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こんな夜は、たいまつを片手に  作者: 麻戸 槊來
つぎはぎと魔法
6/25

回転木馬で、不釣り合いな御伽話を


滅多に来ない遊園地で、フランケンと二人でとある乗り物の前にたつ。

どうにもこの楽しげな雰囲気になじめないし、予知できない行動をとる子どもたちが多いこの場にいるのは危険が多くて普段近づくこともない。ただ、今日だけは「不器用な二人にプレゼントをあげるわ」なんて言って小悪魔であるデビィがチケットを譲ってくれたから、どうせなら覗いてみようという話になったのだ。




……遊園地に着いてみて、初めて気づいた。

この遊園地には彼女が好きそうなキャンディーと、ミイラ男が好みそうな昆虫型のチョコレートが売っている。多分これは、自分たちのために限定品であるこれらを買ってこいということだろうと予想を付けた私たちは、苦笑しながら早々にお土産を購入した。


「そんなに食べたいなら、自分たちで買いに来ればいいのにねー」


「でびぃは、ようじある、いってた」


「私たちは、ていよく使われたってことね」


もしこんな事を違う存在がしたら、ひっぱたいてやるところだけど。

デビィには何かとお世話になっているし、一番この世を知り尽くしている彼女に逆らうことなど到底できない。フランケンの「たまには、こういうのもいい……」という言葉に無理やり納得して、「せっかくだから、みて回ろっか」とそう広くない遊園地を歩いてみることにした。


何の乗り物にのるわけでもないけど、凝ったデザインの遊園地内を回るだけでも意外と楽しめた。そんな中、思わず目を引かれた乗り物のまえで、人目もはばからず動けなくなってしまった。




きらきらとした光と、明るく楽しげなデザイン。

一昔前よりずいぶんと凝った演出だけど、私が家族と行った移動遊園地と大きくは違わない。懐かしいその姿に目を引かれ感じたのは、興味というより郷愁だった。


「まじょ?」


「うーん?なぁーに」


白い馬なんて世界的に見ても多いわけではないのに、その乗り物では綺麗な鬣を揺らし、利口そうな瞳は健康的にうるんでいる。宝石のちりばめられた鞍を見る限り、王族か何かの愛馬を模しているのだろう。まだ新しい遊園地だからか、子どもたちが足をかけるあぶみもまだピカピカしている。


自身はさほど王族にひいきにされていたわけではないけれど、物語に出てくる王子様が好みそうな馬だと、くすりと笑う。私が知っている王子は誰もへっぴり腰の格好付け屋か、無鉄砲な馬鹿ばかりだった。間違っても、こんなすらっとした高さもある馬を格好良く乗りこなせるとは思えない。


「ふふっ」


「なぜわらってる?これ、そんなにたのしいのか?」


「うーん、どうだろうね?」


見当違いなことで、大きな頭をうんうんひねりながら考え込むフランケンは、その容姿に似合わず可愛らしい。私の方はといえば、数百年経ても大きくは変わらないメリーゴーランドに、年甲斐もなくわくわくしている。



まだ家族と生活していた頃は、移動遊園地が来るという広告を見て憧れていただけで、一度も乗ったことはなかった。ただくるくると同じところを回るだけの人形に乗るよりも、生きた馬をフランケンと襲歩しゅうほしたこともあるというのに、何がこんなにも魅力的に感じさせるのか自分でも不思議だった。


馬に全速力を出させる襲歩では、それこそ爽快な気分になるのに、こんなにゆったりとした乗り物に乗りたいなんて、自分でも驚きだ。今は子どもたちに、この遊園地のキャラクターと間違えられているどんくさいフランケンだけど、意外や意外。彼が本気になれば、私では到底彼の操る馬に追いつけないほど早く走らせることが出来るのだ。動物は彼の優しい気質を感じ取るのか、手綱をつけずに走ることも出来てしまう。



フランケンは間違っても王子様役なんて勤まらないだろうけれど、馬に乗る彼はなかなか格好よくて見惚れたことも一度や二度ではない。しょうがないから、周りを囲む子どもたちを追っ払ってあげようとすると、珍しく自分の力で脱出してみせた。


「まじょ、いこう」


疑問形でも、伺いを立てる表現でもなく、フランケンが私の手を引く。

自分の握力を把握している彼は力を込めず、掬い取るように私の手を握る。くるくると回るおしゃれなメリーゴーランドに近づくと、ドキドキ鼓動が早くなるのを感じた。


メリーゴーランドが止まって、子どもたちが我先にと中へ走っていく。

お目当ての馬にまたがろうとする男の子や、馬車に嬉々として乗る女の子。はしゃぐ子どもたちを後から追いかける大人はみんな優しい目で、慈愛に満ちた表情をしている。……まるで、隣に立つフランケンのように。


「何で、そんなにフランケンが嬉しそうなの?」


「まじょ、めがきらきら」


「こんなもので、私が喜ぶはずないじゃない」


否定した言葉は我ながら浮かれた様子で、まったく覇気がなかった。

ふわふわと浮ついた気持ちでここまで来たけれど、いざという段階で怖気づいた。もしも選ぶなら断然青い目の白馬を選ぶけれど、子どもたちを押しのけてまで乗りたくはない。第一、初めて乗るメリーゴーランドはちょっと怖くて、どうしてこんな気持ちになるのか本当に理解が出来ない。


フランケンは、そんな私の気持ちに気付いたのだろう。

黒い目でもなく、茶色い鬣でもない馬の前まで私を導くと、優しくこちらを見つめている。


「あのーお客様?いかがなさいますか?」


しばらくそうしていると、みんな個々の乗り物を選び終わったのだろう。困ったように従業員の女性に話しかけられて、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。当たり前なことに、私たちのほかに大人だけで乗ろうとするグループなんてない。きっとフランケンの姿をみて、仮装好きの困ったバカップルか何かだと思われているのだろう。大人から向けられている目が、嫌に生温かく感じる。


いい加減にしろと罵倒されないのはありがたいけれど、それを喜ぶ心の余裕などありはしない。ちょっと憧れていただけで、回る姿を眺めていられれば満足だったのに。どうしてのこのこと、こんな中まで上がってきてしまったのかと、自分を恥じた。


「ご、ごめんなさい。すぐ出ます」


「まじょ」


「フランケン、誰も乗りたいだなんて言ってないのに勝手なことをしないでちょうだい!」


顔が赤いのをなんとか誤魔化そうと吠えて見せるけれど、フランケンは動揺した様子もない。ただゆっくりしゃがみこむと、すっと私の体を持ち上げて馬へと横向きにのせてみせた。


「まじょ、すぐおわる」


「やっ、ちょっ!」


「お客様、せっかくですから……」


ほとほと困り果てた従業員の女性と、わくわくした様子の子どもたち。そして何より、期待に満ちたフランケンの顔に負けて、私は大人しくメリーゴーランドを楽しむことにした。


本当の馬に乗っている爽快さや躍動感なんてみじんも感じられなかった。

考えていた通り、箒に乗って移動している時の方がよっぽど安定しているし、単調な動きはすぐに慣れてしまう。ただ、砂糖菓子を口に含んでいる時のような、ふわふわと甘く柔らかい優しい感じがして、自然と笑みを刻んでしまう。そんなしまりのない顔をしているだろう私を見て、突っ立っているだけのフランケンまで楽しそうに笑うのだから、おかしくて笑いが止まらない。私を支えるように傍に控える彼は、まるで子どもの頃にあこがれたおとぎ話の中の騎士様みたいだった。






結果として、ただ隣で私を見守っていただけのフランケンは甚くこの乗り物を気に入ったようで、「もういっかい、のろう」と何度も言われて、ずっとクルクル回り続けることになった。いろいろなアトラクションがある遊園地のため、さほど混んでいなかったのが幸いしたのか、閉館時間まで私たちはずっとこの空間を楽しんでいた。



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