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傷だらけの白い体と、紅い唇にのせる悪戯

すみません、少々過激な(流血がらみで)表現が入ります。

そしてここからはミイラ男×小悪魔です。


(追記)申し訳ありません、多少誤った個所があったので訂正しました。


しばらく観光しようということになり、小悪魔であるデビィと屋敷でくつろいでいた。

彼女は収穫祭で得たものをまえに嬉々として、彼女好みの真っ赤なキャンディーを一つ口へ含んだ。どうやら素手でつまんだ時にべたついてしまったのだろう。指を舐めるたびにのぞく舌は紅く、まるで柘榴ザクロのようだ。その愛らしさは、神話に出てくるペルセポネにも匹敵するだろうが、ゼウスに騙され囚われた彼女と本質は逆をいくだろう。決してこの女性は、浅はかな男の欲望にのまれてくれるタイプではない。


「ふふっ、美味しい」


「沢山アルナ」


机へ広げられたキャンディーは、記憶にあるより多く思えた。

そんな疑問を抱えているのを、鋭く感じ取ったのだろう。彼女は笑いながら説明してくれる。


「フランケン君が魔女ちゃんのためにキャラメルアップルを買いたいっていうから、代わりに買ってきてあげて、キャンディーをお礼ってもらったの」


しばらくカラコロと口の中で味わっていたかと思うと、ある瞬間にガリガリと音を立てて噛み砕く。まるで骨を折っているかのような音に思え、内心苦笑する。邪気のない表情で残酷なことができてしまうのは、人間とは程遠い彼女だからできることだろうか?きっと、自身の敵に回ったものが目の前にいたら、彼女は迷うことなく苦しみを植え付けながら命を奪い去ってしまうことだろう。


嬉々としながら、真っ赤な血に染まる姿を容易に想像できてしまい、人のことを言えた義理かと首を振る。自分だって、王族のつまらぬ娯楽として買った奴隷に、殺し合いをさせたことがある。飢えた奴隷の中には、空腹と幻覚のはざまにとらわれ、相手に勝利したとたんその内臓を食っていたものすらいる。悪趣味で楽しみのない鬱屈した一族の者すら、その光景には耐えられず吐いたり逃げ出したりした。何百年とたった今ですら、己にはないはずの胃からこみあげるものを覚えて口元をおさえる。


彼女はそんなこちらの気持ちを知ることもなく、次の飴へ目をつけると口に含んで、粉々に噛み砕くのだ。小気味の良いその音が、嫌に耳に響いてくる。



この悪魔らしく気まぐれで飽きっぽい彼女が、自分を近くに置いてくれているなど奇跡のように思えてならない。


「暇だったから、しばらく貴方といてあげる」


なんて言って突然現れた彼女は、何時しか度々顔を見せるようになり、現在では時々出かけていく他はずっと近くにいてくれる。始めの頃こそ悪魔の気まぐれだろうと放っておいたのだが、次第に彼女の魅力に取りつかれ、目線や体が自然に彼女を求めるようになっていた。

臓腑をなくし、このような姿になっても過去の栄光に酔うなど、実に愚かしい話だ。だがそれと同時に、王族でなければこのような形で彼女に出逢うことすら叶わなかっただろう。長い時のなか愚かだったころを嘆いてばかりいたが、彼女と出逢って色々なものが変化してしまった。


「あーん、髪に飴が付いちゃった。こんなにぼさぼさの髪だと、女の子失格ね」


糖が黒髪に絡みつき、白い指先で無理にほどこうとするから尚のこと絡まったようだ。

もがけばもがくほど、蜘蛛の糸のように絡み付いている。


「貴女ハ、トテモ可愛ラシイ」


「あら、どうもありがとう」


少しちぐはぐになった返答にも軽く笑ってみせる彼女は、この時ばかりは余裕ある情婦というより清らかな少女のように見えた。何時ものように、人をおちょくるような態度で常に接してくれれば楽なものを。……時々こうやって、こちらを惑わすのだから堪らない。


まるで本当に、彼女が心を開いてくれているような錯覚にとらわれる。


「本心ダ」


「それなら、尚のこと嬉しいわ」


機嫌よさ気にゆらゆら動く尻尾をながめつつも、髪を梳いた。

こんな事をさせてくれるのも、自分が少しは彼女にとって価値がある存在だと認められているが故と自惚れたい。グラスに残った水をハンカチーフへ垂らし、優しく黒髪をほどいていく。肩にかかるほどの髪を梳いていると、自然と彼女に密着する形になる。こんな行為にすら内心胸の鼓動を速めていると知られたら、きっと彼女は笑うだろう。


相手は小悪魔。こちらに価値を見いだせなくなったら、いとも簡単に離れていくのだ。猫よりも気まぐれで、時間よりも無慈悲なその振る舞いが、小悪魔たる由縁だろう。



人間であった頃は、王座に一番近い存在として祀り上げられたことすらあるが、こんなにも残忍且つ残酷な存在を他には知らない。王権争いなど暗殺や毒殺など軽い方で、一番│しんをおく側近に裏切られることも珍しくはないと言うのに。


この世の醜くも汚らしい部分を見尽くしてきたと思っていたのに、これより恐ろしい存在は居るのだと彼女に出逢って考えを改めた。「解ケタゾ」と言ってその身を開放するが、反対にその顔は正面から瞳を覗き込んでくる。


「傷が疼くの?」


「イヤ……」


「そう、よかった」


己にもたれかけられ、先ほどよりも密着する形になる。落ち着かない気持ちをごまかすように肩へかかる髪を弄ぶこちらを、止めるでもなく彼女は微笑む。時々思い出したかのようにこの命を奪った胸の傷が疼くことがあるが、今はその時ではなかった。ただ、ぼぉっとしていることに不安を覚えて心配してくれたのだろう。その気遣いが本心であろうとなかろうと、自分にとっては掛け買いのない宝だ。

ここまで至近距離にいると言うのに、心ここに非ずといった様子を非難しないのは、こちらの考えなどお見通しだからか、はたまた興味などないからか。



ふわふわとした髪は気まぐれで、まさしく彼女を表していた。

気分のままに行動し、残酷なまでに魅力的だ。フランケンは魔女に入れ込んでいるからだとしても、どうして吸血鬼や狼男が彼女へ惹かれないのか理解できない。割ってはいられたい訳でもないのに、ただただ不思議でしょうがないのだ。






瞳を覗き込んで彼女へ囚われ、優しく触れられ陥落した。

死後数百年経とうと、こんな情けない有様なのだ。弟に暗殺されずとも、玉座を抱くのは難しかっただろう。いまだ心臓に残る傷跡は、こんな姿に成り果てようとも消えることはなかった。

包帯越しに浮かべた自嘲に気付かれたのか、瞳の奥をのぞきこまれため息をつく。


「また、生きていた時のことを考えていたの?」


「ハテ……?」


何のことだととぼけてみても、やはり彼女にはかなわない。

じっとりと恨みがましい目線のあとに「私、貴方のその顔……嫌いだわ」なんて呟かれ、そっぽを向かれてしまった。とがった尾もその機嫌を表しており、不機嫌そうに揺れている。


宮で飼っていた猫を思い出し、あれは幸せな終わりを迎えただろうかと意識を飛ばす。

だから、その後の彼女の反応は予想外のものだった。


「貴女ハ少シ、飼ッテイタ猫ニ似テイル……」


突然話の脈絡もないままつぶやいた言葉が、再び彼女の怒りを買うかと身構える。どうも、自分の思考にはまる癖が抜けきらず、人との会話に支障が出る。相手の出方を見るなど日常茶飯事だし、相手の本心をつかみきれず何も反応を返せないことも珍しくはない。これでも、何でも許されていた王族のころと違って、だいぶ他者を思いやるという感覚を学んできたのだ。はじめのころこそ仮初のものであったが、最近では相手を不快にさせないように思いやることを学んでいる最中だ。


……そして、その成果からいえば今のは褒められた発言ではなかっただろう。

まさか、意志ある女性を飼い猫と同等に扱っているような発言は、控えるべきものだった。そうこちらは反省していたというのに、どうしてか小悪魔である彼女は嬉しそうに笑って見せ、こちらにとある提案をしてきた。


「包帯を取り換えるのを、手伝ってあげましょうか?」


「イヤ…、結構ダ」


正直なところを言うと、彼女に包帯を取られることなど苦痛だった。

包帯の下には乾燥しているとはいえ、数百年前に干からびて骨に張り付いた皮膚などがあるのだ。自分でも目を背けたくなるような姿を、どうして愛しい彼女へ見せられようものか。


これは決して、醜い姿を見られたくないという矜持のみならず、彼女のためでもあるのだ。そんな風に内心で必死に言い訳する己を、鋭いまなざしが射抜いてくる。


「貴方は、いつもそうよね」


全然、中身を見せてくれない……呟かれた言葉の意味が分からず、どういう事かと問いかける。色々な種類の笑顔を使いこなす彼女にしては珍しく、今の彼女は真顔だった。常にも増して何を考えているのかわからない様子に、とうの昔に無くしたはずの心臓が音を速めた錯覚にとらわれる。


「私だって、悪魔の端くれ。その包帯の下に隠されているのが生身の肌だなんて思ってやしないし、腐り果てウジが湧いた人間と一緒にいたことだってあるのよ」


普通であれば眉をひそめるような発言だが、そんな言葉を聞いても別のことが気にかかる。彼女は、何の目的をもって『そのような者』と共にいて、どんなことをしたのだろうか。堪えがたい嫉妬心が、胸の内をくすぶっているのが分かる。


「ねぇ……もう少し、心の内を私に見せてよ」


じゃないと、猫にすら嫉妬してしまうわなどと唇を尖らせるさまをみて、『嗚呼、自分はとうとう幻聴まで聞こえるようになったのか』と己が身を嘆いた。これまで、目や耳などをはじめとする器官を本来なら失っているはずなのに、どうして生きていた頃のように支障なく生活できるのかと不思議に思っていた。だが、とうとうボロが来たのか自分に都合のいい言葉が聞こえてくる。


……まさか、彼女が私を想い嫉妬してくれるなどと。

そんな幸福なことがあっていいはずがない。否定的な考えに支配されているこちらに、今度こそデビィがしびれを切らしたのか顔を白魚のような手で包まれた。


「こーんなに長いこと一緒にいるというのに、はっきり言わないと分からないの?」


「ナ、ニ…ヲ……」


目が泳いで、彼女を直視することが出来ない。

そうだというのに、赤いルージュが目に焼き付いて離れない。熟れた果実へ引き寄せられる鳥のように、本能的にそれを求めているのだろうか。


紅いあかい、それがこちらを誘惑するように近づいてくる。そんな誘惑から逃れるすべを持っていない私は、王族として失格なのかもしれない。就寝しようと潜ったベッドに、私を掌中に収めようと女の刺客が送られてきたこともあったけれど、娼婦まがいのあんな女の裸より、デビィの艶々とした唇のほうが誘惑にあらがい難い。


「玉座を抱き損ね、時に縛られた哀れな包帯男。私に夢中に御なりなさい」


早く私以外のことを考えられなくなって?そんな風に微笑んだ唇が、ようやく待ち望んだ場所へと押し付けられた。こんな体になった身で、どうしてそういった欲求がなくならないのか。今でこそ人間という存在から逸脱してしまったが、悪魔という存在である彼女に気安く触れてもよいものかという戸惑いはいつも抱えている。


―――そんな、彼女が。まるで自分を捕えろというように、私の手をとり自身の腰へ絡めさせた。


「サスガ、悪魔ト言ッタ所カ」


「あら、デビィと呼んでって言っているじゃない」


丸く艶々とした頬を膨らませ、媚びたようなまなざしで見つめてくる。

すべてが計算しつくされているようで、そのじつ未成熟な彼女の内面を表しているようにも見える。……どちらにせよ。


「モウ、トックノ昔ニ溺レテル」


自身の冷たい墓にも、国にも居場所をなくした私の手を引いてくれた時から、ずっと捕らわれたままだ。その後に向けられた彼女の笑みはあまりに清らかで、思わず目を覆いたくなるほど美しかった。




ギリシア神話のゼウスは、若い(しかも姪)ペルセポネを連れ去り、妻にしました。おまけにその方法が、自分の世界の果物であるザクロを食べさせることでした。

……色々アグレッシブ且つぶっ飛んだギリシア神話の内容の一つだから、なかなかハードだけどこのカップル嫌いじゃありません(笑)とりあえず、愛はあるよ。

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