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1-6

 そのころ、デノビア軍将レオは、応接室に向かっていた。

 一人でやってきたという客人は、国王軍兵長のマーティンという男だった。

 クイやネリーからの情報を整理すれば、マーティンという男は、金髪碧眼、「超絶イケメン」で、カーラを誘拐した犯人らしい。

(まさか、誘拐犯が、向こうからノコノコとやってくるとはな……。)

 ただ、これだけの嫌疑があるのに、捕縛して尋問することはできなかった。

 なぜなら、マーティンは中央の人間だ。デノビア領で裁く権限がない上に、中央の意思で動いている可能性がある。執政官がこちら側につくのであればいいが、そうでない今は、下手に敵には回したくない。

 レオは、そういった諸々の事情を腹に押し込んで、応接室をノックした。

「お待たせいたしました。」

 入ってすぐ、レオは、その第一印象にイラっとした。

 クイらの言うとおり、マーティンは、金髪碧眼、目鼻立ちの整った若い男だった。だが、ソファの上座に勝手に座っていて、レオを一瞥しただけで返事もしない。

(……なんだ、この態度は。)

 初対面だが、限界を振り切るレベルの、腹立たしさ。

 それに、ネリーが騒ぐほどの男とも思えない。

(……これの、どこが「超絶イケメン」なんだ?)

 それどころか、レオの目には、軽薄そうな男に見えている。

(なんで、ネリーは、こんなヤツの言う事を聞いたんだ?)

 女にしか受信できない電波でも発しているのか、レオには、ネリーの行動の意味が全く理解できなかった。

 だいたい、こんな男が、名誉ある役職に就いていることも間違っていた。誰がこの男を国王軍兵長に推したのかは知らないが、今のこの姿を見れば、きっと自分のあやまりを悟ったに違いない。

 それに、こんな男が、クイのそばをちょろちょろするのもわずらわしかった。クイは大切な客人だ。隙あらば、口説こうとしているというのに、こんな女ウケする顔が近くにいたら、クイが目移りしてしまうではないか。


 だが、レオは、そういった、てんこ盛りの苛立ちを建前たてまえの後ろに隠し、正真正銘の作り笑いを浮かべて、両手を広げた。

「ようこそ、デノビア領へ。私はデノビア軍将レオと申します。国王軍の方がいらっしゃると分かっていれば、出迎えに参りましたのに。」

 しかし、くつろぎモードのマーティンは、ソファにふんぞり返っている。

「そういう挨拶はいい。」

「……そうですか。」

 予想以上のふてぶてしさ。

 まさか、衝動的に殴らせようという魂胆か。

 レオは、内にある怒りをぐっとこらえて、ソファに座った。

 非があるのは国王軍だが、ここで挑発に乗ってはならない。

 すると、マーティンの側から、

「単刀直入に言おう。こちらには、カーラ姫をすぐにでも返す用意がある。」

と、切り出してきた。

「そうでしょうね。」

 もともと、国王軍には、領政に介入する権限はない。ただ、カーラ姫の依頼があれば、中立的な立場で、話し合いの場を作る事は許されている。たぶん、カーラの要求はギオルとの面会だ。

「カーラ姫は何かおっしゃっていましたか?」

 素知らぬ顔で問いかけると、マーティンは、なぜか片手を振った。

「そんなことは、どうでもいい。」

「?」

「条件は一つだ。」

「条件?」

「ああ、貴公の父、モラード卿の宝を俺たちに見せてくれ。そうすれば、すぐにカーラ姫を返してやる。」

 いきなり父の名が飛び出て、全身の血が騒ぎだした。

「? 宝と言うのは?」

「貴公の父が、蔵に隠しているやつだ。」

「蔵?」

 父が所有する蔵は、デノビア領内だけでも、かなりの数が存在する。

 しかも、そこに隠している宝とは?

 レオには、心当たりがない。

「宝ですか……?」

「とぼけるな! 貴様の父が、あちこちから、かき集めたことは分かっているんだ!」

 決めつけられて、レオは息をのんだ。

(かき集めた?)

 それこそ、「お金」しか連想できない。

「別に、俺は、貴様の父の犯罪行為を、今さら追及するつもりはない。」

「犯罪行為?」

 その言葉に、心臓が波打つ。

「ああ、その辺は見逃してやる。だから、そのすべてをこの俺に見せろ。」

「……。」

 レオは、内心うろたえていた。

 もしかしたら、父は、自分に隠れて、裏金を作っていたのではないか。

 あるいは、蔵に隠している宝と言うのは、裏帳簿のことではないのか。

 そんな仮定に、腹がズシリと重くなる。

(早く父に知らさねば。)

 ここを間違えたら、父は失脚してしまう。

 レオは、焦りを隠して、

「すみませんが、私には、何のことだか分かりかねます。」

と微笑んだ。

「なんだと?! 俺は、ただ、見せてくれと言っているだけだ。持ち帰るつもりは一切ないんだぞ!」

「そう言われましても。」

 レオの変わらぬ態度に、マーティンは、わずかに譲歩をしてみせた。

「わかった、十分でいい。いや、一人五分でもいいんだ。」

 五分?

 レオは、うなった。

(たったそれだけで、帳簿を丸暗記できるのか?)

 ますます、国王軍の能力はあなどれない。

(とにかく、時間を稼がねば。)

 レオは、高速で今後の事を考えながら、外見上は変わらぬ笑顔を浮かべて言った。

「大変申し訳ありませんが、あいにく、父は今、領外に商談に行っておりまして、私だけでは判断しかねます。一度、他の者と精査したいと思いますので、今日のところは、お引き取りいただけませんか? 明日、改めてこちらから伺わせていただきます。それでよろしいですか?」

 その言葉に、マーティンは、青い目を見開いた。

「ほう、あくまでしらを切るつもりだな。」

 マーティンは、明らかにレオを睨みつけている。

「……いいだろう、ならば、こちらにも考えがある。」


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