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2-4

 ジルベニア領は小さな領地だが、国王直轄地との交通の便が良いのが強みだ。

 ウテリア領の北の森を迂回するため、森越えのルートより道がなだらかで、多くの物資の移動に向いている。かつては、ウテリア領産の小麦を取り扱っていたらしい。今は、開門が限られているデノビア領との交易に、欠かせない中継地になっている。


 夕方。

 マーティンは、ジルベニア領からデノビア領へ戻る街道にいた。

 その道沿いに、大きな荷物を背負った旅人が一人、休んでいる。

「あれ? マーティン卿?」

「ん?」

 声をかけられて、マーティンは、その旅人がネリーだと気がついた。

「……もしかして、ネリーか?」

「ええ。」

 帽子を脱ぐと、確かにネリーだ。

 こんなところで、何をしているのか。

 マーティンが尋ねようとすると、

「こんなところで何しているんです?」

と、先を越された。

「俺か? う~ん、実はな~、モラード卿に会おうと思って、ジルべニア領に行ってきたんだが、どうも、行き違いになってしまったらしくてな~。」

 ジルべニア領には、モラードの商談の拠点があり、最近よくそこに出かけているらしい。

「え? モラード卿ですか?」

 すると、ネリーは、マーティンの後ろを指さした。

「それなら、逆ですよ。」

「?」

「モラード卿は、ジルべニア領にいます。」

「?? いや、ジルべニア領には行ってきたんだ。そしたら、今朝デノビア領へ戻った、と。」

「ええ、チラっと見かけましたよ。それで、昼過ぎには、また、ジルべニア領へ行かれました。」

「え?!」

 ということは、二度も行き違ったのか。

 徒労感に見舞われて、マーティンが、ため息交じりに、ジルべニア領の街を振り返ると、ネリーが小さな声で、

「……クイ姫を捕まえてね。」

と付け加えた。

「?!」

 驚いてネリーを見ると、「しっ。」と人差し指を口元に当てている。

「あいつ、捕まったのか?」

「ええ、クイ姫は今、ジルべニア領にいます。」

「本当か?」

「ええ。」

「……何やっているんだ、あいつは。」

 あきれるマーティンに、ネリーも、同調してため息をついた。

「本当に、その通りです。」

 その声に、じわじわと怒りの色がにじんでくる。

「おかげで、私は解雇クビです。」

「?」

「私が、ここまで手を貸してあげたというのに。この三年間、私がデノビア領軍でどれだけ努力してきたか。その苦労と信頼を、たった二日でぶち壊して! ううう、なんで私が失業しないといけないんですか~?」

 涙ぐむネリー。

「これで、きっと執政官からの評価もガタ落ちです。王国屈指の豪商の捜査を任されたのに……。王都に戻っても、次の仕事があるかどうか……。これも、全部あなたのせいですからね!!」

「……ん?」

 いきなり複数形になった。

「……。」

 そういえば、己をかえりみて、マーティンは頭を掻いた。

 確かに、カーラを連れ出す際、ネリーに後始末を頼んだのは、無茶が過ぎたかもしれない。

「分かった分かった。お前のことは、俺からヨシュアに頼んでやるから。」

「ヨシュア? 誰ですか?」

「ヨシュアは、俺の優秀な副官で、国王軍の元兵長の息子だ。あいつに頼めば、大抵、何とかしてくれる。」

「本当ですか?」

「本当だとも。あいつは、こういう事にかけては天才だ。」

「おお!」

 これがマーティンの口癖だった。

 こうやって、日常的に、マーティンは、面倒事をヨシュアに丸投げしている。

「じゃあ、次の仕事を回してもらえるように、頼んでもらえませんか?」

「いいぞ。任せろ! ……それより。」

「それより?」

「クイはどこだ?」

「……。」

「クイがどこに捕まっているか、お前なら分かるだろう?」

 話がクイに戻ると、ネリーは、あからさまに迷惑そうな顔をした。

「ま~、場所ぐらいなら分かりますけど、でも私、もう建物内には入れませんよ。領軍をクビになりましたから。」

「そんなことは分かっている。クイは、俺が一人で助けに行く。お前は、その間、外で待機していてくれればいい。何かあったら、ヨシュアに連絡してくれ。」

「え? な、なんで私が?!」

 こういうところは、王国人だ。

 王国人は、任務外の命令を嫌う。

「何だ? 文句があるのか?!」

 マーティンが脅すと、ネリーは、

「いや、その。……ええっと~。」

と、自分の立場を考えて、

「……ヨシュア卿によろしくお伝えください。」

と答えた。

「うむ! よろしい!」

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