ロッカールーム
もう何点入れられたかわかんなかった。
それだけ相手に打たれまくったからだ…
少なくとも、10点以上はとられていたと思う…
なんせ、その試合は五回コールドが成立したからだ。
「雨宮…」
試合の後、キャッチャーの石井が僕に声をかける。
試合で負けた僕を気を使っているのか? いつものようなラフな話し方とは違い、丁寧だった。
しかし、僕は石井にろくに返事をせず、スパイクが入った袋とクラブを乱暴にエナメルバックに入れた。
「大丈夫か?」
それでも、石井は続けた…
けど、僕はこれも返事をせずに、ロッカールームを後にした。
もし石井の問いかけに答えるとしたら、多分、大丈夫じゃないだろう。 三年間一緒にバッテリーとして頑張ってきた石井の問いかけに返事もせず、一人で苛立っていたからだ。
なんせ、今日の試合は、自分が経験した敗戦の中で、一番強烈だった。
相手が、なんせ春の甲子園出場校だ。 勿論今大会、第一シードだ。
勿論、自分たちがどんなに頑張っても、勝てなさそうな相手だ。
しかし、勝てないと信じ込むのは良くない…僕たちだって、ここまで二試合勝って来たんだ。なにかあるさ…
そう信じて、試合に臨んだ。
自分自身にそう言い聞かせて、マウンドに上がった。
けど、奇跡も何もなかった。
ストライクゾーンの何処に投げても、バッターは悠々とバットを振ってヒットにする。
打たれたボールは内野を抜けたり、外野に転がったり…バックスクリーンに消えたり…
味方打線のバットは空を切るばっかり…
そして、五回表ツーアウト 僕のバットが空を切って、試合は終わった。
17-0 五回コールドだった。 順当どおりの試合だった…
皆が着替え終わると、石井はロッカールームの前の廊下に、僕たちを並ばせた。
そして、監督が来た。
「よろしくお願いします」
石井は大声で言った。 キャプテンの仕事だ。
僕たちも続く…
お決まりの挨拶だ。
「石井…キャプテンご苦労様、今までずっとひっぱてきた。 その責務をよく果たした。」
石井は涙ながら「ありがとうございます」と大声で返事した。
それから、そんなことをナイン全員に言った。 そして…
「雨宮」監督は最後に僕を呼んだ。
「はい」いままでずっと言うのを避けていたのか?と思いながら応えた。
「我がチームのエースとしてよく頑張った…」
「はい」
「結果はどうであれ、皆ベストを尽くしたはずだ。 今日は家に帰って、心身共にゆっくり休め。 以上解散だ。」
結果はどうであれか… 敗戦投手の僕に対することなのかな〜 そんなことを思った。