから井伊直政ん再誕じゃっどね…」
「馬鹿か又七郎、くだらない冗談を言ってる場合か。俺らはお前を迎えに来た。
…お前が捨てたものの重さに応えるために、それが仁義!」
又七郎は少し上を向いて、そして目を閉じた。
「じゃどん…いーさん、おいは帰れん」
■「探索者」…エクスプローラ。かつてユーザシェア圧倒的1位だったが、
現在は「火狐」や「狩猟旅行」などに押されつつある。
■「グングニル」…与ダメージ15万のレーザー狙撃銃、円盤一撃。
使用時は距離を置かないと即死する。生存にはAP30万以上は欲しい。




